Top  since 2001/04/24 back


日( )

2003年5月31日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
 海辺の定点観察に行ってきた。地元の人の話ではこのところずっと雨が降っていないということだったが、無駄を承知で数カ所の浜辺(a)を歩いてみた。結果的には [腹菌類は何も出ていない] ということを確認するために歩いたようなものである。コウボウムギの根から出るきのこや仲間内でヨモギネッコという仮称で呼んでいるきのこは多数見られたがいずれもすっかり乾燥してカラカラの状態だった。おなじくひどく乾燥したスナジクズタケもみられた。
 きのこがないので、結果的に野草摘みになってしまった。ハマボウフウ(b)のまだ花が咲いていない若い株を採集してきた。根元の白い部分を水洗いして、そのまま味噌をつけて食べるととても美味しい。房総半島の内房から外房に出る途中で、山の中を少し歩くと、チビホコリタケマユハキタケ(c, d)に出会うことができた。
 昨年多数のコナガエノアカカゴタケやらアカダマノオオタイマツといった珍しいきのこが発生していたところは、完全に崩壊し、全面的に水没していた。干潮時には何とか歩くことはできるが、もはやキノコが生存できる状態とは程遠い。昨年の大発生は、まるで崩壊・水没を予知しての避難行動だったのか。

2003年5月30日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 所沢航空記念公園で出会ったキシメジ科らしいきのこ(a〜c)についても簡単にメモしておくことにした。傘径5〜8cm、柄8〜15×35〜50mmほどの大きさで、やや乾燥気味で新鮮とはいいがたい状態であった。傘の色は赤褐色〜濃茶褐色で全体に肉厚でどっしりした感触である。やや乾燥していたためか、匂いはほとんどない。胞子紋は白。シイとコナラ交じりの樹下の地上に出ていた。ヒダは厚く垂生で白色(c)、傘表面に粘性はなく湿らせても条線などは見られない(d)。開くと中央部がやや凹状にくぼむが、幼菌では球形をしている。柄はきれいに縦に裂け、内部は白く充実し密集した繊維のようだ(e)。傘と柄はしっかりした肉質で分離しない。
 ヒダ切片(f)を切り出してみると、実質部は錯綜気味の平行型で側シスチジアはない。念のために倍率をあげてヒダ先端(g)を見たが縁シスチジアもない。担子器の基部にもヒダ実質・傘肉・柄にもクランプはない。傘表皮の組織(h)は匍匐状の入り組んだ構造をしており、傘中心部からは放射状にはなっていない。さらにところどころに異物をまきこんでいる。担子器は細長くフロキシンによく染まる(i)。胞子(j)は非アミロイドであり、水だけでマウントしたときには内部に1つないし3つほどの大きな油球がみられた。
 昨年も6月始めの頃に、これとほぼ同じではないかと思われるきのこを見た。その折は他に関心のあるきのこがあったために採取も観察もしなかった。これから先また同じ種に出会ったら今度はていねいに観察しよう。自分が知らないだけで、案外ありふれたきのこなのかもしれない。

2003年5月29日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
上段
ケヤキ樹下のもの
(2003.5.25)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
下段
ウメ樹下のもの
(2003.4.21)
 ケヤキに出るハルシメジ(a)とウメに出るハルシメジ(e)の胞子を比べてみた。上の段は2003年5月25日に武蔵嵐山町でケヤキ樹下にでたもの、下の段は2003年4月21日さいたま市のウメ樹下にでたものだ。(b)、(f)の胞子はカバーグラスに落としたものをそのままの状態でみたもの。(c)、(g)は水でマウントしたもの。(d)、(h)はそれぞれのヒダ切片を切り出したときのものである。
 ケヤキ樹下のものはウメ樹下のものに比べると小さく単生しているものが多いが、胞子に関しては逆にウメにでたものよりも少し大きめであった。いずれのハルシメジにもシスチジアは見られなかった。傘肉とヒダにグアヤクチンキをかけ20分ほど放置してみたが、両者とも青変することはなかった。ただ、ここで比較した両者ともにきちんと同定をしなかったので、どの種のハルシメジなのかははっきりしない。
 キシメジ科にはあまり関心がないので、種の同定まではやったことはないが、ハルシメジ(=春に出るentoloma)にはかなり多くの種類があるようだ。ツツジ樹下にも出るとの情報も得たが、これはまだ見たことがない。また、ヤマザクラ樹下にでたハルシメジについてはデータを失っており、比べることができなかった。

