2015年10月11日() ときには顕微鏡も役立つ:状況証拠の収集
 先週の金曜日(10/9)に中禅寺湖畔を散策した折に出会った地上生のきのこ(a, b)は、現地ではキシメジ科だろうとは推測されたが、何属のきのこなのかわからなかった。
 現地でわかったことといえば、カサにヌメリがなく、柄が中実で表面は繊維性(b, c)、ヒダの付き方が上生(c, d)、親ヒダがカサ縁近くで分岐している(e)、縁シスチジアがあるらしい(e)、等だった。自分たちのこれまでの知識・経験からは何属のきのこかよくわからなかった。
 持ち帰ったきのこをカバーグラスに伏せて一晩置いたが、胞子紋は全く落ちなかった。そこでヒダの一部をピンセットでつまみ出して、押しつぶしてみたところ、胞子は全く見られず、先端に結晶が付着したシスチジアが観察された(f, g)。胞子が落ちなかったのは未成熟と思われる。ヒダやカサ肉の菌糸をいくら観察してもクランプは見つからなかった(h)。
 あらためてヒダ断面を切り出してみた(i)。押しつぶし法でみられたシスチジアは縁シスチジアのようだ(i, j)。ヒダ実質の構造は(逆)散開型や錯綜型ではなく、単純な並列型で(j)。胞子をつけた担子器はほとんど見いだせなかったが、よくみると僅かに楕円形の胞子らしきものがみえた(k)。フロキシンで染めて担子器やシスチジア、クランプの有無などを再確認してみた(l)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 わかったことは、柄表皮が繊維性、ヒダの付き方が上生、ヒダに分岐がある、ヒダ実質が並列型、特徴的な縁シスチジア、菌糸にクランプ無し。胞子は楕円形らしい。これらの状況証拠から導き出される属といえばザラミノシメジ属(melanoleuca)となる。このきのこはおそらくコザラミノシメジだろうが、決定的な証拠が見つからない。そこで昨日の雑記(2015.10.10)ではザラミノシメジ属と記した。自分たちの基準からすればキノコは属レベルまでわかれば十分だ。


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