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[標本番号:No.830   採集日:2009/12/13   採集地:栃木県、日光市]
[和名:コクサゴケ   学名:Dolichomitriopsis diversiformis]
 
2010年1月4日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 標本:乾燥時、(c) 標本:湿時、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f) 二次茎と枝の葉、(g) 二次茎の葉、(h) 茎葉中央付近、(i) 茎葉中央の縁、(j) 茎葉先端、(k) 茎葉翼部、(l) 茎葉横断面

 日光で華厳の滝展望所となっている小峰のひとつに登った折(alt 1400m)、腐植土に小群落を作っていた蘚類を採取した(a)。一次茎は匍い、二次茎は立ち上がり上部で不規則に分枝し、樹状となって密に葉をつける。一次茎には小さな葉があるがほとんど崩れている。乾燥すると葉を茎に密着させ、湿るとやや葉を展開させる(b〜e)。枝は葉を含めて幅1〜2mmで、先端部が細くなることはなく、全体にボテっとした印象を受ける。
 二次茎の葉は卵形〜卵状披針形で、深く舟形に凹み、長さ1.5〜1.8mm、ほぼ全縁だが、先端付近の縁にわずかに微細な歯がある(f)。中肋は葉長の3/4あたりまで達し、上部で短い枝を分けるものがある(g)。茎の横断面には中心束はなく、表皮は厚膜の小さな細胞からなる。
 葉身細胞は長楕円形〜ウジ虫形で、葉の中央付近では、長さ20〜40μm、幅4〜6μm、厚膜で平滑(h)。葉縁と葉頂付近では菱形で長さ15〜20μm(i, j)。翼部はあまり発達せず、方形〜矩形の厚膜の細胞からなり、周囲より濃色をなしている(k)。枝葉は茎葉よりやや小さく、葉身細胞の様子などは茎葉のそれとほぼ同一。茎葉も枝葉も、葉の横断面で中肋にはガイドセルもステライドもない(l)。なお、胞子体をつけた個体は無かった。

 トラノオゴケ科 Lembophyllaceae の蘚類だと思う。朔がないので図鑑の検索表を素直にはたどれないが、ヒメコクサゴケ属 Isothecium とイヌエボウシゴケ属 Dolichomitriopsis が候補に残る。ヒメコクサゴケ属として掲載される2種について、解説を読むといずれも観察結果とは一致しない。一方、イヌエボウシゴケ属のコクサゴケ D. diversiformis についての解説を読むと、観察結果とほぼ符合する。ただ、葉身細胞の長さについてはやや異なる。
 念のため、過去にヒメコクサゴケと同定した標本No.544と比較すると、本標本は明らかに異なる。一方、コクサゴケと同定した標本3点(No.436No.221No.199)と比較してみた結果、本標本をコクサゴケとしてよさそうに思える。