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一昨日日光で採取したホシアンズタケの胞子を観察した。保育社の「原色日本新菌類図鑑」によれば、「胞子紋は淡紅色、胞子は類球形、粗面」となっている。しかしこの記述には長いこと釈然としないものを感じていた。これまでみてきたホシアンズタケの胞子紋は淡紅色ではなく白色ないし類白色(a, b)だし、粗面という表現も適切とは思えない。 スライドグラスに胞子紋を採取した。白い紙をバックに撮影したらどの部分が胞子紋なのかわかりにくいので、フォトショップを使って全体の明度を下げた(a)。黒い紙をバックに撮影したものをみても暗い類白色である(b)。ではなぜ淡紅色と記述されているのだろうか。 ホシアンズタケの柄は普通濃紅色の液滴を伴っている。そしてこの液滴は柄表面からばかりではなく、ヒダからも染み出してくるように見える。傘表面は厚いゼラチン質の膜に被われているが、これは傘表皮ばかりではなくヒダ面にまで及んでいる。このために胞子紋を採るのは意外と難しい。傘を伏せて放置しても胞子が全く落ちず、ピンクの液でビショビショになってしまうことも多い。白い紙などに傘を伏せた場合、胞子紋というよりも淡紅色のシミができる。このシミには多数の胞子が含まれている。 ホシアンズタケは国内でも「稀」、海外でも「rare」とされている。このため採取個体も少なく、純粋に落下胞子だけが採取されたケースは意外と少ないのではないか。液滴にまみれた淡紅色のシミが判断を狂わせ「胞子紋は淡紅色」という記述になったのではないか。海外の文献にも淡紅色と記述されたものがあるが、これも同じ理由によると考えられる。あるいはピンク色の胞子紋を持つ個体があるのだろうか。 次に胞子は「粗面」とあるがこれもあまり適切な表現とは言いがたい。正確には「微細な疣状ないし鈍針状の突起に被われている」と言った方がよい。(c, d)はメルツァー液中で胞子表面と輪郭に焦点をあわせたもの、(e)はフロキシンで胞子輪郭をみたものである。フロキシン入りのマウント液が蒸発してしまいドライ状態になってしまったものが(f)である。「粗面」には違いないが、そういった表現で一言で片付けるにはあまりにも表情豊かな模様である。ちなみに、山渓谷カラー名鑑「日本のきのこ」では「有刺」と記述されている。 |
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