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[標本番号:No.315   採集日:2007/08/25   採集地:長野県、富士見町]
[和名:スジチョウチンゴケ   学名:Rhizomnium striatulum]
 
2007年9月18日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 8月に長野県にある入笠山の湿原で、遊歩道を歩いていると、小さな流れに、コケを一面に身にまとった腐木が転がっていた(a)。どうやらチョウチンゴケの仲間らしい(b)。
 茎はほぼ直立し、高さ1.5〜2cm、茎の上部にうちわ型の葉をつける。茎の頂部に褐色の塊をつけたものがある。上部の葉ほど大きく、茎の下部につく葉は小さい(c)。乾燥すると、葉が反り返るように強く縮む(d)。茎の基部は茶褐色の仮根と原糸体が厚いマット状に密集する。
 葉は倒卵形〜うちわ型で、長さ2〜4mm、葉縁は全縁で、全周にわたって舷が発達し、中肋は太く葉頂に届く(e)。多くの葉で葉頂がわずかに突出する(f)。舷の部分は細長い細胞が3〜4層に並ぶ。葉身細胞は、丸みを帯びた六角形で、長さ35〜55μm、厚角。葉を横断面で切って中肋(h)、葉縁部(i)を確認した。葉縁は多層の細胞からなる。茎の断面は3層の構造をなす(j)。
 一部の個体が朔をつけていたが、いずれも蓋はなく、胞子もほとんど散逸したあとだった。朔歯は16枚で、内外二重に並ぶ(k)。茎の頂部の褐色の塊を摘んで顕微鏡で覗いてみた(l)。造精器と側糸ばかりで、仮根や無性芽のようなものはない。茎の下部の仮根をみても、無性芽をつけたものは見られなかった。

 チョウチンゴケ科の検索表にあたると、朔柄が長く、茎は直立し、葉縁は全辺で横断面で多層の細胞からなる、などからウチワチョウチンゴケ属 Rhizomnium に落ちる。次のウチワチョウチンゴケ属の種への検索表にあたった。観察結果をもとに検索をたどっていくと、スジチョウチンゴケ R. striatulum に落ちた。
 この蘚については、過去にも2度詳細に観察しているが(No.118No.73)、この標本と比較してみると、何となく違和感がある。同一種の変異の幅の範囲として扱ってよいものかどうか、再検討が必要なのか今はよくわからない。