2009年6月18日(木) |
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識者の方から過去の二つのPylaisiadelpha(コモチイトゴケ属)の標本について指摘をいただいた。No.114 (P. yokohamae ケカガミゴケとして掲載)とNo.149 (P. tenuirostris コモチイトゴケとして掲載)は逆ではあるまいか、とのご指摘をいただいた。そこで、この二つの標本を引っ張り出して、両者から最も標準的と思われる部分を取り出して比較してみた。
中国のナガハシゴケ科について詳細に記述した Tan & Jia の論文の検索表(1999 下記)からは、「葉の尖り方の違い」が明瞭な区別点として浮かび上がってくるという。
Tan B.C. and Jia Yu, 1999, A preliminary revision of Chinese Sematophyllaceae. J.Hattori Bot. Lab. 86: 1-70
それによれば、以下のように明瞭に区別できるという。
◎P.tenuirostris 葉先が細く長く尖り,先端は鋭い針状。先端部が大きく鎌曲り
◎P.yokohamae 葉先は狭三角形状に尖るが,先端はあまり鋭くない。ほとんど曲らず真っ直ぐ。葉先部は専ら長菱形細胞からなり,先端も針にならない。
まだ件の文献には目を通していないが、上記の指摘「葉の尖り方」について、二つの標本を比較してみることにした。上段にNo.114、下段にNo.149、対応するパーツを並べた。
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No.114 |
(a) |
(b) |
(c) |
(d) |
(e) |
(f) |
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No.149 |
(a') |
(b') |
(c') |
(d') |
(e') |
(f') |
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(a, a') 乾燥標本、(b, b') 乾燥標本の枝、(c, c') 湿らせた枝、(d, d') 同一枝の葉列挙、(e, e') 同一枝の葉、(f, f') 葉身細胞 |
乾燥標本を目視で比べたとき、まず第一に、ややごつごつした感触のNo.114と比べて、No.149はやや繊細で柔らく、葉の密集度が疎な印象をうけた(a, a')。数本の枝を実体鏡の下でみても同様の印象を受ける(b, b')。両者とも、湿らせると葉が展開するが、No.149の展開の仕方が大きい(c, c')。同一の茎から葉をそぎ落とし、それらの内から任意に8枚を並べた(d, d')。
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葉先 No.114 |
(g) |
(h) |
| 葉先 No.149 |
(g') |
(h') |
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No.114の葉は、ハイゴケの葉のように先端が鎌形に曲がったものが多いが、必ずしも先端が鋭い針状にはならない(e, g, h)。一方、No.149の葉にも、ハイゴケのように先端が鎌形に曲がったものがある(e', g', h')。カバーグラスを載せると、両者の葉の形は非常に似通っていて、有意差があるようには感じられない(e, e')。葉身細胞の形や大きさは両者ともよく似ている(f, f')。無性芽は、No.114は非常に少なく、No.149では豊富にみられる。
さて、No.114とNo.149の同定結果は訂正すべきかどうか。先にNo.114の観察をしたとき、たまたま選んだ葉は標本の全体像を反映していなかった。茎から外した葉には、ハイゴケの葉のように、先端が鎌形に曲がったものが多かった。しかし、「葉先が細く長く尖り,先端は鋭い針状」にはなっていない。となると、これは P.yokohamae ケカガミゴケのままで良さそうだ。No.149は葉先の形からみれば、P.yokohamae を示唆している。しかし、乾燥標本をNo.149と比較したとき、どう見ても同種とは思えない。したがって、現時点では当初の同定結果のままとしておきたい。
詳細な説明と、ご指摘ありがとうございました。
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