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2009年11月8日()
 
ミズゴケ:紫色だからといっても・・・
 
 さる9月に福島県南部で紫色をしたミズゴケ節 Sect. Sphagnum のミズゴケをいくつも採取した。それらはいずれも Galerina 属のミズゴケタケミズゴケタケモドキといったきのこのホストだった。ここではそれらのうちから、標本No.744とNo.749の両者を比較してみた。
 両標本とも観察覚書にはアップしていない。No.744は福島県南会津町で採取(alt 1200m)、No.749は福島県只見町で採取(alt 700m)したもので、いずれも、茎の途中から Galerina 属のきのこが出ていた。両標本ともに、ホストの同定のための観察しかしていない。したがって、以下の画像は観察覚書の画像とは違って、手抜きをした汚い画像となっている。
 
No.744 (a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)

No.749 (a')
(a')
(b')
(b')
(c')
(c')
(d')
(d')
(e')
(e')
 両者ともに紫色をしていたが、No.744はやや赤味が強く(a, b, c)、No.749は褐色味が強かった(a', b', c')。ただ、No.744は直射日光下で撮影し、No.749は日陰で撮影したので、単純に比較はできない。乾燥標本を水で戻したときの色が比較的両者の違いを表している(c, c')。両標本ともに、枝の表皮細胞には螺旋状の肥厚がありミズゴケ節を示している(d, d')。
 茎葉上部の葉身細胞をみているときまでは、両標本ともにムラサキミズゴケ S. magellanicum ではあるまいかと思っていた(f, f')。ところが、枝葉の背面(g, g')と腹面(h, h')をみると、どうやら両標本は別種らしいと気づいた。No.744では、枝葉の葉緑細胞は背面(g)にも腹面(h)にも出ていない。No.749では、葉緑細胞が背側には出ていないが(g')、腹側に大きく広がっている(h')。複数の葉で枝葉の横断面をいくつか切り出してみた(i, j, i', j')。
 
No.744 (f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)

No.749 (f')
(f')
(g')
(g')
(h')
(h')
(i')
(i')
(j')
(j')
 ムラサキミズゴケであれば、枝葉の横断面で葉緑細胞は背側にも腹側にも出ず、透明細胞に包まれて中央にある。したがって、No.744はムラサキミズゴケでよさそうだが、No.749は植物体こそ紫色をしているがムラサキミズゴケではない。枝葉の横断面で葉緑細胞に接する透明細胞の壁は平滑だから、オオミズゴケ S. palustre ということになる。
 
No.744 vs. No.749 (k)
(k)
(k)
(l)
 あらためて、両標本を引っ張り出してきて水で戻した後、並べて撮影してみた(k, l)。こうやって並べてみるとムラサキミズゴケ(No.744)は赤紫色、オオミズゴケ(No.749)は紫褐色だ。ただ、過去には赤紫色に近い色を帯びたオオミズゴケやフナガタミズゴケ S. imbricatum に何度か出会っているから、先入観は禁物だろう。ただ、ミズゴケ節のミズゴケは、枝葉の横断面さえチェックすれば種の同定は楽にできるようだ。