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[標本番号:No.610   採集日:2009/03/14   採集地:三重県、大紀町]
[和名:タカサゴサガリゴケ   学名:Pseudobarbella levieri]
 
2009年3月26日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(a, b) 植物体、(c) 乾燥標本、(d) 茎と枝、(e) 二次茎の葉 [上] と枝葉 [下]、(f) 二次茎の葉 [左] と枝葉 [右]

 3月14日、三重県大紀町の石灰岩地帯にケシボウズタケ属 Tulostoma を探しに行った。空中湿度の高い沢沿いの林道にはいたるところからハイヒモゴケ科 Meteoriaceae の蘚類が長く垂れ下がっていた。枝が長く垂れ下がった写真を何枚か撮ったが、いずれも風に揺れてピントが甘く使い物にならなかった。やむなく使った写真では枝があまり垂れ下がっていない(a, b)。
 植物体は全体に光沢があり、一次茎の葉および二次茎基部の葉は、枝葉と比較すると大きくて扁平につく。二次茎は長さ6〜20cm、不規則に分枝し、枝は葉を丸くつけ糸状になる。葉を含めた幅は、二次茎で2〜3mm、枝で0.5〜1mm(c, d)。
 二次茎の葉は長卵形で細く糸状に漸尖し、長さ2〜3mm、枝葉は茎葉とほぼ同じ形で、長さ1.2〜1.8mm、葉縁には全周にわたって微歯があり、弱い一本の中肋が葉長の半ばを越えて伸びる。葉先はごくわずかに波打つ(e〜g)。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(g) 枝葉基部の歯、(h) 枝葉の葉身細胞:輪郭部に合焦、(i) 同前:乳頭に合焦、(j) 枝葉翼部の細胞、(k) 枝葉先端部の細胞、(l) 枝葉芒の先端、(m) 枝葉上部の横断面、(n) 枝葉中央の横断面 、(o) 枝葉基部の横断面、(p) 枝の横断面、(q, r) 茎の横断面、

 葉身細胞は線形で、長さ35〜65μm、中央に一つの乳頭があり、壁は厚い(h, i)。翼部は明瞭に分化し、方形で厚壁の細胞が並ぶ(j)。葉先は透明な細長い細胞が一列に並ぶ(l)。葉の横断面をみると、背腹両面に乳頭があることがわかる(m)。横断面で中肋にはガイドセルもステライドもない(n, o)。枝の横断面に中心束はないが(p)、茎の横断面では中心束の有無は不明瞭(q, r)。いずれも、表皮は小さな厚膜の細胞から構成される。

 ハイヒモゴケ科の蘚類には間違いない。平凡社図鑑の検索表からは、イトゴケ属 Barbella とツヤタスキゴケ属 Pseudobarbella が候補に残る。検索表からは、両属の違いを明瞭に表す形質として、ひとつは二次茎が葉を丸くつけるか扁平につけるか。いまひとつは、外朔歯のパピラが全面にあるか上部だけにあるか、のように読み取れる。
 件の標本No.610には朔をつけた個体はないから、外朔歯での比較はできない。肉眼的、顕微鏡的形態からは、イトゴケ属のキヨスミイトゴケ B. flagellifera と、ツヤタスキゴケ属のタカサゴサガリゴケ P. levieri が候補に上る。
 朔を観察できないので決め手に欠けるが、肉眼的形態からも顕微鏡的視点からはいずれとも言い難いように思える。ただ、手元のキヨスミイトゴケ標本との比較からは、図鑑類にあるタカサゴサガリゴケに分があるように思える。ここでは、二次茎がやや扁平につき、茎葉や枝葉の縁には全周にわたって微歯があり、葉身細胞が一回り短いなどから、タカサゴサガリゴケと判断した。この標本がタカサゴサガリゴケであるとすれば、過去にキヨスミイトゴケとしたNo.355も、タカサゴサガリゴケとするのが適切ということになる。