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[標本番号:No.159 採集日:2007/03/21 採集地:千葉県、君津市] [和名:オオサワゴケ 学名:Philonotis turneriana] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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去る3月21日、千葉県君津市からの帰路、側溝脇に球形の朔をつけたコケが運転席から見えた(a)。車を停めてみると、立ち上がったコケから緑色の朔が出ていた(b)。こけ本体は、やや乾燥して葉が軽く茎に接着するような姿をしていた(c)。 茎は長さ3〜5cmで、下の方から2/3ほどは茶褐色の仮根を密集させている。緑色の部分の長さは1.5〜2cmである。その枝の途中から長さ2〜3cmの朔がでていた(d)。葉は三角形の基部をもち線状披針形で、中央に太い中肋があり葉頂まで達し、葉縁には微細な歯がある。葉の長さは1.2〜1.5mmで、湿っても、反り返ったりすることはない。 葉身細胞は、長い矩形〜線形で、幅3〜6μm、長さ20〜35μm、腹面の細胞上端には明瞭な乳頭を備える(f)。翼部ではやや大きめの矩形となり、幅6〜8μm、長さも45μmに及び、基部の細胞には乳頭はみられない(g)。背面はほぼ平滑に見える。 顕微鏡で覗いていると、腹面と背面が分かりにくいので、葉の横断面を切り出して確認してみた。何枚かの葉の数ヶ所を切り出してみたが、いずれも腹面にのみ乳頭がみられる(h, i)。なお、中肋にステロイドはみられない。 茎の横断面をみると、表皮細胞は薄膜でやや大きめの細胞からなり、その直ぐ下の層に厚壁の小さな細胞が並ぶ。中心束のような構造をもつ(j)。茎に密集する仮根が多数ついているので、それらを覗いてみた。仮根の表面には微細な疣がみられる(k)。球形の朔は小さな帽を被っているが、いずれも未成熟で、朔歯をみられるものは無かった(l)。 タマゴケ科のサワゴケ属までは比較的楽にたどり着けた。しかし、そこからがかなり迷うことになった。最初はサワゴケだと考えたが、いくつか矛盾する観察結果を得た。葉身細胞の形状やサイズ、さらには乳頭の状態などは、サワゴケとオオサワゴケを区別する決め手にはなりにくいように思える。しかし、葉の形は決めてとして使えそうだ。結局オオサワゴケ Philonotis turneriana とするのが妥当だろうと判断した。
[修正と補足:2011.02.25]
写真:一段目 標本No. 712 カマサワゴケ Philonotis falcata |
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比較したのは、植物体の外見(a列, b列)、葉の形(c列)、腹面の葉身細胞(d列)、背面の葉身細胞(e列)、葉の基部(f列)。なお、葉・中肋や茎の横断面の写真は掲載を省略した。 本標本の葉形は標本No.1018やNo.612に似ている。ただ、先端は非常に細く、中肋が突出している。葉の上半部は背側に軽く湾曲しているが、中肋を軸とした竜骨状にはなっていない。さらに葉縁はほぼ平坦で背面側への反曲は弱い。葉身細胞をみると、標本No.712やNo.1070の葉身細胞よりも幅が狭く、どちらかというと標本No.1018やNo.612の葉身細胞の幅に近い。葉基部の細胞も、中肋付近でもさほど幅広にはなっていない。 本標本No.159はNoguchi(Part3)のP. revolutaに近いような気がする。これは、P. nitidaのシノニムとされ、さらにこれはP. turnerianaのシノニムとされる。つまりオオサワゴケということになる。現時点では、当初の同定結果のままオオサワゴケとしておこうと思う。 |
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