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[標本番号:No.1213   採集日:2017/12/09   採集地:栃木県、真岡市]
[和名:ヒナノハイゴケ   学名:Venturiella sinensis]
 
2017年12月18日(月)
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a) 発生環境、(b, c) 近接撮影、(d) 基物に這う茎、(e) 枝と胞子体、(f) 枝葉、(g) 苞葉:乾燥時、(h) 苞葉:湿時、(i) 苞葉、(j) 苞葉と茎葉、(k) 葉の上部、(l) 葉の基部

 先日真岡市の井頭公園で採取した標本をじっくりと覗いてみた。過去に何度か詳細な記録をしているので(標本番号1149、同0049、同0030)、いまさらとの思いはあるが、とりあえず観察結果を記録しておくことにした。今回は同じような写真をあえて冗長に何枚も掲げた。

 ヒナノハイゴケ(Venturiella sinensis)は野外でちょっと見ただけでも比較的簡単に同定できる蘚類だ。通称クチベニゴケ(口紅コケ)といわれるように、朔の縁や口環が鮮やかな赤色をしている姿は特徴的だ。日本産では一属一種とされ、他に紛らわしいコケはない。
 樹幹に密にマット状に広がる。茎は長さ1〜2cm、腹側からでた仮根束で基物上をはい、直立した短い枝を無数に出す。枝は長さ0.8〜1.2mm、多くは頂部に胞子体をつける。葉は放射状に密生し乾燥時すると茎や枝に密着し、湿ると展開する。葉は広卵形〜卵状楕円形で、全縁で中肋はなく、先端は急に尖って透明となる。茎葉は枝葉より小さく長さ0.6〜1.2mm、枝葉は長さ0.8〜1.5mm、位置によって葉幅の変異が大きい。苞葉は茎や枝の葉よりずっと大きく、広卵形で長さ1.2〜2mm、基部は鞘状にはならない。葉身細胞は葉上部では菱形から六角形で、長さ25〜35μm、葉の中央部では扁平な六角形で長さ30〜45μm、基部では丸みを帯びた四角形で長さ25〜30μm、薄膜で平滑。葉の縁の細胞は矩形で梯子状に葉の縁を形どっている。
 

 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(m, n) 胞子体と苞葉、(o) 朔と苞葉、(p) 朔歯、(q) 朔歯の一部、(r) 朔歯を拡大、(s) 帽、(t) 帽のヒダ、(u) 帽の細胞、(v) 胞子、(w) 朔の基部、(x) 気孔

 胞子体は枝に頂生し朔柄は0.2〜0.4μmと短く、密生して長く伸びる苞葉に埋もれて見えない。朔は卵形で直立し相称で、長さ1.2〜1.5mm、白色で鐘状の薄い帽をかぶり、帽には顕著な縦皺がある。蓋の先端は嘴状に長く伸びる。朔歯は一重で赤色、披針形で16枚ある。朔歯の表面は細かな乳頭に覆われる。赤色の口環がよく発達している。胞子は類球形で径45〜55μm。朔の基部には気孔がある。

 この蘚類は見た目以上に脆いことを痛感した。茎や枝から葉を取り外すのが思いの外難しく、葉の基部を崩さずに取り外すのがなかなかうまくできなかった。また、今回採取した標本では朔の蓋が外れた状態のものがひとつもなかった。なんとか、蓋を取り外そうとすると朔の本体が崩れてしまって、うまく外すことができなかった。また、胞子を顕微鏡でみると、内部に緑色で紡錘形〜長楕円形の小片が多数見える。