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[標本番号:No.1070 採集日:2010/10/15 採集地:徳島県、木頭町] [和名:カマサワゴケ 学名:Philonotis falcata] | ||||||||||||||||||||||
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徳島県木頭町の高の瀬渓谷の林道脇に注ぐ小沢で、常に流水に曝された岩場でホソホウオウゴケの脇に明るい白緑色の蘚類が出ていた(alt 660m)。サワゴケ属 Philonotis の蘚類だろうと思って持ち帰っていた。茎は長さ2.5〜4cm、葉を密につけ、乾燥すると葉が軽く密着し、湿っても葉を広く展開することはない。 葉は広披針形〜三角状披針形で、基部はやや狭くなり、長さ1〜1.5mm、葉縁に明瞭な歯があって、縁は背面側に強く反曲する。中肋は強く、葉頂近くに達する。葉身細胞は矩形〜長い矩形で、上半部では幅6〜9μm、長さ20〜45μm、中央下部では幅8〜14μm、長さ30〜55μm、薄膜で、腹面側上部には大きな乳頭がひとつあり、背面側は平滑。葉の横断面で中肋にはステライドやガイドセルはない。茎の横断面には中心束があり、表皮細胞は大きくて薄膜。 |
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平凡社図鑑のサワゴケ属の検索表をたどると、ナガバサワゴケ P. lancifolia に落ちる。種の解説を読むと、葉身細胞の幅がやや異なるものの、おおむね観察結果と符合する。
[修正と補足:2011.02.24]
写真:上段 標本No. 712 カマサワゴケ Philonotis falcata と同定したもの |
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比較してみたのは、植物体の外見(a列, b列)、葉の形(c列)、腹面の葉身細胞(d列)、背面の葉身細胞(e列)、葉の基部(f列)。なお、葉・中肋や茎の横断面は三者ともほとんど区別できないほどにそっくりだったので写真は掲載しなかった。 植物体の外見は三者とも異なり、No.712だけが非常に柔らかい感触で、No.1018とNo.1070はややゴツゴツした感触がある。野外で群生する姿は、No.1018とNo.1070がともに角柱状でよく似ている。No.712はシャグマゴケ属(No.711)に混生していたもので、葉をまばらにつけ全体にヒョロヒョロしている。カマサワゴケとしてはかなり非典型的な姿なのだろう。 葉の形は、No.712とNo.1070がよく似ている。背面側への湾曲具合もよく似ている。葉上半部がやや竜骨状になることも共通している。一方、No.1018は凹み具合は弱く、葉上部は竜骨状にはなっていない。三者とも葉縁は背面側に反曲しているが、No.712とNo.1070では葉の上半部だけだが、No.1018では葉の下部近くまで及ぶ。 葉身細胞はNo.712とNo.1070がよく似ていて幅広く、No.1018は幅が狭い。Noguchi(Part3)によれば、カマサワゴケの葉身細胞幅は7〜8.5μm、ナガバサワゴケのそれは4〜6μmとある。また平凡社図鑑によれば、ナガバサワゴケの翼部には「多数の方形の細胞がある」と記され、カマサワゴケについては「葉基部の細胞は幅広く,腹面のパピラが腔上にあることがある」と記される。三者を比較してみると、No.712とNo.1070の葉の基部の細胞は幅広く、No.1018の葉の基部の細胞は幅が狭い。翼部に方形の細胞が多数あるか否かについては、何とも言えない。 以上の比較結果などを考慮すると、種の原記載にまで遡らずとも、本標本をナガバサワゴケとするのは不適切であり、カマサワゴケとするのが適切と思われる。No.712は非典型的な姿であり、本標本こそ典型的なカマサワゴケの外見をしているようだ。ご指摘ありがとうございます。 |
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