Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.225   採集日:2007/05/04   採集地:福島県、棚倉町]
[和名:ヤノネゴケ   学名:Bryhnia novae-angliae]
 
2007年6月7日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 4月末に採取したコケの観察がようやく一段落したので、5月のゴールデンウイークに採取したコケに手をつけることができるようになった。今朝は、福島県棚倉町で小川脇の腐植土に転がる腐木についていた蘚類を観察した(a, b)。
 コケは腐木上にやや光沢のあるマットを作っていた。茎は這い、二次茎を伸ばし、不規則に枝分かれし、枝が斜上気味に立ち上がる(b, d)。葉は乾いても縮れることなく、あまり姿は変わらない(c)。枝は長さ3〜4mm、あまり枝に接することはない。
 茎葉は、長さ1.5〜1.8mm、基部は広い三角形〜卵状披針形で、葉先は細くのび、葉縁には微歯があり、中肋が葉長の2/3〜4/5まで達する(e, g)。枝葉は、長さ1.0〜1.5mm、卵状披針形で、中肋は葉の1/2〜2/3まで達し、葉縁には微歯がある(f, g)。枝葉のには、基部が細長く下延しているものもある(h)。茎葉にも枝葉にも弱い縦皺がある。
 葉身細胞は、茎葉も枝葉もほぼ同じで、葉の中央部や縁では、長楕円形〜線形で、長さ35〜55μm、幅4〜6μm、翼部の細胞は矩形の大きめの細胞からなる(i)。茎葉の中央付近で横断面を切ってみると、丸みを帯びた弱い中肋の左右にほぼ直線上に伸びていて、縦皺はほとんど見られない(j)。枝葉の横断面はシワのために波打っている。枝葉の各部の中肋をみるとステライドはほとんど見られない(k)。茎の表皮は厚壁の小さな細胞からなる(l)。

 観察結果からヤナギゴケ科あるいはアオギヌゴケ科の蘚類と思われた。茎や枝に毛葉はなく、葉の翼細胞が明瞭な区画を作ってはいないので、ヤナギゴケ科は考えなくてよさそうだ。アオギヌゴケ科の検索表をたどると、枝葉はあまり覆瓦状にならず展開し、葉先が長く尖り、葉身細胞は平滑なので、アオギヌゴケ属と考えられる。
 アオギヌゴケ属の分類は難しいとされる。属内の検索表をたどると、保育社の図鑑では、該当種が見あたらない。やむなく掲載種をすべてあたってみたが、いずれも観察結果に近いと思われる種がない。つぎに、平凡社の図鑑でアオギヌゴケ属の検索をたどることにした。候補として残るのは、ヤリヒツジゴケ Brachythecium hastile、ノグチヒツジゴケ B. noguchiiのいずれかである。ところが、この両者ともに、名称のみで種の具体的な記述は載っていない。
 そこで、Moss Flora of Japanにあたることにして、属の検索表からやりなおしてみた。やはりB. hastile と B. noguchii に落ちる。両者についての記載を読んでみると、何となく B. hastile が近いように思える。植物体の図や写真はないが、他に該当する種が見つからないので、暫定的にヤリヒツジゴケ B. hastile として扱っておくことにした。種形容語の hastile は「ほこ形の」という意味だが、これは葉の形に由来しているのだろうか。

[修正と補足:2007.6.7. pm5:00]
 識者の方から「ヤノネゴケと思われます」とのご指摘をいただいた。ヤノネゴケだとすれば葉身細胞の上端に小さな突起があるはずである。あらためて、何枚かの葉の背面の葉身細胞をじっくりと調べてみた(m, n)。合焦位置を変えてみると、確かに小さな突起がある(o)。1000倍で突起の先に合焦してみた(p)。見落としそうな小さな突起だ。ヤノネゴケと訂正である。適切なご指摘に感謝します。ありがとうございました。

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
 観察結果から図鑑の検索表にあたったときに、「葉身細胞が平滑」と思い込んだことが誤同定に結びついたものだ。葉身細胞上部の微細な突起は、見落としやすいものなのだろうか。ヤノネゴケを観察したのは、これで3度目になるが(No.62:1月8日No.174:4月13日)、一度として自力で正しい種名にはたどり着けていない。今回で3度目になるが、ヤノネゴケは何度見てもわからない。パターン認識能力の欠如だろうか。