HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.73   採集日:2007/01/07   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:スジチョウチンゴケ   学名:Rhizomnium striatulum]
 
2007年1月14日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 1月7日に栃木県満願寺周辺で採取した最後のコケを観察した(a, b)。廃屋の材上、ナガヒツジゴケ(覚書2006.1.13)の群落のなかに、取り残された島のように小さな群をなしていた。2〜3cmほどの朔柄の基部に小さな特徴的な姿の葉がついていた(c)。
 茎はほとんど柄がないほど短く、2〜8mm程度で、その基部と周辺には褐色の仮根やら原糸体らしきものが広がっている。配偶体は全体が褐色気味で、特に中肋や葉縁に太い縁取りのある葉で特徴づけられるが、よく見ないと、褐色の絨毯に埋もれて見失いそうである(c)。
 葉を取り外してみた。葉の大きさにはバラツキが多く、1.5〜4mmほどである。基部が狭い倒卵形〜軍配形で、赤みを帯びた中肋が葉頂まで延びる(d)。葉頂は軽く突出し(e)、葉縁は全縁で、太くて赤い舷が葉縁を取り囲んでいる(f)。葉身細胞は厚い細胞壁をもつ(g)。葉が比較的大きくてしっかりしているので、横断面の切り出しは非常に楽だった。中肋の中心部の組織は赤褐色を帯び(h)、舷の部分は小さくて厚壁の細胞が2層からなっている(i)。
 こけ本体の基部に広がる褐色の絨毯部分は、仮根状の原糸体らしい。太くて厚壁の細胞と細くて薄壁の細胞が見られる(j)。朔は白色の帽をもち、蓋の先端は透明な細紐状になっている(k)。赤褐色の朔柄の先で金属的に黒ずんだ朔は非常に美しい。今回採取した標本では、蓋が意外と硬くて、破壊せずに朔歯を観察することはできなかった。なお、朔柄の表面は平滑である。
 ここまで顕著な特徴をもつ蘚類というのはそう多くはないのだろう。比較的簡単にスジチョウチンゴケ Rhizomnium striatulum にたどり着くことができた。近縁種にケチョウチンゴケ(覚書2006.12.28)があるが、スジチョウチンゴケでは、茎の頂を構成する葉の上に褐色の仮根はみられず、仮根(原糸体?)は茎の基部に絨毯のように広がる。

 スジチョウチンゴケについては昨年末に、採集したアオギヌゴケ科標本の中にごくわずか(数本)混じっていたことがある。このときに一度調べている。しかし、サンプルがあまりにも少ない、撮影した影像がない、などの理由で、観察記録はとらず標本も保管していなかった。
 今年1月7日に出会ったときも、当初は採集標本の中にスジチョウチンゴケが混じっていることに気がつかなかった。ただ、一連の朔があまりにも綺麗だったので、偶然撮影してその部分も採取していた。このとき、コケ本体を撮影しようという配慮はなかった。配偶体に注目した写真がないのはそのためである。今度出会ったときは直ちに同定できるだろう。