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[標本番号:No.124   採集日:2007/02/25   採集地:栃木県、佐野市]
[和名:ヒノキゴケ   学名:Pyrrhobryum dozyanum]
 
2007年3月8日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 2月25日に佐野市の山中でヒノキゴケに出会ったので、ここでやや詳細な写真を残しておくことにした。このこけに初めて出会ったのは、2月11日静岡県寸又峡温泉だったが、その時点ではヒノキゴケという名も知らなかった(覚書2007.2.15)。大型で繊細なとても印象的なコケだ。
 沢沿いの腐植土からなる北斜面のあちこちに群落を作っていた(a)。この斜面にはコウヤノマンネングサやオオスギゴケなども多数群生していた。50〜80個体が密集してひとつの群を構成している(b)。朝早い時刻だったが、日なたの群はすっかり乾燥して縮れていた(c)。気温がマイナス2〜4度ほどだったので、日陰の群の多くはまだ凍ったり霜を被っていた(d)。
 この日出会った群は、高さ8〜12cmで、分枝した個体もわずかにみられた(e)。直立する茎は中程から下は褐色で、仮根を多数まとっている。葉は密につき、茎の中程が最も大きく、先や下部では小さいため、中央部がふっくらして確かにイタチの尻尾を連想させる。
 葉は細長い披針形で先端が尖り、長さ8〜12mm(f)、葉縁には双生の鋭い歯をもつ(g, j)。双生の歯は顕微鏡の焦点位置を変えないと、同一画面上には撮影できない(i)。太い中肋が葉先にまで達し、背側には鋭い歯をもつ(h)。
 葉身細胞は、先端も中程も丸みを帯びた矩形〜多角形で、差し渡し8〜16μm、厚い細胞膜を持つ(j, k)。翼部の葉身細胞は特に分化することなく、20〜30μmの長めの矩形(l)。
 歯の横断面を数ヶ所で切り出してみた(m, n)。中肋は横断面で三角形をなし、葉先では正三角形、葉の基部近くでは直角二等辺三角形のような形をしている(n)。葉の縁は顕著に厚くて2細胞層からなることが分かる(n, p)。
 葉先付近の横断面を縁の歯と中肋の歯をつけた部分で切り出した。大きな歯を確認できるように、かなり厚めに切り出したので、ピントが甘くなる。しかし、薄切りにすると、歯の形が不明瞭となってしまう。合焦位置を変えて撮影したものを1枚に合成した(o)。
 葉の縁の2細胞となっている部分を、縁の平行に切り出してみた(q)。確かに2細胞からなっている。茎の断面をみると、表皮部分は厚壁の小さな細胞、その内側に厚膜のやや大きめの細胞があり、中心部にいたって薄膜の細胞からなっている。はっきりした中心束はみられない。
 この次ヒノキゴケに出会っても、朔をつけていなければ、もはや詳細な観察をすることはなさそうだ。おそらく、採集することもあるまい。