2003年5月28日(水)
 
(ma)
(ma)
(mb)
(mb)
(mc)
(mc)
(md)
(md)
 例年ならツチヒラタケが最盛期のはずの所沢航空記念公園には、ほとんどきのこの姿はない。早朝行ってみると、ササクレヒトヨタケ(ma〜md)は相変わらず多数発生していたが、他にはキシメジ科らしいきのこをわずかに見ただけだった。いつもなら多数発生している腹菌類は影も形もない。ササクレヒトヨタケを幼菌(md)から成菌(ma)まで撮影して朝食前にさっさと帰宅した。
 
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
 航空公園が空振りだったので、今朝は珍しく数日前採取した野生シイタケを検鏡した。たいていはシイタケを採取してもすぐに食用に回すのみで、これまで検鏡したことはなかった。
 薄片切り出しにてこずって、結局一枚だけを薄く切り出すことはできなかった(a)。そのままでは半透明でとても見にくいので最初からフロキシンで染色した。ヒダ実質は平行型(b)、側シスチジアは無く、棍棒形の縁シスチジア(c)がある。拡大してみると薄膜で先端が膨大した形をしている(d)。組織はクランプを持っていて(e)、担子器は細長く小さい(f)。
 カバーグラスに採取した胞子紋をそのまま油浸100倍にしてみると、およそ胞子とは似ても似つかない姿を見せてくれた(g)。光のいたずらであるがなんとも美しい模様が見える。カバーグラスの脇からスポイトで水を注ぐと本来の胞子の姿が見えてきた(h)。

2003年5月27日(火)
 
(ma)
(ma)
(mb)
(mb)
  シロシビン系のきのこは採取できないので撮影もしなかった
 
 数日前に高速道路の某サービスエリアでは、ヒカゲシビレタケやアイセンボンタケといったシビレタケ属のきのこがみられた。柄が青変した状態で乾燥しているものが目立った。もぎ取って捨て去ったような株がある反面、根こそぎ採取して持ち去ったような痕跡もあった。採取は許されないので正確な種名はわからないが、今後ともこの仲間のきのこの研究はますます立ち遅れたまま取り残されていくのだろう。同サービスエリアにはケコガサタケ属の小型菌やフミヅキタケ(ma, mb)がかなり発生していた。ツバナシフミヅキタケはないかと探してみたが、いずれもすべてフミヅキタケばかりだった。
 
 
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 25日の小川町は全体に乾燥気味できのこの姿はとても少なかった。昨日の雑記で取り上げたentolomaの他には、わずかにクロハナビラタケ(a)、ヌルデタケ(b)、ナヨタケ属などのキノコが見られただけだった。朽木からはコガネムシタンポタケ(c, d)も見られたがやや未熟であった。近くの武蔵嵐山町ではケヤキの下にいわゆるハルシメジ(e, f)が出ていた。これはウメやリンゴなどの樹下にでるものとは違って、比較的小さく脆い。ウメやヤマザクラ樹下のハルシメジはほぼ終わってしまったが、ケヤキがあるところには今頃よくみられるようだ。

