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2017年5月1日(月) タングステンニードル作成:1月の雑記より
 先に「今日の雑記」に今年の1月16日から20日にかけて掲載した記事をここに再録した。
 タングステンニードルの作り方については、日本蘚苔類学会『改定新版・コケ類研究の手引き (2011.12.15)』の「3 形態観察法 (6) 極細解剖針の作り方」あるいは「日本蘚苔類学会会報 4 (7), 1987」(下記参照)にも交流電解研磨法による作成事例が紹介されている。ここで再録した記事は、直流研磨法と交流研磨法の両者を実際にやった結果報告の記事となっている。
 

2017年1月16日(月) タングステンニードル作成 (1):はじめに
 久しぶりに先端が極細の針を何本か作った。一般的なきのこの観察では用がないかもしれないが、植物病原菌やカビの単胞子分離やコケの解剖には、先端が極細の針が必須だ。といっても、STM (走査トンネル顕微鏡:Scanning Tunneling Microscope)で必要とされるような細くて精度の高いものは必要ない。また出来上がり品を購入するとえらく高価だ。
 ステンレスやニクロムでは強度や薬品耐性が不足するので、いつもタングステンを用いてきた。今回作ったのは以前と同様に、φ0.5mmのタングステン線の先端部分をφ0.01〜0.03mm程度にしたものだ(a)。φ0.1mmのタングステン線を使えばもっと短時間で先端がφ0.005〜0.01mmのものを作れるが、あまりにも細いためフニャフニャしてかえって扱いにくい(c)。φ0.5mmのタングステン線だと標準的なシャープペンシルにも添えつけられる。柄にはピスや割り箸を使ったりしているが、百円ショップのシャープペンシルはお手軽で良い柄となる(b)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
 タングステンニードルはしょせん消耗品、六年ほど前まではコケの解剖に必須だったので、毎月二本ほど作っていたが、いわき市に転居してからは全く使っていなかった。


2017年1月18日(水) タングステンニードル作成 (2):事前準備と道具だて
 タングステンニードルの件でいくつか照会があったので、以下複数回にわけて参考情報を記しておこう。特別な道具や設備がなくても、家庭で容易に極細針は作れる。材料やら道具立ても大げさなものや特殊なものは不要で、購入に面倒な手続きの必要なものはない。

 製作には中学校の理科でおなじみの電気分解を利用する。素材はφ0.5mmのタングステン線(a)、1mで350円ほど。電解液として過炭酸ナトリウム等の酸素系漂白剤(c)、スーパー等で300円程度。百円ショップにある被覆線。アルコールランプかガスライター(b)。ワニ口クリップか金属性洗濯ばさみ(d)。ガラス瓶ないしビーカー。金属線を切るのにはペンチかニッパーを使う。
 タングステン線はあらかじめ5〜6cmほどの長さに切断しておく。このときガスライターなどで線を灼熱状態にしたのち直ちにペンチやニッパーで切断することが重要だ。というのもタングステン線は細い繊維状のものが集まった構造となっているので、常温下ペンチなどで切断されたタングステン線を電解研磨すると先端が箒状に枝分かれした状態になることがある。なお、電解液に使う過炭酸ナトリウムは水道水で飽和状態ないしその1/2希釈液にする。
 

(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
 電気分解を利用した研磨には交流研磨と直流研磨があり、それぞれメリット・デメリットがある。きのこの単胞子分離やコケの解剖などに使うニードルでは正確で精密な精度は不要で、要するに先端がφ0.002〜0.008mm程度になればよいから、いずれの方法でも構わない。

 [メモ] ひどい風邪につかまってしまったようだ。昨日から激しい頭痛、悪寒、咳、関節痛、吐気、倦怠感のため昨夜はほとんど眠れず、今朝布団から出たのもam8:00過ぎだった。その後も炬燵に潜り込んで横になっていた。昨日夕方悪寒と頭痛をおして温泉に行ったのも祟ったかもしれない。少なくとも日光に転居してから、これほど体調不良のことは今まではなかった。



2017年1月19日(木) タングステンニードル作成 (3):直流研磨
 ここでは最初に12Vの電池を使った直流研磨による方法を扱った。電源となる12Vの電池には、軽自動車やバイク用バッテリーを、あるいは1.5V電池8個を直列にする。
[参考] 直流電界研磨によるタングステン探針作製とその再現性問題
 交流研磨に比べると長い時間がかかるが、感電や火災などの危険性が小さい。これまで電源にはバイク用の小さな12Vバッテリーを使ってきた(c)。軽自動車用のバッテリーなどと比べて小さくて軽い。小さな電流しか流さないのでビニール被覆線は百円ショップのもので十分だ。電池のマイナス極側は被覆を剥いた裸線そのままでもよいが、一定の重みが欲しかったのでワニ口の先に百円ショップで買った銅線をくわえさせた(a, c)。線を繋いだ部分が裸のままだと、うっかり触れて感電する危険性があるのでその部分には必ず絶縁テープを巻いておく。
 ワニ口の先にタングステン線を挟んで電池のプラス極側に繋ぎ、両者を電解液に浸してバッテリーに繋ぐ。するとタングステン表面から泡が発生し始める。タングステンが溶けていく様子は分かりにくいが、あとは一晩ほど放置して先が細くなるのを待てばよい。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
 12V電源による直流研磨は7〜8時間と時間がかかるので、夜に仕掛けておいて翌朝に出来上がっているという作り方をしてきた。直流研磨は時間がかかるが安全性は高い。

 昨日ほぼ六年ぶりに「こけ雑記」に「観察覚書」をアップした。身近にありふれたエゾスナゴケだが、長いこと離れていたので、いろいろと戸惑うことばかりだった。さらに、先日書き換えを終えたINDEX作成プログラム(雑記2017.1.17)に思いがけないバグが潜んでいた。早急にデバッグをして誤りをつぶさねばならないが、結構面倒くさそうだ。



2017年1月20日(金) タングステンニードル作成 (4):交流研磨
 家庭用の100V電源を用いた交流電解研磨を行えば、φ0.5mmのタングステン線なら5〜15分の短時間でφ0.002〜0.008mmのニードルが出来上がる。
[参考] 極細解剖針の作り方 日本蘚苔類学会会報 4 (7), 1987
 ただ、短時間で作成できる見返りとして、水素や酸素が多量に発生し、感電や火災の危険も大きくなるので、感電と換気と火災には十分注意が必要だ。
 AC電源からは高電流が流れるので、素材や道具立てのうち(雑記2017.1.18)、電気コードだけは1200Wの配線用ビニール平行線を使った(2m, 300円)。100Vの電源コンセントからそのまま電解装置に繋ぐのは危険なので、途中に電流調整のために何らかの装置をかませるのがよい。上記の文献(1)のように60W電球を二つ繋ぐのも一つの方法だが、夏場と冬場に作ることが多かったので、電流調整には100〜300W程度のミニヒーターなりミニ扇風機を使ってきた(a)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 タングステン線と銅線の両電極を電解液に浸したのち、コンセントを電源に差し込んだら、まずミニヒータの電源を [弱] にする。すると直ちにタングステン側から泡が多量にでて、タングステンが表面から溶け出してくる(c, d)。数分間で先端がかなり細くなるので、あとは手でタングステン線を電解液に出したり入れたりして太さを調整すればよい(d)。
 タングステン線を電解液に出したり入れたりすると、ジリジリと音がして先端部から火が出るがこれは問題ない(e)。ただ、付近に燃えやすいものがあれば注意が必要だ。