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日( )

2003年10月31日(金)
 
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(e)
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 昨日茨城県南部の浜を波崎町から鉾田町までこまめに十数ヶ所回ってきた。出会ったのは、スナジクズタケ(a)、スナヤマチャワンタケ(c)、ササタケの仲間、ニセマツカサシメジ、マツカサキノコモドキ、ホコリタケ、アセタケ属のみであった。疲れた一日だった。
 スナジクズタケが汀線から10数メートルほどの波をかぶりそうな場所に多数発生していた(b)。そこから数メートルの位置にはスナヤマチャワンタケもでていた。防風林に入ると、マツカサから発生するきのこやアセタケ類がかなり見られたが、例年なら必ずみられるきのこの多くはほとんど出ていない。マツバハリタケにいたっては一つもみられなかった。
 久しぶりに今朝スナヤマチャワンタケを顕微鏡で覗いた。カミソリで切り出そうとすると、こびりついた砂粒がジャリっとあたってやりにくい。厚ぼったく脆い子嚢盤托は円形菌組織からなる(d)。メルツァー液で子嚢先端が直ちに濃青色に染まるのが面白い(e)。

2003年10月30日(木)
 
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(j)
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 親しい友人から紫色の小型のきのこを持ち込まれた(a〜d)。傘は径36mm、表面に粘性は無く平滑でやや繊維状、中心部は濃紫色。肉は白色、ひだは密で上生、類白色(d)。柄は6〜7.5×62mm、表面は繊維状、基部でやや膨らむ。10時間かけて採取を試みたが、胞子紋は全く落ちなかった。持ち込まれたのは一個体だけで、イッポンシメジ科のきのこではないだろうか、ということだった。このほかの情報はない。
 ひだを切り出して探したが、シスチジアの類は全く無い(e)。ひだ実質は並列型でわずかにクランプがみられる(f)。担子器の基部にはクランプがある(g)。傘表皮は子実層状被でクランプが多数みられる(h)。表皮直下には色素粒が細胞外に多数みられる(i)。胞子がまだほとんどできていないようだったので、サイズはわからないが担子柄についた未熟胞子の形は楕円形である(j)。
 以上のデータをもとに保育社「原色新日本菌類図鑑(1)」の検索表(p.20-23)をたどるとキシメジ科に落ちる。そこでp.56以下の属をたどるとユキワリ属ヒメムラサキシメジ節に落ちる。つぎに、ヒメムラサキシメジ(Calocybe ionides)の説明を読むと、ほぼ該当する。番号にしたがってPlate10のNo.71を見ると確かによく似た図が描かれている。しかし山渓フィールドブックス「きのこ」に掲載されている写真(p.29)とはずいぶん印象が違う。家の光協会「幼菌の会編 きのこ図鑑」には比較的近い印象の写真が掲載されている(p.32)。色の変異の幅がかなりあるのだろう。
 スイスの菌類図鑑No.3のCalocybe ionidesでは傘表皮の構造がやや異なるが、その他の特徴はほぼ一致する。とりあえずこの紫色のきのこはヒメムラサキシメジとしてよさそうである。ただ、ヒメムラサキシメジ=Calocybe ionides (Bull.:Fr.) Donkとするにはやや疑問が残る。

2003年10月29日(水)
 
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 最近はコガネタケ、ハタケシメジ(a)、モエギタケ(b)などにあちこちでよく出会う。ニオイオオタマシメジの発生もいつもよりも多いのか、あちこちから便りが届く。残念ながらせっかくのチャンスをみすみす逃してきた。ツチグリ(c)も例年よりも発生量が多いように感じる。しかし、タマノリイグチには結局出会えなかった。ハナビラニカワタケ(d)もよく目立つ。ちょうどカタツムリが食事中の姿にもであった(e)。
 今朝は最近自分たちで直接採取して食べたきのこを取り上げた。ツチグリは地中の幼菌を掘り出し硬い殻をむいて中身を食べる。東南アジアでは缶詰にして輸出している国もある。幼菌でもグレバが黒くなったものは食用には適さない。ハナビラニカワタケは一度乾燥させて戻した方が味わい豊かになる。

2003年10月28日(火)
 
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(f)
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 ニクアツベニサラタケのように見えるキノコ(a, b)を、タッパウエアに容れて持ち帰っていた。採取時に顔を近づけると胞子が飛び出す様子が見えた。子実体が成熟していることは間違いない。多忙の中、数日冷蔵庫に放置しておいたが、今朝調べてみた。
 縦断面をみると中心部はかなりの厚みがある(c)。子実層面をみると側糸に囲まれるように子嚢が並んでいる(d)。メルツァーでは特に変化は無い(e)。
 胞子(f)をみると表面に縦線模様は見られない。ということはこのきのこはニクアツベニサラタケではない。しかし今朝は、これ以上の追究をしている時間はない。
 ハーバード大学の標本サイトをみるとニクアツベニサラタケ(Phillipsia domingensis)の胞子写真等が掲載されている。以下をクリックすると写真が表示される。
Systematic Studies in Discomycetes: Pezizales
 ここには、胞子や子嚢子実層などの光学顕微鏡写真、SEM(走査電子顕微鏡)による胞子の写真などもアップされているので、とても参考になる。

