HOME | 観察覚書:INDEX | back |
[標本番号:No.740 採集日:2009/10/14 採集地:岩手県、奥州市] [和名:クモノスゴケモドキ 学名:Pallavicinia ambigua] | |||||||||||||
|
|||||||||||||
10月なかば頃、東北の名峰栗駒山に登った。その途中の道脇のジメジメした土に、ミズゴケと隣接してクモノスゴケ科 Pallaviciniaceae の苔類がマットを作っていた(a, b)。背面中肋上には雌包膜をつけ、一部には偽花被をつけたものもあった(c, d)。 葉状体は、長さ2〜4cm、幅3〜4mm、全体は平面的に広がり、二叉しつつ斜めに立ち上がる。葉状体基部は棍棒状となり、絡み合った明瞭な横走茎を作っている。葉状体の先端はほとんど尖ることなく、広く丸みを帯びている。翼部の縁にはやや長い毛状部が散生する。仮根は棍棒状の部分と葉状体先端近くからだけ出る(d〜f)。 翼部の細胞は六角形を主体とした多角形で、長さ45〜90μm、薄膜でトリゴンはない(g)。油体は米粒形〜紡錘形で、1細胞に8〜15個あり、微細な粒子を含む(h)。葉状体の横断面で、中肋は腹面に大きく背面に少なく、両面に膨らみ、15〜18細胞層、翼部は1細胞層をなし、中肋には中心束がある。中心束は1本で、小さな厚膜の細胞が分化している。 |
|||||||||||||
|
|
||||||||||||
腹鱗片は小さくて目立ちにくく、非常にわかりにくい。実体鏡下でいくら見てもよく分からず(m)、サフラニンで染色したものを顕微鏡下でみて、ようやく確認できた(n)。腹鱗片は2〜3細胞長の紐状で中肋上に並ぶ。中肋の翼部よりに左右それぞれ対になって多くは2列となる(o)。 採取した標本は、雌株ばかりだったらしく、雄器らしきものをみつけることはできなかった。雌器は背面中肋上にでき、筒状となって雌包膜に包まれる(p)。雌包膜だけを分離して切開してみた(q)。縁は重鉅歯状となっている(r, u, v)。 偽花被は円筒形で、長さ6〜8mm、口部の縁は糸状の歯をもつ(u)。これを切開すると、外皮殻の内側に内皮があり、その内側に胞子嚢に包まれたものがある(t)。胞子嚢内部には未熟な球形の組織が多数あり、それぞれ4つづつ袋に入っている(w)。サフラニンで染色するとわかりやすくなり、袋に入った球形組織のほかに、糸状の組織が多数ある(x)。なお、無性芽はない。
葉状体の中肋が明瞭で、葉状体の縁に毛が散生し、横断面で中肋部の中心束がひとつであることから、クモノスゴケ属 Pallavicinia に間違いない。平凡社図鑑によれば、日本産は4種あるという。種への検索表をたどると、クモノスゴケ P. subciliata ないしクモノスゴケモドキ P. ambigua となる。 これまで、クモノスゴケモドキと同定した標本が2点ある。No.439はどうやら間違いなさそうだが、No.296については再検討の余地がある。クモノスゴケとしたNo.187はそのままでよさそうだ。今日のところは時間がないので、No.296の再検討は後日に回すことにした。 |
|||||||||||||