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[標本番号:No.437   採集日:2008/05/04   採集地:福島県、下郷町]
[和名:オオシッポゴケ   学名:Dicranum nipponense]
 
2008年7月2日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 5月4日に福島県下郷町で採取した蘚類のうち、最後の一つをやっと観察し終えた。標高620m、明るく開けた林道脇の腐植土上に密に群生していた(a, b)。茎は直立し、長さ4〜6cm、わずかに分枝し、葉を密につけ、枝の表面には褐色の仮根を多くつける(c, d)。
 持ち帰った標本を水没させてから(e)、葉を外した(f)。葉は、長さ6〜9mm、基部は卵状で披針形に伸び、葉先の方はU字状となる(f, g)。葉先の縁には鋭い歯があり、中肋が先端に達し、中肋背面に沿って2〜3列の低い薄板があり、薄板上には鋭い牙歯がある(h)。
 葉身細胞は長い菱形〜台形で、長さ40〜75μm、幅15〜20μm、膜にはくびれがある(i)。葉頂部の細胞は長さ25〜30μmと短く(j)、翼部には薄膜で方形の大形細胞が並ぶ(k)。
 いつものように、実体鏡の下に葉をつけたまま一本の茎を横たえ、指先で押さえて(l)、カミソリをあてた(m)。次々にカミソリで切り落として、薄片だけを残して不要な部分を捨てた(n)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 薄切りにできた部分だけを選んで顕微鏡で覗いた。中肋部にはステライドがある。葉先付近(o)、葉の中央部(p)、葉の基部(q)の中肋を並べた。茎の横断面には中心束があり、表皮は薄膜でやや小型の細胞からなる。葉の翼部の細胞は二細胞層からなる(r)。

 シッポゴケ属 Dicranum に間違いない。種への検索表をたどると、シッポゴケ D. japonicum とカモジゴケ D. scoparium の二つだけが候補に残る。検索表からはカモジゴケを示唆している。種の解説を読んでみると、カモジゴケの可能性が高い。

[修正と補足:2008.07.02 am11:20]
 識者の方から、カモジゴケではなくオオシッポゴケ D. nipponense ではあるまいか、とのご指摘をいただいた。あらためて、標本No.218標本No.209(オオシッポゴケ)と同No.173(カモジゴケ)、両者の標本と比較してみた。観察結果は、標本No.209に酷似している。したがって、この標本はカモジゴケではなく、オオシッポゴケとするのが妥当と思われる。葉身全体の印象と葉先の形、葉身細胞の形が大きな決め手となりそうだ。ご指摘ありがとうございました。