(a) 植物体、(b) 採取標本、(c) 先端部腹面、(d) 先端部背面、(e) 腹鱗片、(f) 腹鱗片:サフラニン染色、(g, h, i) 葉身細胞、(j) 腹鱗片、(k) 葉状体横断面、(l) 中肋部横断面 |
三重県尾鷲市の国道425号に沿った小沢(alt 600m)でホソバミズゼニゴケに出会った(a)。二叉分岐した先が急に狭くなって、先端が細かく枝分かれして美しかった。ホソバミズゼニゴケは過去三度ほど観察している(標本No.287、No.150、No.7)。朔などは既に一度観察しているが、これまで腹鱗片をていねいに観察していなかったので、それを主目的に採集した。
腹鱗片以外のパーツについては、いまさら記述することはせず、画像だけを列挙した。腹鱗片は単細胞〜3細胞が連なった細い紐状で、葉状体先端の成長点付近にだけみられ、中肋部にそって対をなして並ぶ(e, f, j)。ほぼ透明で小さいため、なかなかわかりにくい。サフラニンで染めるとやや着色された(f)。保育社図鑑には「腹鱗片は単細胞」とあるので、過去には2〜3細胞長のものは腹鱗片ではなく別の組織の萌芽のようなものと思っていた。
もちろん仮根ではない。苔類の仮根はどんなに成長してもすべて単細胞からなる(o, p)。井上『続・日本産苔類図鑑』(1976)には「腹鱗片はやや透明で,葉状体先端付近の腹面に散生し,落ちやすい。2〜3細胞からなる糸状で,先は丸みをもつ」とある。実体鏡ではなく、顕微鏡で観察すると井上の記述通りであることがわかる(j)。さらに、単細胞からなる腹鱗片は少なく、多くは2〜3細胞が連なっている。
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(m) 翼部横断面、(n) 翼部背面の葉身細胞:サフラニン染色、(o, p) 仮根:赤色はサフラニン染色 |
葉状体先端部を横断面で切ってみると、中肋部と翼部との境界は不明瞭で、翼部の縁はほぼ1層の細胞となっているが、その直近の細胞はほとんど2細胞の厚みをもつ(k, m)。また、葉状体の部位によって、葉身細胞の大きさには相当なバラツキがある(g, h, i, l)。葉身細胞の形も、中肋部中央背面付近では矩形〜細長多角形であり(i)、翼部の細胞は六角形を主体とした多角形で(g, h)、いずれの部位においてもトリゴンはほとんどない。
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