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[標本番号:No.665   採集日:2009/07/05   採集地:群馬県、沼田市]
[和名:アオモリミズゴケ   学名:Sphagnum recurvum]
 
2009年7月19日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b, c) 乾燥標本、(d) 水で戻した標本、(e, f) 開出枝と下垂枝、(g) 茎と茎葉、(h) 茎の表皮、(i) 茎の横断面、(j, k) 茎葉、(l) 茎葉の先端

 先日ミズゴケから生えるキノコの観察に群馬県沼田市の湿原(alt 1200m)を訪れた。ミズゴケタケが発生しているホストの一つはオオミズゴケであることが確認できた。もう一つのホストである細身のミズゴケを確認して観察した(a〜f)。標本No.663(アオモリミズゴケ)とは1km以上離れた別の場所で、ミズゴケは水位の低いやや乾燥気味の場所に出ていた。
 観察をはじめて茎葉をみたとき(g, j)、サンカクミズゴケ Sphagnum recurvum var. brevifolium だろうと思った。多くの茎葉が正三角形気味で、茎葉の縁の舷が広く、基部では全面に広がっていたことや、下垂枝の葉中央の透明細胞に多くの偽孔がみられたことによる。
 改めて、同一個体の別の部分の茎葉や枝葉などを精査した結果は、どうやらアオモリミズゴケとするのが妥当と考えるに至った。そこで、今日は文字による詳細な記載はせずに、観察した部分の画像を列挙することにした。同じ茎の上部(k)と下部(j)では茎葉の様子が異なっていた。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(m) 枝の表皮、(n) 枝の横断面、(o, p) 開出枝の葉、(q) 開出枝の葉背面上部、(r) 同:背面中央、(s) 同:腹面上部、(t) 同:腹面中央、(u, v) 下垂枝の葉、(w) 下垂枝の葉背面上部、(x) 同:背面中央、(y) 同:腹面上部、(z) 同:腹面中央、(aa, ac) 開出枝の葉横断面, (ab, ad) 下垂枝の葉横断面

 肉眼的には、先に近隣の湿地で採集した標本No.663と比較すると、枝葉がやや疎につき、全体にほっそりした印象を受けた。また、常時水に浸るような環境ではない場所に出ていたこともひっかかった。そこで改めて、茎葉の形と舷の様子、枝葉の横断面を数多く確認してみた。
 いずれにせよ広義のアオモリミズゴケ S. recurvum には間違いない。多くは沈水性のミズゴケであり、茎の横断面で表皮細胞と木質部との境界が不明瞭、茎葉は正三角形〜卵状三角形、枝葉の透明細胞は背側により広く開き、枝表皮のレトルト細胞の首は短く、乾燥すると枝葉の縁が波打つ、などなどは共通する。
 アオモリミズゴケの変種とされるサンカクミズゴケとコサンカクミズゴケの両者は、枝葉の横断面で透明細胞は背面に広く開くが腹面には出ないとされる。一方、アオモリミズゴケでは腹面に達している、とされる。また、コサンカクミズゴケでは下垂枝の葉背面の透明細胞の上端に貫通する大きな孔があることが特徴とされる。サンカクミズゴケの茎葉の舷は葉基部では中央に達するほど広く広がっているとされる。本標本ではこれらの特徴はみられない、そこで、アオモリミズゴケと判断したしだいだ。なお、完全に沈水状態のミズゴケ類からはミズゴケタケキミズゴケノハナといった繊細なきのこは発生しないようだ。