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[標本番号:No.218   採集日:2007/05/04   採集地:栃木県、那須塩原市]
[和名:オオシッポゴケ   学名:Dicranum nipponense]
 
2007年6月17日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月栃木県の塩原温泉で採集したシッポゴケ科のコケを観察した。川畔のコナラ樹下の腐木上から周辺の腐植土に密集していた(a, b)。茎は長さ2〜4cm、葉を密につけ、下部には褐色の仮根が多数みられる。
 葉は乾燥すると鎌状に曲がり(c, e)、長さ6〜8mm、卵状披針形で、長く伸びた先端部は溝状に凹み、葉の上半部には鋭い刺がある(f)。中肋は葉頂に達し、基部では葉幅の1/6〜1/8ほどで、背面には2〜3列の低い薄板があり、上部には牙歯がある(g)。
 葉身細胞は、丸みを帯びた楕円形で、長さ50〜80μm、膜にはくびれがある(h, i)。同じ一枚の葉でも、位置によって葉身細胞の大きさと太さにはかなりの変異がある。葉の横断面を切ってみると、中肋には葉身細胞と同じような太さのガイドセルがあり、ステライドがみられる(j)。切断位置によっては中肋背面に低い薄板があることがわかる。念のために、茎の横断面と葉の翼部の様子をみた(k, l)。翼部の細胞は褐色で、2層からなる。

 科の検索表をたどると、シッポゴケ属に落ちる。次にシッポゴケ属の検索表をたどると、シッポゴケかカモジゴケのいずれかだろうと思われた。中肋背面に低い薄板をもち、翼部の細胞が2細胞層、などからカモジゴケが候補に上る。以前観察したカモジゴケ(標本No.173)、シッポゴケ(標本No.101同No.16)などと比較してみた。現地で触ったときの感触も考慮して、観察結果と過去の標本との比較から、カモジゴケとして取り扱っておくことにした。
 湿時の印象が既知のカモジゴケとは何となく違うように感じたが、あらためて乾燥標本で比較してみると、過去のカモジゴケ標本とほとんど区別がつかなかった。

[修正と補足:2007.06.19]
 識者の方から、「オオシッポゴケではあるまいか」「(カモジゴケにしては)葉身細胞の幅が広すぎる」とのご指摘をいただいた。あらためて、サンプルにあたってみた。比較のために過去にカモジゴケと同定した標本(No.173)にもあたってみた。葉身細胞の幅以前に、葉の形がかなり違う。結論的には、オオシッポゴケとするのが妥当だろう。ご指摘ありがとうございます。
 

 
 
No.218
本サンプル
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
No.173
カモジゴケ
(m')
(m')
(n')
(n')
(o')
(o')
(p')
(p')
 最初に本サンプル(No.218)を観察しているときに、葉身細胞の幅の広さには気づいていた。なぜ、カモジゴケないしシッポゴケと思い込み、オオシッポゴケの可能性を排除してしまったのか、考えてみた。表現とその解釈の相違が根底にあったようだ。
 シッポゴケ属の検索表で、オオシッポゴケとカモジゴケなどは葉先の形で分かれる。保育社の図鑑では、オオシッポゴケは「葉先は鈍頭、あるいは短くとがる」、カモジゴケなどは「葉先は長く、針状にとがる」とある。平凡社の図鑑では、オオシッポゴケは「葉先は広く尖るか鈍頭」、カモジゴケなどは「葉先は細長く尖る」とある。
 ここの「葉先は鈍頭」という表現を誤って解釈したことが誤同定を呼び込んだ。種の記載をみてもしっくりこないわけである。両者を並べてみれば、確かに(o', p')は「細長く尖り」、(o, p)は「鈍頭」となる。しかし、(o, p)を単独で見た場合、これを「葉先は鈍頭」といえるだろうか。