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日( )

2003年4月30日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
2002/5/24富士山で
採取したフクロシトネタケの
胞子と子嚢→
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
 昨日川口市でボロボロになった古いシイタケホダ木からシトネタケ属(a, b)が出ていた。暗かったのでとりあえず持ち帰り、自宅で紙の上に置いて撮影した。4月20日菌懇会の例会(川崎市)でもシトネタケ属に出会ったが、そのときは撮影はせずにサンプルをひとつ持ち帰った。今朝両者の胞子を比べて見るとどうやら同じ種のきのこらしいことがわかった。
 胞子には粗い網目模様があり、両端には何本もの刺状突起がある(c, d)。メルツァー液で染めて表面に焦点をすえると模様が明瞭に浮かび上がってきた(e)。子嚢は有弁の円筒状で先端は円く根元は細くなっている(f)。メルツァー液では反応しない。側糸は先端がわずかに膨らんだ糸状であり、托髄層から托外皮層は連続的で共に絡み合い菌組織をなしている。これらから判断してこのきのこはオオシトネタケだろう。
 外見がよく似たものにフクロシトネタケがあるが、こちらの胞子はオオシャグマタケよりもさらに先端の尖った嘴状突起をもっている(g)。胞子表面は所々で繋がった疣状突起に被われている。子嚢に入った状態(i)もオオシトネタケとはかなり違う。フクロシトネタケの検鏡写真は昨年(2002)5月24日に富士山で採取したときのものだ。
 この仲間のきのこはチャワンタケ類などと同じく外見だけでは同定が難しい(雑記2003/4/24)。また幼菌の胞子はみな同じように平滑な楕円形をしているので、必ず十分に成熟した個体を採取してこないと正確な同定は困難だ。

2003年4月29日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 一昨日栃木県の山中で出会ったオオズキンカブリタケ(a, b)はすっかり成長し立派な姿の個体が多数みられた。成菌だけを数えてみたが、88個ほど数えたあたりでいやになって止めた。他にもまだ数十個体の成菌と、頭だけの幼菌がいくつもあった。これらの中には負の重力屈性の実験のようなもの(b)や、柄の途中から枝分かれして頭部を二つもったもの(c)などもみられた。
 このきのこの胞子は巨大なので、総合倍率40倍でも胞子の姿は明瞭に捉えられる。実体鏡や倍率の高いルーペなら現場でも胞子を見ることができるほどの大きさだ。メルツァー液で染めて対物20倍で子嚢と側糸をみた(d)。他のきのこの胞子との比較のために1000倍での姿も掲げてみた(e)。胞子のサイズはバラツキが非常に大きく、成熟胞子でも小さなものと大きなものとでは、長径で倍ほども違う。なお、カバーグラスに採取した胞子紋をそのままのドライマウント状態で、いつもと違ったフィルターを使って低倍率で覗いてみると美しい姿をみせてくれた(f)。
 オオズキンカブリタケについては昨年4月にも観察しているので、その折のきのこの姿は雑記2002/4/18に、検鏡結果の一部は雑記2002/4/20でも取り上げた。

 去る4月24日の「今日の雑記」で取り上げたチャワンタケについて、菌学教育研究会の布村公一氏からニセクリイロチャワンタケに似ているとのメールをいただいた。それによれば学名はPeziza badioconfusa Korf. であり、氏はかつてゴールデンウイークの頃に採取し神奈川キノコの会「くさびら」6号に投稿、それに対して大谷吉雄先生が和名をつけられたようである。標本はつくばの科学博物館に収納されているという。スイスの菌類図鑑に掲載されていないのは、ヨーロッパでは比較的採取例が少ないからかもしれない、アメリカでは多く採取されているようだ。
 エリオ・シャクター著 くぼたのぞみ訳「キノコの不思議な世界」(青土社)の写真ページに「チャワンタケ属の一種」としてPeziza badioconfusa Korf.が掲載されているが、残念ながらあまり鮮明な写真ではない。また、検鏡結果などの図や写真をネット上で探して見たが明瞭なものはなく、詳細な記述も得られなかった。いくつかの信頼できる菌類関係誌の記述などと照合すると、これはニセクリイロチャワンタケ(Peziza badioconfusa Korf.)の可能性はかなり大きそうだ。

