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[標本番号:No.220   採集日:2007/05/04   採集地:栃木県、那須塩原市]
[和名:クサゴケ   学名:Callicladium haldanianum]
 
2007年6月27日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月初め、いわゆるゴールデンウイークの時期に塩原温泉で採取したコケである。先月観察したのだが、その折りには全く手に負えず、そのままになっていた。いずれ分かるようになるだろうと考えていたが、今になっても属どころか、科レベルの判定もできなかった。
 標高600m、陽当たりのよい沢の畔に転がっていた材の樹皮についていた(a)。全体に光沢があり、直立ないしやや傾いた朔をつけていた。茎ははい、不規則に枝をだし、乾燥しても葉は枝に接することなく、湿時とあまり変わらない(b)。茎や枝に毛葉などは見られない。
 茎葉は長さ1.2〜1.5mm、枝葉は長さ1.0〜1.2mm、ともに卵状披針形で、先端は細く、全縁、中肋は無いか基部にごくわずか2本ある(c, d)。葉身細胞は茎葉でも枝葉でも、ともに線形で長さ70〜90μm、幅3〜5μm、平滑である(e)。葉先では幅広で短く(f)、翼部では大型楕円形〜矩形の薄膜の細胞が発達している(g)。葉の断面をみると、細胞壁は意外と厚い(h)。
 枝と朔柄の断面を切って並べてみた。構造はよく似ていて、表皮細胞は厚膜で小さい。中心束はあるが弱い(i)。朔柄を包む苞葉は先端が長く糸状に伸びている(j)。朔柄は長さ2〜3cm、朔はやや傾いて、非相称(j)。朔歯と朔壁をみた(k)。内朔葉の表面には横に条線がつき、間毛の表面は小さなパピラに覆われている。朔壁は1層で、内側に袋状の膜を伴っている(k)。
 朔には帽はすでに消失して、いずれも内外朔歯が露出していた。さらに、胞子はほとんど放出したあとだった。乾湿に応じて開き具合が変化する朔歯を楽しんだ(l)。

 サナダゴケ科かナガハシゴケ科ではないかと考えたが、ナガハシゴケ科の可能性が高いと思うようになった。腋蘚類で中肋は不明か双生、無性芽や鞭枝はなく、翼部の細胞は少数で大きく、朔柄は平滑。葉先は鎌形にならず、葉縁は全縁、朔は直立〜やや傾き、非相称。
 いくつかの検索表にあたると、ナガハシゴケ属ないしカガミゴケ属にたどりつくケースが多かった。しかし、それぞれの属内の種に該当するものが見つからない。何か観察間違いをしているのだろうか。あるいは科の判断そのものが大きく誤っているのだろうか。

[修正と補足:2007.06.27 pm.5:10]
 識者の方から、クサゴケに似ているようだ、とのご指摘をいただいた。クサゴケは以前3回ほど観察している(標本No.202No.176No.15)。採取した折り、クサゴケかもしれないと思った。クサゴケであれば披針形の偽毛葉があるはずだ。ところが、何本かの個体にあたったところ、偽毛葉が見られない。そこで、クサゴケの線は捨てた経緯がある。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
 先入観を捨てて、標本を見直してみた。まったく偽毛葉の見られない個体が多かったが、いくつかの個体の茎に披針形の偽毛葉があった(m, n)。
 あらためて、平凡社の図鑑の偽毛葉の説明を読むと、以下の様に書いてある。
蘚類の茎の表面を詳しく観察すると、将来枝になる原基を見ることがある。茎がはう種では、原基は茎の左右に規則的に配列することが多く、その周りには毛葉に似たものが見られることがある。これは原基のまわりだけにあるので、偽毛葉とよばれる。偽毛葉の有無や形は、シトネゴケ目の属や種を分ける重要な形質の一つである。
 この文意を読み間違えていたようだ。太線(筆者)で記したように、「必ず偽毛葉がみられる」のではなく、「偽毛葉が見られることがある」のだ。したがって、偽毛葉をもたない個体もあることになる。また、偽毛葉が無いからクサゴケではない、といった論理はなりたたない。
 しかし、それでは釈然としないので、偽毛葉をもつ個体を探した結果が、上記の写真(m, n)であった。この標本をクサゴケとしてみると、観察結果と図鑑の記述との大きなズレはなく、ほぼよさそうだ。ご指摘、ありがとうございます。