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[標本番号:No.1235   採集日:2018/04/20   採集地:栃木県、日光市]
[和名:シダレヤスデゴケ   学名:Frullania tamarisci ssp. obscura]
 
2018年4月22日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a) 棲息環境、(b) 近影:乾燥時、(c) 近影:湿時、(d) 分枝の様子、(e) 背面、(f) 腹面、(g) 腹片と腹葉:背片を取り除いた、(h) 背片と腹片:徐々に傾けた、(i) 背片側拡大、(j) 腹片側拡大、(k) 背片、(l) 背片中央部の葉身細胞、(m) 背片基部の葉身細胞、(n) 眼点細胞と葉身細胞の油体、(o) 腹片、(p) 腹片の葉身細胞、(q) 腹葉、(r) 腹葉の葉身細胞

 奥日光千手ケ原から小田代原に向かうハイブリッドバス路脇には暗褐色の苔類がマット状にびっしりと着いた樹木が多い(a)。たまたま目に着いたニス様にツヤのあるマットを採取した。乾燥状態では枝が縦横に絡み合っていて、そのまま枝ごとに分けようとすると簡単に崩れてしまう。水没させると、いくつもの別々の個体ごとに分けることができた。

 茎は長さ4〜10cm、葉を含めた幅0.6〜1.1mm、倒伏し、数回羽状に分枝する。葉の背片は倒瓦状に重なり、卵型で全縁、背縁の基部は小耳状で、葉先がやや尖って内曲し、葉の基部から先端に向かって一列に10〜15個の眼点細胞が並ぶ。腹片は細長い楕円体から円筒形で、長さは幅の1.8〜2倍ほど、茎から離れ、茎とほぼ平行に着く。キールは極めて狭く8〜12細胞。
 葉身細胞は部位によって大きさや形の変異が大きく、長辺は10〜25μm、厚膜でトリゴンはあまり目立たない。眼点細胞は他の葉身細胞より大きな楕円形で、長辺は20〜30μm。油体は球形〜楕円形ないし紡錘形で、微粒の集合体。
 腹葉は離在し、幅は茎の2〜2.5倍、円形から楕円形で、先端が1/5〜1/4まで二裂し、裂片はやや尖り、縁は軽く外曲する。葉身細胞は背片のそれよりやや小さめのものが多い。

 Frullania (ヤスデゴケ属)の苔類で、一列の眼点細胞を持っていることから、種は比較的楽に絞られる。保育社図鑑からはすぐにF. tamarisci ssp. obscura (シダレヤスデゴケ)に落ちる。平凡社図鑑では検索が詳細にわたり、特定種への絞り込みが難しいが、やはりシダレヤスデゴケ以外の種には該当しないように思える。
 シダレヤスデゴケは過去に三回ほど観察しているが(標本No.0632, No.0226, No.0201)、最新のものでも既に9年以上前のことで、なかなか名前を覚えられないまま今日に至っている。もっとも種名(和名および学名)を覚えられないことはシダレヤスデゴケに限らず、ほとんどすべての蘚苔類に及ぶが、せめて属名までは覚えらえるようになりたいと思う。