2003年4月28日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 昨日きのこ屋(高橋 博)さんとふたりで栃木県北部の山の中までテンガイカブリ(a, b)に会いに行ってきた。ちょっとみたところ頭部がややノッペリした小型のオオズキンカブリタケのようにみえるが、顕微鏡下の姿は全く違う。子嚢には8つの胞子が入っている(c)。それに対してオオズキンカブリタケは2ないし4つの巨大胞子が入っている。胞子(e)の両極にはしばしば泡のような小さな油滴が多数ついている(d)。側糸は先端がやや肥大しており根元付近から分岐している。さらにメルツァー液では側糸が濃茶褐色に染まる(f)。
 現地は残雪こそ溶けたが、まだ桜の蕾も非常に堅く春にはほど遠い。テンガイカブリの発生地では10日ほど前まではオオズキンカブリタケが出ていたが既に面影もない。全く別の場所で80〜100本ほどのオオズキンカブリタケにであった。そこではすっかり成長した成菌が多数みられた。
 デジカメ(ニコンのCoolPix)の合焦性能が不調で撮影したデータの過半数がピンボケ写真となっていた。ただでさえ合焦性能に問題を抱えたニコンのデジカメなので一端不調に陥ると始末に終えない。せっかく遠出して多数撮影しても全くの徒労となってしまったことは数知れない。

2003年4月27日()
 
ドライマウント
上段
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
水でマウント
下段
(a')
(a')
(b')
(b')
(c')
(c')
(d')
(d')
 顕微鏡に慣れるのに胞子の観察ほど適したものはないと思っている。ヒダ切片を観察したり傘表皮を観察するにはそれなりの技術が必要だ。しかし、胞子を採取するのは簡単だし、プレパラートの作成も簡単だ。しかも胞子の形はいろいろあり、非常に魅力的な世界が広がっている。
 昨日取り上げたきのこは、カバーグラスに胞子紋を堆積させた。これを先ほど検鏡して並べてみた。上の段はカバーグラスに採取した胞子紋をそのまま見たもので、下の段は水でマウントして見たものだ。(a, a')ツバナシフミズキタケ、(b, b')キオキナタケ、(c, c')オキナタケ、(d, d')シロフクロタケ。これらに共通するのは、胞子が比較的大きくはっきりした色を持っているので、顕微鏡で見たときに明瞭な映像を得られることだ。
 (b)のキオキナタケはやや湿っていたのでドライマウントの胞子は凹んでいない。(d)のシロフクロタケは撮影時に間違えてデジカメのモードをエコノミーにしてしまったので粒子が非常に粗い。他と同じ解像度の映像を得るには、再たび胞子紋の採取からやり直さなくてはならない。それには時間もかかるし面倒なのでエコノミーモードのまま掲載した。am3:30、外はまだかなり暗いが今日はこれから出発、行き先は栃木県北部の山の中である。

2003年4月26日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 今朝は待望の雨である。さいたま市見沼区ではウッドチップからいろいろの種類のきのこが出だした。昨日夕方行ってみたところ、特に目立つのがツバナシフミヅキタケ(a)であり、場所によっては一面に発生している(b)。キオキナタケ(c, d)、オキナタケ(e, f)、ウスベニイタチタケ(g, h)もかなり広範囲にみられる。草むらの中をよく見るとツブエノシメジ(i, j)の幼菌もでていた。
 今年やっと出会ったのがシロフクロタケ(k)である。例年だと2月までには必ず姿をあらわしていたのだが、今年は4月も終わりに近くなってようやく出会うことができた。大きなものがいくつか出ていた。ワタヒトヨタケ(l)、ネナガノヒトヨタケ、イタチタケ、ナヨタケ類似菌などは相変わらず数多くみられた。何も無かった武蔵丘陵森林公園(雑記2003/4/25)とはあまりにも対照的だ。
 これらのきのこはなじみのものばかりだったが、昨日のうちに胞子紋だけは採取しておいた。予想通り若いツブエノシメジからは胞子紋は採れなかった。今日はこれから日本菌学会関東支部の年次大会、明日は終日不在。細かい観察は明後日以降となりそうだ。

