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2018年5月6日() 再度ミズベノニセズキンタケのこと
 今年は自宅近くの神社の湿地で久しぶりに水生菌に出会った(a)。発生環境や形態的特徴、さらには顕微鏡的特徴を図鑑類と照合すると、ミズベノニセズキンタケ(Cudoniella clavus)に落ちる。過去に数十回以上このきのこに出会っていて、以前は「キノコのフォトアルバム」にもミズベノニセズキンタケの名称で多数の写真を掲載していた。
 ところが保育社図鑑(II)には「子嚢頂孔はヨード反応陰性」とある。当初は図鑑の記述に信頼をおいていたので、きっとよく似た別種のきのこだろうと思い「フォトアルバム」からミズベノニセズキンタケという項をすべて削除した(雑記2006.5.15)。12年ほど前のことだ。
 そのうちに非アミロイドのものに出会えるだろうと思っていたが、その後何度も出会った「ミズベノニセズキンタケ」はすべてアミロイドだった。そこで次第に保育者図鑑の記述は誤りだろうと考えるようになったが(雑記2015.6.3)。そうと明言するだけの確たる証拠を提示できなかった。

 きのこの断面を切ってみた(b, c)。胞子紋はたっぷり落ちた。これを対物40倍(d)、油浸100倍(e)でみたのち、メルツァー試薬で封入したり(f)、フロキシンで染めて遊んだ(g)。
 問題の子嚢頂孔を改めて確認した。まず頭部を輪切りにしてメルツァーで封入し(h)、対物40倍で子嚢をみた。この倍率では頂孔の様子ははっきりしない(i)。油浸100倍でみると、頂孔が非常に淡く青色に染まっている。解像度の悪いレンズでみたり注意深くみなけければ、これは非アミロイドに見えるかもしれない。古くなったメルツァーでは染まらないかもしれない。
 アミロイド反応を正確に判定するには、あらかじめエタノールとKOHで前処理をしてからメルツァー試薬で封入する。改めて正規の手順に沿って処理してみると、若干青色部分が分かりやすくなった(l)。これは明らかにアミロイド反応を示している。なお、側糸は糸状だ(k)。

 そこで、保育者図鑑にある「子嚢頂孔はヨード反応陰性」というのは誤りとみなし、ここで取り上げたきのこはCudoniella clavus (Alb. et Schw.: Fr.) Dennis、つまりミズベノニセズキンタケとして扱うことにした。気が向いたら「アルバム」にも復活させることにしよう。
 

(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)