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[標本番号:No.800   採集日:2009/12/02   採集地:埼玉県、越生町]
[和名:キャラボクゴケ   学名:Fissidens taxifolius]
 
2009年12月07日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 標本:乾燥時、(c) 同前:水没状態、(d) 標本一株、(e) 葉、(f) 葉の上半、(g) 上翼の葉身細胞、(h, i, j, k) 葉の横断面:上部から基部へ、(l) 茎の横断面

 沢沿いの林道脇の小石混じりの土斜面に小さなホウオウゴケ科の蘚類が着いていた。茎は、葉を含め長さ3〜6mm、5〜14対の葉を密につけ、基部でまばらに枝分かれする。葉は披針形〜楕円状披針形で、長さ2.0〜2.5mm、葉頂はわずかに突出し、乾燥すると強く巻縮する。葉縁には全周にわたって微細な歯がある。中肋は葉頂近くに達し、わずかに突出する葉もある。
 上翼の葉身細胞は六角形で、長さ10〜12μm、中央にひとつの乳頭がある。中肋に近い部分の葉身細胞には長さ15〜18μmに及ぶものがある。腹翼の葉身細胞は内側で平滑、外側には一つの乳頭がある。上翼、背翼、腹翼のいずれについても、葉身細胞は常に1細胞層からなる。茎の横断面には中心柱状のものがあり、表皮細胞はやや厚膜で小さい。

 非常に小さいため、基物の土と一緒に持ち帰った。乾燥させて土や小石を取り除くと、採取したコケはごくわずかになった。いずれも強く巻縮して小さくなっていた。朔をつけた個体がまったないので、胞子体が茎の頂からでるのか、基部からでるのかはわからない。
 平凡社図鑑で種への検索表をたどると、ヒメホウオウゴケ Fissidens gymnogynus とゼンマイゴケ F. osmundoides が候補に残る。キャラボクゴケ F. taxifolius は「乾いてもあまり縮れ」ないとあるので考慮の外においた。ゼンマイゴケの解説には「中肋はふつう葉頂よりかなり下で終わる」「葉先や腹翼の細胞はほぼ平滑」とあるので、これも排除できる。残るのはヒメホウオウゴケとなるので、現時点ではヒメホウオウゴケとして扱っておこう。

[修正と補足:2009.12.08]
 識者の方から、ヒメホウオウゴケではなくキャラボクゴケの可能性が高いのではあるまいか、とのご指摘をいただいた。再検討し他の文献を読んでみると、たしかにヒメホウオウゴケとするのは不適切といえる。胞子体をつけた個体のなかったこと、また葉の巻縮具合からキャラボクゴケを候補から外してしまったことが間違いのもとといえる。キャラボクゴケと修正した。
 ヒメホウオウゴケでは「中肋が葉頂に達しないことはもっと明瞭。葉頂先端部は,丸い細胞一層からなる三角形領域を作る(狭いが明るくて明瞭)」であり、「葉の縮れ方は,もっと強く葉の先端がゼンマイ状に巻き込む。巻縮は規則的でよく揃っており,しかも一方向になび」き、また発生環境も「ミズナラ帯以上の樹幹や岩上が基本で,低地には降りてこない」という。
 ご指摘ありがとうございました。

 この機会に、過去キャラボクゴケと同定した標本のすべてを再検討した。結果としてかなり変異に富むが、いずれもキャラボクゴケとしてよさそうだ。以下に、乾燥時の姿(m1〜m6)、湿時の姿(n1〜n6)、複数の葉(o1〜o6)、葉の形(p1〜p6)、葉頂部(q1〜q6)についてだけ、画像を列挙しておこう。葉身細胞や葉の横断面の様子は標本No.800の画像(k)と類似の結果を得たのでここには掲げなかった。また、これらのうち、No.183とNo.388は観察覚書にはアップしていない。
 

 
 













 
 
No.37
alt 40m
(m1)
(m1)
(n1)
(n1)
(o1)
(o1)
(p1)
(p1)
(q1)
(q1)
No.76
alt 30m
(m2)
(m2)
(n2)
(n2)
(o2)
(o2)
(p2)
(p2)
(q2)
(q2)
No.109
alt 40m
(m3)
(m3)
(n3)
(n3)
(o3)
(o3)
(p3)
(p3)
(q3)
(q3)
No.170
alt 35m
(m4)
(m4)
(n4)
(n4)
(o4)
(o4)
(p4)
(p4)
(q4)
(q4)
No.183
alt 900m
(m5)
(m5)
(n5)
(n5)
(o5)
(o5)
(p5)
(p5)
(q5)
(q5)
No.388
alt 20m
(m6)
(m6)
(n6)
(n6)
(o6)
(o6)
(p6)
(p6)
(q6)
(q6)
 標本No.170、No.183、No.388の3標本では、茎の基部から胞子体が出ていた。これらを見ると、植物体や葉の大きさ、葉の巻縮具合にはかなり幅がある。それにしても、たった6点の標本でも、各々水で戻したのち、葉を取り外して細胞を確認し、横断面を切り出して乳頭のチェックをするにはかなりの時間が必要となった。