2003年10月27日(月)
 
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 砂浜にきのこが少なかったが、クロマツ防風林にはいろいろなきのこが出ていた。ベニタケ類、ホコリタケ類、チチタケ類などが多かった。その中でひときわ目を引くきのこがあった(a〜c)。ヒダを結ぶ顕著な脈絡がとても印象的である(c)。これにつられて興味本位に持ち帰った。
 胞子紋は白、胞子(d)は非アミロイド(e)。とりあえず切り出した切片は縁がとてもにぎやかで、大型の側シスチジアの存在を感じさせる(f)。倍率を上げてみると並行に走るヒダ実質がみえた(g)。子実層の部分をみると大きなシスチジアが見える(h, i)。一方縁シスチジアは丸い風船形をしている(j)。子実層面には細長い担子器が並ぶ(k, l)。菌糸にクランプは見つからない。
 保育社「原色日本新菌類図鑑」の検索表からはヌメリガサ科に落ちる。そこでヌメリガサ科の検索表をみると「3'. 菌糸にはクランプがない。傘および柄の表面はゼラチン化することはない。ひだは垂生しない。ひだ実質は並列型」に落ちる。これはHumidicutis(Sing.)Sing.である。
 このページ(p.37)の検索表の末尾には「(註)上の7属のうち、日本産種が知られているのは和名のある3属だけであるが、今後は他属の種類も発見されることであろう。」との記述がある。ということは、この図鑑からは「Humidicutis」という属については何もわからないということになる。
 スイスの菌類図鑑No.3にもHumidicutisは一つも載っていない。うんざりしながらSingerの「The Agaricales in Modern Taxonomy」にあたると、p206以下にHumidicutisについての記述がある。しかし、個別の種についてはここからはわからなかった。さらにこれ以上追究するとなると別の専門書にあたらねばならない。しかし手許にはヌメリガサ科のモノグラフなどは無い。
 ここがアマチュア菌類愛好家とアマチュア菌類研究者との境目である。ヌメリガサ科にはさしたる興味はない。今朝はこの時点でさっさと探索を放棄し、きのこも捨てることにした。興味本位できのこを持ち帰ったことにささやかな後悔の念が残った朝だった。

2003年10月26日()
 
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(d)
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 10月23日から25日にかけて、埼玉県秩父の石灰岩地帯、新潟県紫雲寺町の砂浜、長野県信州中野周辺のコナラ林を歩いてきた。この3日間の走行距離約1,400Km、歩行約30Km。目的のきのこには出会えなかったが、たっぷりと紅葉と新雪を楽しんだ。新潟県の浜辺ではまるでいくつもの紛らわしい姿のきのこ(a)に出会った。砂浜に柄を伸ばして発生する姿はまるでケシボウズタケそのものにみえてしまう。掘り出してみるとホコリタケ科のきのこであることがわかる(b)。胞子や弾糸の姿もとりあえず観察しておいた(c, d)。また、砂浜にはハラタケ属、ササタケ属、キツネタケ属のキノコが多数発生していた。しかしこの3日間で撮影したキノコは結局ほとんどなかった。

2003年10月24日(金)
 
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 近くの雑木林で小型のフミヅキタケに似たきのこを採取した(a, b)。早落性のツバを持ち、柄は充実してしっかりしている(c)。成菌や老菌ではツバの見られるものはほとんどない。若い菌では柄の下部に向かって大きく膨大しているが、成菌では柄は棒状になり、傘の中央がやや凹状にくぼむ。ヒダは若いうちは白いがすぐに茶褐色になる。胞子紋は淡褐色から黄褐色である。
 胞子は黄褐色で細長いレモンのような形をしており、とてもユニークである(d)。発芽孔の有無ははっきりわからない。ヒダを切り出してみると、側シスチジアの存在を思わせる(e)。倍率を上げてみると、ヒダ実質は並行型で、側シスチジアはフラスコ型で細長い首をもっている(f, j)。細い首の部分だけが子実層面から突出しており、フラスコ部分は子実層に埋没していてわかりにくい。縁シスチジアは小さく、寸詰まったフラスコ型や便腹型をしている(i)。担子器は2胞子をつける(g, h)。4胞子タイプはみつからない。傘表皮の組織はやや扁平な球形の細胞からなっている(l)。
 間単に種名まで落ちると思っていたのだが、あちら立てればこちら立たずで、結局迷宮入りである。きっと見る人が見れば、これだけの材料がそろえばきっとすぐにわかるのだろう。
 今日はこれから遠出するので明日の雑記はお休みだ。

