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[標本番号:No.859   採集日:2010/04/11   採集地:神奈川県、厚木市]
[和名:アオハイゴケ   学名:Rhynchostegium riparioides]
 
2010年4月13日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
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(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c, d) 標本:乾燥時、(e, f) 標本:湿時、(g) 茎葉と枝葉:実体鏡下、(h) 茎葉と枝葉:顕微鏡下、(i) 茎葉、(j) 茎葉の葉身細胞、(k) 茎葉先端部、(l) 茎葉翼部

 先日久しぶりにコケを採取するチャンスがあった。神奈川県の丹沢山地中腹にある七沢森林公園入口付近の清流で(alt 220m)、岩に黄緑色の蘚類が着いていた(a, b)。茎は不規則に分枝し不規則に短い枝をだす。枝は斜上〜直上し、長さ5〜12mm、葉を含めて幅約2mm、やや展開気味に葉をつける。葉は乾いても縮れない。
 茎葉は広卵形でやや凹み、長さ1.1〜1.8mm、葉先は軽く尖り、葉縁には微歯があり、基部は翼部が広く下延する。中肋は弱く、葉長の3/4〜4/5に達して消える。茎葉の葉身細胞は線形で、長さ75〜150μm、幅4〜7μm、平滑でわずかに厚壁。葉先付近では菱形〜線形で短く、翼部には長楕円形〜方形のやや大形で薄壁の細胞が並び明瞭な区画をなす。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 枝葉、(n) 枝葉の葉身細胞、(o) 枝葉先端部、(p) 枝葉翼部、(q) 枝葉横断面、(r) 枝葉中肋横断面:左から上部・中央・下部、(s) 枝の横断面、(t) 茎の横断面、[以下サフラニン染色] (u) 枝と葉の基部、(v) 枝葉、(w) 枝葉の縁と葉身細胞、(x) 枝葉の翼部

 枝葉は広卵形〜偏円形で軽く凹み、長さ2.1〜2.3mm、葉先は広く尖り、葉縁にはほぼ全周にわたって微歯がある。一部の葉にはわずかに縦皺がみられる。葉の翼部はわずかに茎に広く下延する。枝葉の葉身細胞は線形で、長さ55〜100μm、幅4〜8μm、平滑で薄壁。葉先端部と翼部の細胞は茎葉のそれとほぼ同様。中肋は葉長の2/3〜3/4に達し、中肋先端に牙などはなく、自然に消滅している。茎葉の横断面で、中肋にはガイドセルもステライドもない。茎の横断面には中心束があり、表皮はやや厚壁の小さな細胞からなる。

 朔をつけた個体はみられず、茎葉は今年の若い葉のようにもみえた。茎葉はいずれも枝はより小さく、崩れた葉が多かった。アオギヌゴケ科 Brachytheciaceae の蘚類だろう。朔がないので、図鑑の検索表をそのまま辿ることはできないが、アオギヌゴケ属 Brachythecium ないしツルハシゴケ属 Eurhynchium が候補に残るように思える。ツルハシゴケ属の検索表からはホソバツルハシゴケ E. angustirete が残るが、Noguchi(Part4 1991)によれば、茎葉は枝葉より大きく、発生環境は亜高山帯だとある。また、アオギヌゴケ属の検索表からはタニゴケ B. rivulare に落ちるが、これにも疑問が残る。これまでに観てきたタニゴケの標本(No.717, No232, No105)と比較すると、茎葉が小さすぎ、枝葉の形もやや異なる。タニゴケだとすれば若い葉ゆえに形や大きさが異なるのか、あるいは全く別の種なのか判断できなかった。

[修正と補足:2010.04.14]
 識者の方々からアオハイゴケ Rhynchostegium riparioides ではないかとのご指摘をいただいた。本標本の採取時、アオハイゴケに似ていると思ったが、枝葉の凹みがあまりにも小さく、茎葉がアオハイゴケのそれとは異なるように思えた。これまでみてきたアオハイゴケの枝葉は、いずれも半球形ともいえるほど深く凹んでいた(No.572, No.438, No.435, No.165)。しかし、本標本の枝葉は、ごくわずかに凹んでいるだけだ。そこで、アオハイゴケは検討する前に排除していた。
 あらためて、アオハイゴケについて記された文献に目を通してみると、かなり変異の大きい種であると記されたものがあった。本種はアオハイゴケとするのが妥当と思われる。
 ご指摘ありがとうございます。