2003年5月26日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 昨日小川町(埼玉県)の竹林でイッポンシメジ属のきのこに出会った。姿だけを見るとウスキモミウラモドキあるいはトガリウラベニタケのように見える(a〜d)。束生しているもの(a)やら単生しているもの(b)があり、束生しているものでは傘表面にピンク色の落下胞子を多数帯びたものがいくつもあった。スライドグラスに採取した胞子紋(e)もピンク系の色である。ヒダのつき方は離生ないし湾生だが、中には直生といったほうが適切なものもかなりある(d)。この竹林はキイボカサタケやシロイボカサタケがよくでるところである。持ち帰るまでは姿形からてっきりウスキモミウラモドキかその近縁種だろうと思っていた。
 持ち帰った個体からヒダ切片(f)をいくつも切り出して先端(g)やら側面(h)を焦点位置を変えながら探したが、シスチジアが全く見つからない。念のために別の個体から作った切片を同じように覗いたがやはりどの個体にもシスチジアがない。トガリウラベニタケの胞子は四角形とされるが、このきのこの胞子(i)はウスキモミウラモドキの胞子と同じような形をしており、やや小ぶりである。担子器(j)の基部にはクランプがあるように見える。しかし、傘肉、ヒダ実質、柄など組織の他の部分にはクランプは見当たらない。
 採取会の現場などでこのきのこが並んだら、おそらくウスキモミウラモドキとして処理されてしまうのだろう。最初見たときには「変なキイボカサタケだなぁ」と思ったくらいなのだから。今朝はヒダのシスチジア探しで何枚ものプレパラートを作ってしまった。

2003年5月25日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 一昨日・昨日といわき市で友人らと楽しいひと時を過ごした。昨日朝フミヅキタケのヒダ切片を作ろうとしたところ、うまく切り出すことができなかった。前日のアルコールの影響とも思えないのだが、数回の試みはすべて失敗に終わった。その後コザラミノシメジのプレパラートを複数の顕微鏡で覗いたのだが、対物レンズが違うといかに見え方が違うかを露骨に感じさせられた。最高級のプランアポと普及型のアクロマートでは比較するほうが無茶というものだろう。
 5月19日の日光で採取したクリタケ属のきのこ(a, b)は時間がなく、そのまま冷蔵庫の野菜籠に放置していた。すでにいたみ始めていたので、今朝あわててミクロの観察をした。
 当初カバイロタケだとばかり思い込んでいたのだが、ヒダがやや疎でフチが微粉状なのが気になっていた(b)。切り出したヒダ切片を5%KOHでマウントしてみたが、予測どおり、側シスチジアもクリソシスチジア(黄金シスチジア)もない(c)。念のためにアンモニアも使ってみたが結果は同様だった。胞子(d)は頂部に明瞭な発芽孔がある。担子器(f)の基部にはクランプは見当たらない。縁シスチジア(e)は胞子と同じような幅の長い棍棒状ないし紐状で縁に多数ついている。カバイロタケではなくミヤマツバタケとするのが妥当だろう。

2003年5月23日(金)
 
菌類の多様性と分類 申込締切り6月20日
 
 国立科学博物館つくば実験植物園と菌学教育研究会の共催による、平成15年度の「自然史セミナー 菌類の多様性と分類」講座の申込締切りまで1ヶ月弱となったので再度とりあげた。講座日程は6月27日(金)、6月28日(土)の2日間で、会場はつくば市の国立科学博物館筑波実験植物園 研修展示館実習室である。これまでは、都内の新宿分館研修室で行われていたが、今回はつくば市で行われるので注意が必要だ。申込締切りは6月20日(消印有効)。
 6/27 ハラタケ目の分類(根田 仁)、6/28 顕微鏡の使い方(土居ほか)で、両日とも10:00〜16:00である。定員はこれまで同様、1講座20名で、参加費は1日につき 一般 2,000円 学生 1,500円。詳細は上記タイトルをクリックすると表示される。5/22時点で6/27は20名強、6/28日は20名弱の申し込みがあるとのことである。若干の定員オーバーには対処できるということだ。
申込先 〒187-0032 東京都小平市小川町2丁目1299-49
   菌学教育研究会事務局 布村公一
     Tel 042-343-6836  E-mail:BZG22155@nifty.com
問合せ先 国立科学博物館企画課 Tel 03-5814-9875
   国立科学博物館植物研究部 〒305-0005 つくば市天久保4-1-1
    土居祥兌 Tel 0298-53-8973  E-mail:y-doi@kahaku.go.jp