2003年10月23日(木)
 
(a)
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(f)
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 ここしばらく不在がちの日が多かったので、先に龍王峡で採取したヒメツチグリ科のきのこは長いこと放置したままだった。もともとやや乾燥気味だったが、採取時とあまり変化はなかった。
 外皮にしっかりと包まれてまだ頂孔の開いていない若い菌を切断した(a)。外皮が非常に硬くなっていて、簡単には切れなかった。中央の柱軸から放射状に腔室が広がっている。まだ全体は粉状にはなっていない。ルーペで見ると外皮は3層構造のようにみえる(b)。内皮は非常に薄く内側には弾糸が無数に生えている。
 外皮の断面をみると中央部は球形の組織からなり乾燥するとこの部分はペチャンコになる(c)。その両側は絡みあった菌糸状の緻密な組織である。胞子はとても小さく、細かい疣状の突起をもつ(d, e)。弾糸は薄膜で太いものと厚膜でやや細いものがあり、太い方には分枝も見られる(f)。この幼菌はかなり成長が進んでいたので既に担子器はみられなかった。
 10月6日の雑記ではヤブレツチガキと明記したが、胞子が若干小さめで弾糸には隔壁こそ無いが分枝がある。だからヤブレツチガキではないと思うが、どの種になるのかよくわからない。

2003年10月22日(水)
 
(a)
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(d)
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(e)
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(f)
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 今朝はドングリキンカクキン(a, b)のミクロの姿を楽しんだ。採取してからしばらくフィルムケースに容れたまま放置しておいたものだ。
 小さなお皿の一部を切り出してメルツァーで染めた(c)。子実層先端と托外皮近くがなんとなく青くなった。倍率を上げてみると、子嚢先端がリング状に青く染まっている(d)。側糸は先端がわずかに膨らんでいる。同じキンカク菌の仲間のアネモネタマチャワンタケマツカサチャワンタケキツネノワンなどの子嚢と同じような形の子嚢であり、先端のアミロイド筒もよく似ている。
 フィルムケースの中で成長を続けていたのだろう。発芽した胞子が視野一面に多数見られた。子嚢に入ったままの状態で発芽している胞子があまりにも多いのに驚いた(e, f)。子嚢の側壁を突き破って菌糸を外に伸ばしている。
 こういった様子はアネモネタマチャワンタケキツネノワンなどを観察した折には見ることができなかったので、非常に興味深かった。胞子紋をきちんと採らなかったので、アネモネタマチャワンタケ胞子を捉えたときのようには、胞子だけの姿を明瞭に撮影することはできなかった。

2003年10月21日(火)
 [その2]
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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 昨日千葉県房総半島の九十九里浜北半分を歩いてきた。ちょうど蓮沼村から飯岡町までの砂浜を6〜7ヶ所ていねいに歩いた。そのうち4ヶ所でケシボウズタケの仲間に出会った。
 九十九里浜には胞子に肋状のウネを持ったTulostoma striatumが圧倒的に多い(a〜c)。仮称でウネミケシボウズタケと呼んでいるが、このケシボウズは全体に白っぽく小ぶりである。10月20日の雑記で電顕写真を取り上げたが、外房で最も多いのがこのケシボウズである。
 次によく見られたのナガエノホコリタケの仲間だった(d〜f)。今はとりあえずナガエノホコリタケとしているが、正確を期すならばこれもSEM(走査電子顕微鏡)で胞子表面の様子を観察しないと断定は難しい。胞子をよく見ると脈状につながった疣が見られる。
 防風林の外しか歩いていないのではっきりしたことはわからないが、浜に出るまでの道の脇では、クロハツ、アセタケ類、ホコリタケ類、ベニタケ類、チチタケ類が多数でていた。また、汀線近くの不毛の砂浜にはナヨタケ属のキノコが多数見られた。

2003年10月21日(火)
 
(a)
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 今日の雑記はとても長い。検索表を使った同定作業をなぞったものだが、きのこの初心者に向けたメッセージのようになってしまった。なお、検索表をたどるには顕微鏡は必須である。

●はじめに  −保育社図鑑を手許に−
 朝、団地近くの雑木林の隅で、柄の細い肉桂色の小さなきのこを採取してきた(a, b)。これを材料にして、検索表からの同定作業をやってみた。使ったのは最もポピュラーな保育社「原色日本新菌類図鑑」である。図鑑(T) p.20−23に掲載されている (ハラタケ目の科の検索表) をたどることにした。文字で説明すると、非常に単調で退屈な作業である。図鑑を手許に置いて当該ページを開いてみないと、何のことかわからないだろう。

