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[標本番号:No.0911   採集日:2010/05/02   採集地:岡山県、高梁市]
[和名:キャラハゴケ属   学名:Taxiphyllum sp.]
 
2010年5月26日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a) 標本、(b) 大きめの葉をつけた枝、(c) 小さめの葉をつけた枝、(d) 湿時、(e) 葉、(f, g) 大きめの葉、(h, i) 小さめの葉、(j) 葉身細胞、(k) 葉の先端部、(l) 葉の翼部、(m, n, o, p) 枝の横断面 [2010.5.27追加] (q) 毛葉、(r) 葉の基部の様子

 5月2日に岡山県高梁市で石灰岩地のケヤキ樹幹に着生していた蘚類を採取した(alt 480m)。茎は匍い、葉には光沢があり、不規則に分枝する。一次茎は樹幹を匍い、二次茎からは大きめの葉をつけた枝と小さめの葉をつけた枝が伸びる。大きめの葉をつけた枝は、葉を含めて幅1.5〜2.0mmであるのに対して、小さめの葉をつけた枝は、葉を含めて、0.5〜1.2mmほどしかない。乾燥しても湿っていても、葉は枝に接することなく展開したまま。
 枝葉は長さ1.1〜1.8mm、狭い卵形〜披針形で漸尖して細く伸び、葉上部の縁には微細な歯があり、浅く凹む。中肋はないか、あっても非常に短いものが二叉する。葉身細胞は線形で、長さ45〜70μm、幅4〜6μm、薄膜で平滑。葉基部の葉身細胞はやや幅広で短く、翼部はやや濃色であるが明瞭な区画は作らず方形〜矩形の細胞が見られる。茎や枝の横断面には、弱い中心束が見られるものがあるが、多くの枝では中心束はない。横断面で茎や枝の表皮細胞は小さく厚膜。無性芽や毛葉はなく、偽毛葉の有無や形は不明。

 目安としてナガハシゴケ科 Sematophyllaceae としたが、まるで見当違いかもしれない。ツヤゴケ科 Entodontaceae、サナダゴケ科 Plagiotheciaceae、あるいはハイゴケ科 Hypnaceae かもしれない。平凡社図鑑、保育社図鑑、Noguchi(Part4 1991; Part5 1994)などを検討してみたが、属までたどり着けなかった。詳細に検討すればするほど分からなくなってしまった。

[修正と補足:2010.05.27]
 識者の方からコメントをいただきキャラハゴケ属と修正した。コメントには「翼部の様子からナガハシゴケ科とは思えません」「ハイゴケ科(平凡社図鑑)の,和名にイチイ(=キャラ)を含む4属のどれか」であり、「キャラハゴケ属以外は明瞭に否定できます」という。以下に経緯を記した。

 コメントを受けて、あらためて平凡社図鑑にあたってみた。ナガハシゴケ科については「翼部の細胞はよく分化し,明瞭な区画をつくる」とある。そして、掲載種に本標本と符合する種はない。したがってナガハシゴケ科ではない。次にツヤゴケ科にあたると、翼部がよく分化するツヤゴケ属 Entodonと、あまり分化しないタチミツヤゴケ属 Orthothecium があり、タチミツヤゴケ属の2種については葉の形が異なる。したがって、ツヤゴケ科ではない。次に、サナダゴケ科にあたってみると、茎の横断面の様子と葉の付き方から、該当する属がない。残るのはハイゴケ科ということになる。
 ハイゴケ科の検索表から属の検討をつけてみた。観察結果にしたがって検索表(p.212)をたどると、「J.」以下のどれかの属ということになる。そこで偽毛葉の形がキーとなるのであらためて、偽毛葉の形、葉基部が延下するや否や、を確認した(q, r)。小葉状の偽毛葉があり、葉基部は延下しない。すると、さらに属を絞ることができそうだ。
 クサゴケ属 Callicladium とキャラハゴケ属 Taxiphyllum が残る。クサゴケ属 Callicladium はクサゴケ C. haldanianum だけが知られ、日本産種は他にないとされる。図鑑のクサゴケの説明を読むと、観察結果とは異なる。さらに、これまでクサゴケと同定した標本(No.220No.202No.176No.29No.15)とも比較したが、これらとは明らかに違う。翼部の形は決定的だ。
 残るのはキャラハゴケ属だけとなる。平凡社図鑑の属から種への検索表からはキャラハゴケ T. taxirameum に落ちるように思われる。しかし、種の解説をよむと観察結果とは符合しない。また、過去にキャラハゴケと同定した標本(No.603No.578No.67)とも照合したが、どうも違うように思われる。したがって、とりあえずキャラハゴケ属とした。今日は結果として、10点ほどの過去の標本を詳細に再検討することになってしまった。
 コメントありがとうございます。