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[標本番号:No.676   採集日:2009/07/11   採集地:栃木県、那須塩原市]
[和名:コアナミズゴケ   学名:Sphagnum microporum]
 
2009年8月8日()
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(a) 採集標本、(b) 標本の上半部、(c) 開出枝と下垂枝、(d, e) 開出枝拡大、(f) 茎と茎葉、(g) 茎の表皮、(h) 茎の横断面、(i) 枝の表皮、(j) 枝の横断面、(k, l) 茎葉

  先月11日栃木県奥塩原温泉近くの大沼で、ユガミミズゴケ節 Sect. Subsecunda のミズゴケと思われる蘚類を採取した。沼の畔の常に水に浸る場所にでていた(alt 1500m)。生態写真は撮れなかった。後日生態写真を撮れる機会に再度アップしたい。
 茎は長さ8〜10cmで明黄緑色、表皮細胞は長方形で孔はなく、横断面で1層、木質部との境界ははっきりしている。開出枝の表面にはレトルト細胞が2〜3列に並び、首はやや長い。下垂枝の表面や葉は、開出枝のそれらと変わりないので、以下枝葉は開出枝について記す。
 茎葉は舌形で、長さ0.8〜1.2mm、縁には葉頂近くまで細い舷があり、中央部から下部では広がっている。茎葉の頂から上部1/4あたりまでの透明細胞には、背腹両面ともに整然とした糸があり、孔や偽孔が見られる。茎葉の中央部から基部には糸も孔もない。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
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(v)
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(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉背面上部、(n) 茎葉背面中央、(o) 茎葉腹面上部、(p) 茎葉腹面中央、(q, r) 枝葉、(s) 枝葉背面上部、(t) 枝葉背面中央、(u) 枝葉腹面上部、(v) 枝葉腹面中央、(w, x) 枝葉の横断面

 枝葉は長さ1.3〜1.8mm、卵状披針形で、先端は明瞭に左右に歪んでいる。枝葉背面の透明細胞には明瞭な糸があり、縁に沿って貫通する小さな孔がある。腹面の透明細胞にも糸があるが、孔は少ない。枝葉の横断面で、葉緑細胞は樽形で背腹両面に開いている。

 本標本は、ミズゴケタケ Galerina tibiicystis、キミズゴケノハナ Hygrocybe turunda forma macrospora といったミズゴケ上に発生する菌類のホストとして採集したもので、蘚類の観察はホストの同定が主目的で、結果として生態写真を撮らなかったことが悔やまれる。
 茎の表皮に螺旋状肥厚はなく、枝葉の先が著しく片側に曲がり、枝葉の横断面で葉緑細胞が背腹両面に開き、枝葉透明細胞に糸と小さな孔が並ぶことから、ユガミミズゴケ節のミズゴケに間違いないだろう。
 平凡社図鑑の種への検索表をたどると、比較的すんなりとコアナミズゴケ S. microporum に落ちる。さらに滝田(1999)の検索表をたどると、コアナミズゴケ、クシロミズゴケ S. kushiroense、シタミズゴケ S. subsecundum var. junsaiense が候補に残る。
 先に観察したシタミズゴケ(標本No.622)と比較すると、多くの形質状態で明らかに違いが大きい。また、滝田によれば、クシロミズゴケの茎葉は三角形で長さ0.6〜0.7mmで、先端部腹面の透明細胞にのみ糸と孔があるとされる。本標本の観察結果を滝田のコアナミズゴケの記載と比較すると、おおむね符合する。