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[標本番号:No.1036 採集日:2010/10/13 採集地:高知県、津野町] [和名:ヤノネゴケ 学名:Bryhnia novae-angliae] | |||||||||||||||||||
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高知県の四万十川の源流点近くで採取したアオギヌゴケ属 Brachythecium の蘚類を観察した。沢沿いの岩や岸壁を広く被っていた(alt 1000m)。一次茎は岩をはい、随所から二次茎をだし、不規則に枝分かれし、長さ1.5〜2cmの枝をだす。枝は乾燥しても茎に密着することなく、湿っても大きく開くことはない。葉を含めた枝の太さは1〜1.8mm。 一次茎の葉と二次茎基部の葉はほぼ同じ形と大きさで、長さ1.8〜2.1mm、広卵形〜三角状卵形で葉先はやや急に細くなって鋭頭、葉の基部は茎に軽く下延し、葉の上半部の縁には微細な歯がある。中肋は葉長の1/2をやや超える。茎葉の葉身細胞は細い六角形〜紡錘形で、長さ30〜50μm、幅4〜6μm、薄壁で平滑。翼部は明瞭な区画を作らず、方形〜矩形の細胞が並び、矩形の細胞は中肋にまで達する。葉の横断面で中肋にステライドはない。 枝葉は卵形〜三角状卵形で、長さ1.3〜1.5mm、葉先は長く尖り、葉縁には全周にわたって小さな歯がある。中肋は葉長の半分あたりで消える。枝葉の葉身細胞は、茎葉の葉身細胞と長さも幅もほぼ同じ。翼部や葉先の様子も茎葉の葉身細胞とほぼ同様。 朔をつけた個体はなかった。アオギヌゴケ属には間違いないと思うのだが、平凡社図鑑の検索表からは種名にまでたどり着けなかった。検索表からはヒツジゴケ B. moriense に落ちるように思えるが、Noguchi "Moss Flora of Japan" に掲載されている茎葉とは形が異なる。観察結果をどのように捉えるか、何かを見落としているのかもしれない。
[修正と補足:2011.1.31] |
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あらためて任意に取り出した20個体から、それぞれ茎葉10枚と枝葉10枚を取り出して検討してみた。茎葉と枝葉では大きな差異がなかったので、枝葉についてさらに10枚ずつを加えて、以下の4項目を主体に検討を加えた。(1) 枝葉の中肋は葉長の4/5に達するか否か。(2) 葉の翼部がほかと明瞭な区画を作っているか否か。(3) 葉背面で中肋先端に突起があるか否か。(4) 葉背面の葉身細胞上端に突起があるか否か。画像(s〜x)はそれらのうちの一部だ。 まず、(1)の中肋の長さは、先に検討した枝葉ではほとんどが葉長の1/2程度だったが(m, n)、再検討した枝葉には葉長の3/4を超えるものがいくつもあった(t)。つぎに、(2) 葉の翼部は、先に観察した結果(h, j, n, q)と変わらない(t, u, v)。これを「明瞭な区画をつくる」というのだろうか。(3) 葉身背面の中肋先端だが、先の観察ではほとんど歯や突起はみられなかった。今回の観察では中肋先端が歯ないし牙で終わるものがいくつも見られた(w, x)。(4) 葉背面の葉身細胞の上端に突起のある葉はついに一枚も見つからなかった。 さらに、先にヤノネゴケと同定した標本とも比較してみた(標本No.950, No.402,No.400, No.293, No.224, No.225, No.174, No.62)。これらの標本との比較からは、本標本No.1036もヤノネゴケとしてよさそうだ。今回の標本を含めた全9標本のうち、自力だけでヤノネゴケと同定できたのはたった3点、No.293, No.400, No.402 だけという結果となった。ミズゴケ類は別として、同一種を9点も掲げるのはヤノネゴケだけということになる。今回、手元のすべてのヤノネゴケ標本をすべて見直してみたが、やはりヤノネゴケの概念を明確には把握することができなかった。 ご指摘ありがとうございました。 |
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