●写真のきのこへの補足データ
 写真だけからでは読み取りにくい外見上のデータは次のとおり。傘径8〜28mm、柄1.8〜2.8×35〜65mm、柄の基部はごくわずかに膨らみ軽く白毛に被われる。全体にもろく華奢である。傘にぬめりはなく、ほとんど平滑で鱗片などはない。特徴のある匂いなどもない。胞子紋は類白色。発生していた場所はシイ、コナラ、エゴノキなどを主体とする雑木林である。
 検索表をたどる準備として、ヒダを切り出し(c)、胞子をメルツァーで染めて低倍率で確認し(e)、クランプの有無も見た(f)。まず先入観抜きに検索表(p.20)を頭からたどってみた。

●ハラタケ目の科の検索表をたどる
 1.をみると「多数の球形細胞を含み」とあるので、1'.に移る。すると2.にとぶことになる。ヒダ実質(子実層托実質)は並行型ゆえ(c, d)、2'に移る。すると10.にとぶ。胞子は角ばった形をしていない(d, e)から、10'.に移る。すると11.にとぶ。子実体の肉は強靭ではないから11'.に移る。すると、12.にとぶ。12の記述は該当しないから、12'.に移る。すると13.にとぶ。13.の記述も合致しないから、13'.に移る。すると14.にとぶ。同じ手順で次々たどると、15.→15'.→16と移って、最終的に16'.に落ち着く。ここには「キシメジ科Tricholomataceae(大部分の連)p.56」と記述されている。

●属の特徴からキツネタケ属に落ちる
 次にキシメジ科(p.56)の分類を見ると、1.シメジ連 Tribus Lyophyllae〜11.ホシアンズタケ連 Tribus Rhodoteae まで11の連(Tribus)が掲載されている。そして以下に代表的な属が、シメジ属 Lyophyllum Karst.(p.57)〜ホシアンズタケ属 Rhodotus Maire.(p115)まで、各々について属の特徴と代表的な種が詳述されている。この属の特徴を頭から順に見ていくと、キツネタケ属 Laccaria Beck. & Br.(p62)の特徴に合致する。この段階ではクランプの観察も必要となる(f)。

●キツネタケ属の種の検索表をたどる
 以上は写真の上段(a〜f)のみで事足りる。p.62にはキツネタケ属(日本産既知種検索表) が掲げてある。再び先に (ハラタケ目の科の検索表) をたどったのと同じ手順で読み進むと、1.→1'.→2.→2'.→3.→3'.→4.→4'.→5.→5'.→6.となり、キツネタケモドキに落ちる。そこでp.78のキツネタケモドキ Laccaria ohiensis(Mont.) Sing. の項を読んでみる。するとそこにある記述とほぼ合致することがわかる。つまりこのキノコはキツネタケモドキということになる。

●検索に必須の検鏡データ  −顕微鏡で何を見る−
 検索の過程で、ヒダに球形細胞をもつかどうか、子実層托実質が並行型かどうか、ヒダにクランプがあるかどうか、担子器がいくつの担子柄をもっているか、胞子サイズはどのくらいか、刺の高さはどのくらいか、メルツァー反応はどうか、等などのことが問われる。これらの問いに答えるためには、下段の写真(g〜l)などの観察が必要となる。また種によっては、シスチジアの有無や形、あるいは試薬反応なども重要なポイントとされる。

●下段写真への補足説明
 なお、下段の写真のうち、(h)は担子器の基部にクランプがあるかどうかをみたもの。(i)はメルツァー液中での胞子表面の姿。(j)はフロキシンで染めた胞子の輪郭部。(k)と(l)は担子器の柄がいくつあるのかを焦点位置を変えて撮影したものだ。結果的に多くが2つの胞子をつけ、一部に担子柄がひとつのものや3つのものが見られた。

●状況証拠と経験の積み重ね
 以上の作業はある意味非常に単調で退屈である。しかし一面推理小説を読むのと似たような作業かもしれない。状況証拠を積み上げていくことによって次々に謎が解決していくのは快感である。しかし十分な観察を重ねても、しばしば迷宮入りになったり、お蔵入りになる。その多くは新種や新産種にぶつかったときであり、また資料不足で解決できない場合だろう。
 観察技術や切片作成技術の巧拙、さらには顕微鏡の扱い方などによっては、見えるはずの部位がはっきりしなかったり、自分がどこを見ているのかわからないこともおこる。

●さいごに  −やはり検索表は有用−
 最近はここまでしなくても、たいてい直ちに属・亜属・節までたどり着けるので、「科・属の検索」はめったにやらないが、以前きのこ初心者の頃にはよくやった作業である。現実には、特定のジャンルのきのこごとに、さらに詳しい専門書で属や種の検索表をたどらなければならない場合が多い。その場合の言語は英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ラテン語などが多い。

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