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[標本番号:No.262 採集日:2007/06/16 採集地:埼玉県、秩父市] [和名:コバノエゾシノブゴケ 学名:Thuidium recognitum var. delicatulum] | |||||||||||||
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埼玉県西部の旧荒川村(現秩父市)の大血川西谷で、道の脇の斜面をみると、一面にシノブゴケ科のコケが、転石群や周辺の腐葉土をすっかり覆っていた(a, b)。シノブゴケ属らしいがこれまでに見たことのある種とは違って、全体に小形で、繊細である(c)。 何本かを引き抜いてみると、茎はあまり枝分かれせずスーと伸び、全体から細くて短い枝がほぼ均一に出ている(d)。茎の長さは4〜6cm、主枝は細く、葉を含めても1mm前後、長さ6〜10mmで、そこから出る支枝に到っては、長さ0.3〜1mm、幅0.2〜0.3mm程度しかない。 乾燥しても、全体の姿はあまり変わらず葉が縮れることもない(e)。ルーペで見ると、茎や主枝の表面は、多数の毛葉に覆われている(f)。毛葉には糸状のものと小葉状のものがある。茎葉と、支枝の葉とではその大きさに雲泥の差がある。茎葉は広い三角形で、長さ0.3〜0.6mm、中肋が葉頂近くまで伸び、縁は全縁。一方、枝葉はとても小さく、長さ0.05mm〜0.1mmで、菱形〜卵形で、中肋は葉長の1/2を越えている。支枝の葉1枚をはずすのに難儀した。 茎葉の葉身細胞は、長楕円形〜紡錘形で、長さ20〜30μmで、背面には1つの大きな乳頭がある。翼部は厚壁で矩形のやや大きな細胞となり、乳頭はみられない(h)。枝葉は丸井を帯びた菱形〜楕円形で、長さ10〜15μm、背面に牙状の大きな乳頭をひとつもつ(i)。 茎の表面を覆った毛葉にも乳頭があり、乳頭は細胞の隔壁や端から出ている(j)。やっとのことで枝葉の横断面を切り出してみると、背面の乳頭の様子を明瞭に捉えることができた(k)。茎の太さも枝のそれとは対照的だが、いずれも表皮細胞は小さく厚壁で、表面は無数の毛葉に覆われている(l)。さらに細い先端の支枝で、その横断面をみると毛葉は少ない。 シノブゴケ属であることに間違いないだろう。いくつかの図鑑で検索表をたどると、チャボシノブゴケ Thuidium sparisifolium に落ちた。観察結果と図鑑の記述ではやや異なるが、大きな所ではほぼ一致する。保育社の図鑑には「(略)小さな葉状の毛葉が密生するが、小枝の上ではほとんどない」とあるが、観察した標本では、小枝にも小葉状の毛葉を多数持ったものが見られた。
[修正と補足:2007.06.25 pm.4:00] |
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あらためて両者を比較してみると、小人国のガリバーと小人くらいの違いがある(m)。さらに、チャボシノブゴケの茎表面の毛葉(n)や、枝の表面(o)は、今日の標本No.262のそれ(f)とはまるで違う。では、これはいったい何だろうか? 葉身細胞の突起がよく似たものに
[修正と補足:2007.07.10]
[修正と補足:2007.08.12] |
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新たに写真を追加したきっかけは、オオシノブゴケとコバノエゾシノブゴケについて、両者の枝葉の先端細胞の写真が見たい、とのコメントをいただいたことによる。これで、オオシノブゴケとコバノエゾシノブゴケについて、枝葉の先端を比較できるだろう。 | |||||||||||||