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[標本番号:No.1017   採集日:2010/10/12   採集地:高知県、仁淀川町]
[和名:ハネヒツジゴケ   学名:Brachythecium plumosum]
 
2010年12月10日(金)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(b) 植物体、(c) 標本、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f) 枝葉[上]と苞葉[下]、(g) 枝葉、(h) 枝葉の葉身細胞、(i) 枝葉基部、(j) 枝葉先端、(k) 枝葉の横断面、(l) 枝の横断面

 10月12日に高知県仁淀川町の安居渓谷で、アオギヌゴケ属と思われる蘚類がやたらに目についたので採取した(alt 500m)。渓谷に沿った遊歩道の脇には、岸壁・腐朽木・腐植土のいずれにも広範囲にこの蘚類が広がっていた。多くは未成熟ながら長い柄をもった朔をつけていた。
 茎は匍い、不規則に枝分かれする。枝は斜上ないし立ち上がり、乾燥しても葉が縮れることはなく、湿ると葉が茎からやや離れ、全体に広がったようになる。枝は葉を含めて幅1.5〜2mm。枝葉は長さ1.5〜2.0mm、卵形の基部と細長く尖った葉先からなり、上部の縁には微細な歯がある。葉身細胞は線形で長さ50〜80μm、幅4〜5μm、薄膜で平滑。翼部はあまり発達せず、葉基部の縁には方形〜矩形の細胞が並ぶ。中肋は葉長の2/3〜4/5あたりに達する。茎や枝の横断面には中心束があり、表皮は厚膜の小さな細胞からなる。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
(p)
(q)
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(r)
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(s)
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(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m, n) 苞葉、(o) 苞葉の葉身細胞、(p) 苞葉基部、(q) 苞葉先端、(r) 胞子体、(s) 未成熟な朔、(t, u) 朔柄上部、(v, w) 朔柄下部、(x) 朔基部の気孔

 苞葉は幅広の鞘部と細く伸びた部分からなり、葉身細胞は楕円状六角形〜線形で、枝葉の葉身細胞よりもずっと幅が広く、膜もやや厚い。苞葉基部の細胞膜には括れもみられる。
 朔は赤褐色で、長さ2〜3.5cm、上部には顕著な乳頭があるが、中央から基部の表面は平滑。朔は傾き非相称で蓋は円錐形。朔の基部には気孔がある。

 茎葉は泥で汚れ、多くの葉が崩れていたので、観察内容などは省略し画像も掲載しなかった。また、多数の朔をつけていたにもかかわらず、成熟した朔は見あたらなかった。保育社図鑑の検索表をたどると、ハネヒツジゴケ Brachythecium plumosum に落ちる。以前ハネヒツジゴケと同定した標本(No.804No.591)と比較したところ、ほぼ同一と思える。保育社図鑑、平凡社図鑑の解説を読むと、観察結果とほぼ符合する。