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[標本番号:No.588   採集日:2009/02/07   採集地:静岡県、河津町]
[和名:エダツヤゴケ   学名:Entodon flavescens]
 
2009年2月20日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a〜b) 植物体、(c) 半乾燥時、(d) 湿時、(e) 乾燥時、、(f) 乾燥状態、(g) 茎と枝、(h) 茎葉、(i) 茎葉 [サフラニン染色]、(j) 茎葉中央、(k) 茎葉下部、(l) 茎葉上部

 2月7日の伊豆旧天城トンネル近くの沢(alt 630m)で、ツヤゴケ科 Entodontaceae と思われるコケが樹木の根元〜転石を一面に覆っていた(a, b)。標本は紙袋の中で半乾燥状態だったが(c)、水没させるとすぐに生時の姿に戻った(d)。冬場の関東は非常に乾燥しているため、数時間放置しただけですっかり乾燥して、全体が丸みを帯びた(e, f)。
 植物体は光沢があり、茎は長さ6〜10cm、密に羽状に分枝し、枝はさらに小枝を出す。茎や枝には毛葉などはなく、茎葉は扁平につく(g)。茎葉は卵形で葉先は尖り、長さ2〜3mm、葉縁はほぼ全縁、非常に弱く短い中肋が2本ある(h, i)。中肋の全く見られない茎葉も多い。
 茎葉の葉身細胞は、線形で、葉身中央では長さ50〜70μm(j)、葉先では長さ30〜50μm(l)、いずれも幅は5〜6μm、平滑でやや厚壁だが、翼部の葉身細胞は方形〜矩形の大形細胞が並び、一層で、葉身部より壁は薄い(k)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 枝葉、(n) 枝葉、(o) 枝葉上部、(p) 枝葉中央、(q) 枝葉下部、(r) 枝葉横断面 [サフラニン染色]、(s) 茎の横断面、(t) 枝の横断面 [サフラニン染色]、(u) 胞子体基部と苞葉、(v) 苞葉、(w) 苞葉中央、(x) 苞葉下部

 枝には小枝、孫枝があり、葉の大きさは長さ0.3〜1.4mmと大きな幅がある。写真(m)は比較的大きめの枝葉。葉の大きさにかかわらず、葉身細胞の形と大きさにほとんど違いはない。
 枝葉は卵形で鋭頭、葉上半の縁には目立たない微細な歯があり、短く弱い中肋が2本ある(m〜o)。葉身細胞は線形で長さ35〜65μm、幅5〜6μm、やや厚壁で、表面は平滑(p)、葉先付近ではやや短い(o)。翼部がよく分化・発達しており、葉身細胞は大形薄膜で矩形(q)。枝葉下部の横断面をサフラニンで染色してみた(r)。茎の横断面(s)、枝の横断面(t)をみると、中心束があり、表皮はやや厚壁の小さな細胞が並ぶ。
 苞葉は幅広い基部から急に細くなって尖り、朔柄の基部付近だけを覆う(u, v)。中肋の有無ははっきりしない。苞葉の葉身細胞は、長い線形で、長さ60〜90μm、幅6〜8μm(w)、基部では矩形の大きな細胞が並ぶ(x)。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(ae)
(ae)
(af)
(af)
(ag)
(ag)
(ah)
(ah)
(ai)
(ai)
(aj)
(aj)
(y) 朔、(z) 蓋と朔、(aa) 朔歯、(ab) 朔歯上半、(ac) 外朔歯下半、(ad) 内朔歯下半、(ae) 胞子、(af) 朔基部の気孔、(ag) 朔横断面、(ah) 朔壁横断面、(ai) 朔内皮表面、(aj) 朔柄の横断面

 採取標本は胞子体を豊富につけていた。朔柄は赤褐色で長く、長さ3〜4cm(c, d)、朔は円筒形で直立し相称、長さ3.5〜4mm、帽は僧坊形で、蓋の中央は嘴状となり(y)、蓋を外すと長く伸びた朔歯が出てきた(z)。朔歯の枚数は数えられなかったが、内外2重で、内朔歯の発達は悪く、内朔歯の基礎膜は外朔歯に張り付いたような状態で、基礎膜は至って低く、そこから伸びた歯突起が、外朔歯の間に細く針状に伸びている(aa〜ad)。口環はよく発達している。
 胞子は球形で、径12〜18μm(ae)、朔の基部には気孔があり(af)、朔の横断面をみると(ag)、厚壁の外表皮と薄壁の内皮がよくわかる(ah, ai)。朔柄の横断面にも、配偶体の茎や枝の横断面とよく似通った中心束のような構造がみられる(aj)。

 茎に毛葉がなく、葉に光沢があり、葉は2本の短い中肋をもち、葉身細胞は線形、朔は直立し相称、内朔歯の発達が悪く、翼部がよく発達していること、などからツヤゴケ属 Entodon の蘚類だろう。平凡社図鑑の種への検索表をたどると、エダツヤゴケ E. flavescens に落ちる。種の解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。
 これまでエダツヤゴケの学名に保育社図鑑で使われているシノニムのE. rubicundus を使っていた。基本的に平凡社図鑑で使用されている学名に準拠することにしているので、ここで過去の3点(標本No.241同No.362同No433)の学名の種小名を flavescens に修正した。