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[標本番号:No.421 採集日:2008/04/20 採集地:栃木県、鹿沼市] [和名:ヒラハイゴケ 学名:Hypnum erectiusculum] | |||||||||||||
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久しぶりに蘚類を観察する時間がとれた。4月20日に栃木県鹿沼市で採取したコケが、まだ何種類もずっと放置したままになっている。そのうちの一つ、標高210mあたりの林道脇で、日陰の腐植土から出ていた蘚類を観察した(a, b)。 茎ははい、長さ2〜3cm、不規則に分枝し、長さ5〜12mmの枝をだし、枝は扁平気味に葉をつけ、葉を含めた幅は1.2〜1.5mm、乾燥しても湿っていても姿はあまり変わらない(c〜f)。長さ3〜4cmの柄をもった朔をつけていたが、すべて未成熟だった。 地をはう主茎には葉は少ない。枝葉は、二次茎の葉と似た形で、枝葉は長さ1.8〜2.2mm、広い披針形〜広卵形で、漸尖して葉先はやや尖る(g, h)。葉頂付近の縁には微歯があり(j)、翼部はわずかに細く下延する(i)。中肋は二叉して短いか、ほとんど不明瞭。 葉身細胞は線形で、葉の大部分では長さ50〜80μm、幅4〜6μm、基部近くでは長さ40〜65μm、幅5〜8μm(k)、葉先付近では長さ20〜35μm、幅4〜6μm(j)、翼部には方形で薄膜大形の細胞が並び、下延部は透明で細長い細胞となる(i, l)。いずれも表面は平滑。 |
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茎の横断面で、表皮細胞は大形で薄膜(m, n)、中心束の有無ははっきりしない(o)。葉の基部近くで横断面を切ってみると、中肋部は2層の厚みをもっている(p)。仮根の表面は平滑にみえる(q)。未成熟な朔は、円筒形で非相称、傾いて湾曲し、蓋には短い嘴状の突起がある。乾燥した朔には縦に弱いシワがみられる(r)。気孔の有無はわからなかった。
植物体の形態から、ツヤゴケ科、サナダゴケ科、ナワゴケ科、ナガハシゴケ科、ハイゴケ科などを考えた。朔が直立相称ではないので、ツヤゴケ科ではなさそうだ。サナダゴケ科の検索表をたどると、観察結果と合致するものがない。偽毛葉はみられず、仮根にパピラもないので、ナワゴケ科でもなさそうだ。翼部が明瞭に分化しているとは言い難いので、ナガハシゴケ科も考えにくい。ナガハシゴケ科の検索表からは、観察結果と一致する属に遭遇できなかった。
[修正と補足:2008.06.04] |
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あらためて、枝葉の鋸歯、先端付近の様子、偽毛葉の形態などを中心として再検討を加えてみた。新たに葉を外して観察した(s)。葉縁の鋸歯は、先端付近にしかなく、大部分は全縁である。さらに、葉頂は「針状の一細胞からなる」ような細いものではない(t)。 ついで、枝分かれをする部分を中心として、7〜8ヵ所で偽毛葉の有無などを確認した(u〜w)。偽毛葉は高い頻度で存在し、やや幅広の葉の様な形から細紐状のもの等がみられた。再検討の結果は、ヒラハイゴケ Hypnum erectiusculum を示唆している。
なぜ、ヒラハイゴケをツクモハイゴケと誤ったのか、振り返ってみた。平凡社の図鑑を最初の手がかりとしたが、そこで、ハイゴケ科の検索表(p.211〜212)の適用を誤っている。「F. 葉は鎌形に湾曲することはない」という枝を選んでいる。一目見れば、葉が鎌形に湾曲していることは明瞭である(e)。このため、ハイゴケ属にはたどり着けず、ツヤイチイゴケ属に行ってしまった。ここで、観察結果を適切に判断していれば、ハイゴケ属にたどり着いたことだろう。 |
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