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先月フクロシトネタケらしき子嚢菌の胞子を検鏡したが(雑記2008.5.22)、試薬によっては判断を誤りがちなケースがあるので、メモを残しておくことにした。さらに、子嚢菌の場合、十分に成熟した個体を調べないと、子嚢胞子の表面模様や形が未完成でやはり判断を誤りやすい。 先の子実体は採取時には全く未成熟であったが(a)、やく1ヶ月ほど追培養した結果、胞子を放出するまでに成熟した(b)。以下の観察はすべて完熟個体の胞子で行ったものだ。 |
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最初にドライ、つまり封入液を使わずカバーグラスをかけただけの状態で胞子をみた(c)。胞子表面には、隆起して、部分的に網目状となった模様がみえる。これに水道水を加えた(d)。胞子の表面模様は疣にも網目にもみえる。胞子の両端には顕著な嘴状突起がある。 水道水で封入したものにフロキシンを加えた(e)。特に変化はなくメリットもなさそうだ。最初からアンモニアで封入してみた(f)。表面模様や嘴状突起はドライや水道水と同じようにみえる。アンモニア水は弱アルカリだから、弱いアルカリであれば、変化はないのだろうか。 ところが、3%KOHで封入すると胞子の様相が一変した(g)。表皮部分や嘴状突起が消失している。どうやらこの胞子の表皮や嘴状突起は弱アルカリでも溶けてしまうらしい。フロキシンを加えて再確認してみた(h)。ごく一部の胞子にだけ表皮と嘴状突起がわずかに残っていた(i)。30%KOHを使うと、表皮や嘴状突起は直ちに全くなくなってしまった。 コットンブルーで封入した場合も、大部分の胞子では、表皮部分が大きく膨潤してしまった(j)。希硫酸で封入してみると、水道水で封入した場合と同様に、表面模様や嘴状突起に変化はない(k)。ところが、濃硫酸を使うと、これまた30%KOH同様に、表皮部分と嘴状突起は完全に失われてしまった(l)。濃硝酸でも事態は同じだった。 乾燥標本などから胞子を確認する場合、最初にドライないし水で観察をしないと、判断を誤るケースが多々ある。この場合、子嚢胞子の表皮部分と嘴状突起は、同じ弱アルカリでもKOHでは溶けて消失し、アンモニアでは溶けないで残る。さらに、弱酸では消失しないが、強酸ではすっかり溶けてなくなってしまう。これとよく似た現象に、担子菌のシスチジア先端の結晶構造、担子器の先端のステリグマ(担子柄)などが、弱アルカリや弱酸などで溶けてしまうことがある。 |
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