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[標本番号:No.0924   採集日:2010/05/15   採集地:山梨県、鳴沢村]
[和名:ホソバギボウシゴケ   学名:Schistidium strictum]
 
2010年6月16日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g) 葉:湿時、(h) 葉:乾燥時、(i) 葉、(j) 葉の上半、(k) 葉の下半、(l) 葉身細胞、(m) 葉の先端、(n) 葉の基部、(o, p, q, r) 葉の横断面

 富士山山梨県側の船津林道で、陽当たりのよい溶岩上に暗赤褐色の小さなコケがあちこちに小さな塊をつくっていた(alt 1140m)。茎は長さ1.5〜2.0cm、わずかに枝分かれする。葉は茎上部についた若い葉だけが緑色で、大部分の葉は褐色を帯び、長さ1.5〜2.0mm、長卵状披針形で先端は透明尖となる。葉縁は全縁で中肋が先端から突出し、上半部では中肋を軸に竜骨状となり、下半部の縁は狭く反曲する。中肋背面はほぼ平滑。葉身細胞は丸みを帯びた方形で、長さ6〜8μm、厚膜で平滑。葉縁基部の細胞は厚膜の矩形で、縦壁に比して横壁の幅が広い。葉の横断面で中肋にはガイドセルもステライドもなく、中肋の腹面側が軽く凹み、背面側に大きく突出する。茎の横断面に中心束はなく、表皮細胞は厚膜でやや小さい。
 
 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
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(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(s) 茎の横断面、(t) 朔:乾燥時、(u) 朔:湿時、(v) 茎の先端部と胞子体、(w) 朔歯の開閉、(x) 朔歯、(y) 朔歯、(z) 朔の上縁、(aa) 朔歯基部、(ab) 朔歯上部、(ac) 朔の気孔、(ad) 胞子

 朔は雌苞葉に沈生し、乾燥すると朔歯を反り返るように展開し、湿ると閉じる。雌苞葉は他の葉と形やサイズは変わらず、先端の透明先も特に長いことはない。朔柄は短く0.2〜0.3mm。朔は円筒状卵形で長さ0.6〜0.8mm、縁に口環はなく、表皮は薄膜で矩形の細胞からなり、基部近くに気孔がある。朔歯は一重で16枚、褐色〜赤褐色の披針形で、不規則な孔があり、表面は微細な乳頭に被われる。胞子は小さく、径10〜12μm。

 帽や蓋をつけた朔は見あたらなかった。また朔には胞子が殆ど残っていなかった。
 平凡社図鑑のギボウシゴケ科 Grimmiaceae の検索表にあたると、胞子体基部の鞘の近くに雄小枝はなく、朔歯は披針形で、口環がないことからシズミギボウシゴケ属に落ちる。ついで、属から種への検索表をたどると、コメバギボウシゴケ S. liliputanum あるいはホソバギボウシゴケ S. strictum のいずれかが候補に残る。
 植物体の色や葉のサイズはコメバギボウシゴケの解説に近いが、雌苞葉の先端が長い透明尖となることなどは観察結果と異なる。本標本の雌苞葉は他の葉と特に変わりなく、長い透明尖は持っていない。また、先にコメバギボウシゴケと同定した標本No.736と比較してみると、茎の上部の葉や雌苞葉の先の透明尖の様子、朔歯の不規則な孔の様子、などがまるで違う。
 一方、ホソバギボウシゴケは多型で、大きな変異があるとされる。図鑑の解説にある葉のサイズは一回り大きく、朔歯についての解説「披針形〜糸状」も違和感がある。先にホソバギボウシゴケと同定した標本No.289と比較しても、葉の先端の様子や、わずかに残っていた朔歯基部の様子が何となく違う。しかし、Noguchi(Part2 1988)やCrum & Anderson "Mosses of Eastern North America"(1981)を参照すると、ホソバギボウシゴケ(Grimmia apocarpa var. gracilis として掲載)に近いように思える。