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[標本番号:No.300   採集日:2007/08/22   採集地:山梨県、鳴沢村]
[和名:タチハイゴケ   学名:Pleurozium schreberi]
 
2007年9月19日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 富士山の標高1,600〜2,200mあたりでイワダレゴケと混生しながら、針葉樹の林床を広く覆っているコケを数ヶ所から採取した(a, b)。標高1,800mあたりで採取したものを観察してみた。
 大型でしっかりしたコケである。茎は赤色で、斜めに立ち上がり、不規則に羽状に分枝し、長さ8〜15cm、やや鈍い光沢がある(c, d)。枝には覆瓦状に多数の葉を密集させている(d, e)。葉は乾いても縮れることなく、茎葉は卵形で、長さ2〜3mm、全縁で葉先は丸みをもち、全体が大きく凹み、中肋は基部に2本見られるが、不明瞭な葉も多い(f)。茎にも枝にも毛葉はない。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 茎葉の葉身細胞は、中央部では、線形で長さ80〜150μm、幅5〜7μm、平滑である(h)。茎葉の頂部では、楕円形で幅広の細胞もあり(g)、基部の翼部は、褐色の大型細胞が明瞭な区画を作る(j)。横断面でみると、翼部では複数細胞層の厚みがある(j)。
 一方、枝葉は茎葉より一回り小さく、長さ1〜2mm、長卵形〜卵状披針形で、葉は凹み、鈍頭〜円頭で全縁、中程から上部の縁は内側に折れ曲がり、尖ったように見える。中肋は2本あるが非常に弱い(k)。枝のどの部分からとるかで、枝葉の大きさにはかなりの幅がある。
 枝葉の葉身細胞は、中央部では、線形で長さ50〜90μm、幅3〜5μm、平滑であるが(m)、葉頂部付近では、幅が広がり長さも短い(l)。枝葉の翼部の細胞も、茎葉同様に、他と明瞭に区画をなし、褐色の大型細胞からなる(n)。翼部を横断面でみると、複数細胞の厚みがある(p)。茎と枝の横断面をみると、弱い中心束をもち、表皮細胞は厚膜の小さな細胞からなる(q, r)。

 観察結果はタチハイゴケ属の蘚類を示唆している。平凡社の図鑑をみると、日本産は1種類で、タチハイゴケ Pleurozium schreberi 1種類のみとなっている。主についての解説を観察結果と照合すると、ほぼ合致する。図鑑には、茎葉の葉身細胞のサイズを記していないが、観察した標本では、いずれも上記のように、枝葉のそれよりもずっと長い。
 ここまで観察していく過程で、先にタチハイゴケとした標本No.29(2006.11.7観察)はどうやら別種と思われる。枝はの先が尖り、翼部は緑色である。このNo.29は折を見て再検討しなくてはならないが、いったん [修正と補足] を加えて、タチハイゴケからハイゴケ科不明種に変更した。