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[標本番号:No.121   採集日:2007/02/25   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:ホソバオキナゴケ   学名:Leucobryum juniperoideum]
 
2007年3月6日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 栃木県の鍾乳洞近くで、杉の基部樹幹をシラガゴケ科の蘚が厚くおおっていた。シラガゴケ科の蘚類については、ホソバオキナゴケ(覚書2006.12.10同12.11)とオオシラガゴケは既に観察しているが、この日(2/25)みたものは、それらのどちらとも違っているように感じた。ホソバオキナゴケにしては大きく光沢があるように思えたので、持ち帰ってしらべてみることにした。
 全体にやや光沢があり、茎は高さ3〜4cmで、基部でわずかに枝分かれし、乾いても葉は枝に密着しない(b, c)。葉は長さ5〜8mm、長卵形で凹んだ基部から次第に細くなり、披針形に延び、先端付近では葉は強く内曲する(d, e)。葉の先端は尖る。
 葉身細胞は、最表面に焦点を合わせてみると、葉緑体を持たない大きく薄膜の平行四辺形、その下部に焦点を合わせると、葉緑体に満たされた帯状の細胞がみられる(f)。この科の蘚は葉身細胞の背と腹に透明な大型細胞があり、それらが中央の小さな葉緑体で満ちた細胞をサンドイッチ状に挟んでいる。
 最初に葉の2箇所で横断面を切り出した(d, g)。(イ)の部分では、断面で菱形の小さな葉緑細胞を薄膜の大型透明細胞が挟んでいる(h)。葉の中央部の広くなったところでは、葉の幅こそ広くなるが全体の構造は同じようなものとなっている。
 次に、写真(d)の(ロ)よりもさらに基部に近い部分で横断面を切り出した。中央部では、葉緑細胞が、腹側も背側も1層の細胞に挟まれ細身になっているが、その左右では、葉の厚みが増して、腹側で2層、背側で2〜4層の透明細胞に挟まれている(i)。茎の断面をみると、表皮細胞は薄膜の細胞からなり、中心束は不明瞭かほとんどみられない(j)。
 採取した標本は朔を失った朔柄が無数についていたが、ごくわずかに朔が残っていた(k)。既に帽や蓋はみられなかったが、朔葉は16枚で、内外2層1層からなり、朔は乾燥すると表面に縦の稜のようなシワが入る(l)。朔歯の各裂片は2枚に割れ、先端は微疣をもった針状となっている。
 どうやら、この標本もホソバオキナゴケ Leucobryum juniperoideum のようだ。そのうちに、アラハシラガゴケやシロシラガゴケに出会うことができるだろう。

[修正と補足:2009.12.20]
 標本No.820を観察してあらためて、朔歯が一重であることを確認できた。上記該当箇所に取消線を引き、青文字で「1層」と修正した。なお、図鑑には明瞭に「朔歯は一重」と記されている。