HOME | 観察覚書:INDEX | back |
[標本番号:No.711 採集日:2009/08/20 採集地:埼玉県、秩父市] [和名:シャグマゴケ属 学名:Cratoneuron sp.] | |||||||||||||
|
|||||||||||||
先の日本蘚苔類学会第38回埼玉大会の3日目、8月20日に埼玉県秩父市の荒川上流で行われたフィールド観察会の折に、沢沿いの林道脇(標高800m)のやや湿った日陰で、腐朽木の表面を被っていた蘚類を採集した(a)。
茎ははい、茶褐色の仮根で被われ、斜上する枝を不規則に出している。茎の長さは不明だが、枝は長さ5〜10mm。乾燥しても、葉が縮れたり茎に密着したりすることはない(b〜e)。仮根は枝の基部近くまで被っている。毛葉や偽毛葉などはみあたらない。 |
|||||||||||||
|
|
||||||||||||
枝葉は長さ0.8〜1.0mm、卵状披針形で、葉縁には微細な歯があり、中肋が葉頂近くに達する。葉の基部は茎葉同様に、大形の細胞が明瞭な区画をなしている(m)。葉身細胞や葉の横断面での中肋の様子などは、茎葉のそれとほぼ同様(n〜q)。葉はKOHで赤褐色が強くなる。 仮根の表面は平滑(s)。茎と枝は横断面で、弱い中心束をもち、表皮は厚壁の小さな細胞からなる(t, u)。仮根と茎の一部には幼芽状の無性芽がついている(e, v)。 詳細に観察してじっくり調べれば、属まではわかるだろうと思っていたが、皆目わからない。現地で朔をつけた個体がないか探したがみあたらなかった。野口『日本産 蘚類概説』(1976)にある「日本産蘚類の類別」(p.42〜48)、関根『日本産蘚類の検索』(1982)にある「属の検索」(p.6〜40)をはじめ、その他にも手元にあるいくつかの検索参考リストなどを片っ端から参照してみたが、属名にまでたどり着けなかった。 特徴的な形質状態を、あらためて整理してみると、以下のようになる。
[修正と補足:2009.09.10]
昨日、識者の方から「ミズシダゴケ Cratoneuron filicinum によく似ていると思いました」とのご指摘をいただいた。観察結果を検討しているときに、ミズシダゴケ(標本No.469、No.235)とよく似ていることには気づいていた。当初はシャグマゴケ属 Cratoneuron としてアップしようと考えた。しかし、毛葉がないこと、無性芽の形がそれを躊躇させた。 |
|||||||||||||
|
|
||||||||||||
あらためて、再度毛葉を探してみた。手元の標本から、これまでみていない個体のすべてについて、茎の一部の仮根をなるべく取り除いた(za)。さらにていねいに仮根を取り除き(zb)、毛葉を探した。多くの茎では毛葉は見あたらなかったが、何本かの茎に毛葉が見つかった(zc, zd)。 そこで、ミズシダゴケとはせずに、シャグマゴケ属不明種として取り扱うことにした。今後朔をつけた個体を見つけられたら、新しい知見が得られるかもしれない。 ご指摘がなければ、毛葉の有無を再検討したり、シャグマゴケ属について詳細に調べる機会はなかったかもしれません。ありがとうございました。 |
|||||||||||||