2003年5月22日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 早朝の見沼地区(さいたま市)には多くの種類のきのこが見られた。10日ほど前から腹菌類が何種類か出てきているが、今朝目立ったのはツマミタケ(a)だった。今にも顔を出しそうなタマゴ(b)があちこちにあった。サンコタケ、キツネノタイマツなどは今朝は見られなかった。
 キオキナタケ(c)、オキナタケも草むらやらチップのあちこちに出ていた。草むらの中をよくみるとツブエノシメジ(d)、コザラミノシメジ、サケツバタケ、ツバナシフミズキタケ、ウスベニイタチタケ(e)、シロフクロタケなどが多数出ていた。これらのうちツブエノシメジ、シロフクロタケ、サケツバタケに関しては傘径20cm以上のとても大きな個体がいくつもあって驚いた。
 大きな赤っぽいきのこが草むらに見えたので何だろうと思って近寄るとミドリスギタケ(f)であった。一見地表から出ているようにみえたが、地下のウッドチップからの発生だった。これもとても大きなもので傘径18cmほどあった。他にもヒトヨタケ科のきのこが5〜6種、コガサタケ属のきのこが数種類みられた。

2003年5月21日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
 今朝は趣向を変えて、ふだんやっている同定のための作業、つまり観察結果と状況証拠に基づいた「謎解き」を少していねいに記述してみた。各種の計測値の詳細やら、試薬を使っての反応などについては煩雑になるので省略した。それでも写真が17枚となってしまった。扱った素材は、一昨日日光で採取した傘と柄をもったキノコである。

 日光でカラマツ林の地上に釣鐘型のきのこが群生していた(a)。カラマツの切り株近くに生えた株もあった(b)。傘の表面には放射状の繊維紋があり(a, b)、ヒダは白く密(c)で、柄は傘と似たような色で表面が繊維状にささくれ基部がやや膨らんでいる(d)。ツバやツボはない。子実体のサイズを詳細に記述すると煩雑になるので、ミリメートル単位の定規を b の株と一緒に撮影したものを掲げた(e)。地中に何らかの材が埋まっているのかどうかは確認できなかったが、偽根の先にはカラマツの腐朽材もあった。どうやら地下の材を餌にしているらしい。
 持ち帰った個体を縦断してみると、柄は中実〜中空でヒダはピンク色に変色していた(f, g)。ヒダは隔生〜離生(f)で柄の付け根にリング状の不稔部がある(g)。胞子紋はピンクがかった褐色(h)である。胞子紋から採取した胞子をいわゆるドライマウントで見ると、ゴム球を指で強く抑えて押しつぶしたような姿をしている(i)。水でマウントすると類球形〜短楕円形をしている(j)。
 ヒダ切片を切り出して低倍率で覗くとヒダには大きなシスチジアが無数にある(k)。ひだ実質は逆散開型をしており(l)、縁シスチジアは薄膜で先端がやや膨らんだ棍棒状をしている(n)。側シスチジアはやや厚膜〜厚膜で先端にはカギ状の突起がみえる(m ,o)。担子器基部にはクランプはない(m, p)。傘表皮の組織は繊維細胞状をしている(q)。
 最初見たときにはヒダは白く柄は繊維状でややささくれているので、いずれの科に属するのかわからなかった。時間経過とともにヒダがピンクに変色を始めたので、ウラベニガサ科かイッポンシメジ科だろうと考えていた。胞子紋はこれらの判断を裏付けていた。さらに、胞子の形からイッポンシメジ科の線は消えた。さらにヒダ実質が逆散開型であることから、ウラベニガサ属であることはほぼ確定的となった。次に傘表皮が繊維細胞状、かつ側シスチジアが厚膜であることから、ほとんど考えることもなく図式的にPluteus節にたどり着く。その先は他の項目も検討してやや詳細にみていくと P. cervinus(=P. atricapillus:ウラベニガサ)に落ちた。
 和名のウラベニガサにはPluteus atricapillus (Batsch) Fayの学名がしばしば充てられているが、「ウラベニガサ」自体が複合体(cervinus complex)と考えられるから、このきのこはウラベニガサとしてもよさそうだ。しかし日常的にやっていることでも、こうやって短時間でそれを具体的に記すとなると実に面倒くさい。

過去の雑記
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2003
2002
2001