2003年4月25日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 昨日は仕事先が東松山市だったので、武蔵丘陵森林公園を3時間ほど歩いてみた。地肌がカラカラに乾燥しており、わずかにキクラゲ、カワラタケ、多孔菌をみただけであり、軟質菌のきのこはほとんどなかった。池の畔のジメジメした斜面にも全くきのこの姿はない。
 今朝は、先に(2003.4.9)高尾山のモミ林で出会った小さなヒメツチグリ属(a)を検鏡した。フィルムケースにいれて持ち帰ったのだがすっかり忘れていた。内皮は青黒色をしており白色微粉に被われている。外皮先端から頭部までの高さは25〜30mmほどの小さなものだ。外皮は弓なりに反って、先端は菌糸のマットにつながっている。内皮は外皮に対して短い柄でつながっていて、柄の部分に縦縞などはない(b)。孔縁盤は繊維状で明瞭な円座を持っている(c)。
 胞子は小さく微細な疣状突起に被われている(d)。弾糸にはほとんど分岐も無く、隔壁はもっていない(e)。拡大して見ると厚壁で(f)、非常にまれにわずかに分岐している部分もある。幼菌は得られなかったので担子器などの構造はみることができなかった。
 マクロ的な観察と、胞子・弾糸などこれら乏しいデータだけからでは断定はできないが、どうやらヒメカンムリツチガキ(Geastrum minus)あるいはG. fornicatumなどの近縁種だろう。図鑑によってはこの仲間はすべてヒメカンムリツチガキ(ヒメカンムリツチグリ)として掲載されているようだ。

2003年4月24日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 日曜日に川崎市の生田緑地で採取したチャワンタケ(a)はクリイロチャワンタケかオオチャワンタケあたりだろと思っていたが、どうやらいずれでもなさそうだ。最初にかなり大雑把に子嚢盤の一部を切り出した(b)。托外皮層(c)も托髄層(d)もともに円形菌組織をなしている。
 あらためてやや薄めの切片を切り出してメルツァーで染めた(e)。子嚢部分の中ほどから先端部がアミロイド反応を示している(f)。側糸は隔壁をもった紐状で分枝は無く、先端が心持膨らんでいるものもある(g)。子嚢先端部をさらに拡大して見ると弁の部分がわかる(h)。別途採取した胞子紋から、表面に焦点を合わせてみたり(i)、輪郭部に焦点を合わせて見た(j)。胞子は表面が疣に被われているようにみえる。染色前も後も油球のようなものは全く見つからなかった。
 胞子表面に網目模様がないこと、油球がないことからクリイロチャワンタケは退けれらる。油球こそないが、胞子表面が平滑でないことでオオチャワンタケも退けられる。スイスの菌類図鑑なども見たが、今の時点ではわからなかった。

2003年4月23日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 さいたま市の秋が瀬公園にいってみたが、意外と乾燥していてきのこの姿は少なかった。ウッドチップからは毎度おなじみの不明菌(雑記2003/4/17(f))が相変わらず多数でている。他には、キクラゲ、アラゲキクラゲ、ヒメキクラゲ、コキララタケ(a)、ヒトヨタケ(b)などが目立った。ヒトヨタケには何個体もであったが、いずれもかなり乾燥している。
 サケツバタケのように見えるきのこがでていた(c〜e)。まだ十分に傘を開いていない幼菌(c, d)と少し乾燥気味でつばの脱落しかけた成菌(e)があった。サケツバタケだろうと思ってそのまま数個体をサンプルとして持ち帰った。
 自宅にもどって切片をつくり、縁シスチジア(f)、側シスチジア(g)を見ている限りは疑問を感じなかった。しかし、KOHを加えてクリソシスチジアの確認をしようとしたところ、全く変色しない。胞子紋から採取した胞子を見るとサイズはよいのだが、形がなんとなくこれまで見慣れたサケツバタケのそれと違うような気がした。
 念のために昨年9月30日に検鏡したサケツバタケのそれと比べて見た。マウント液が異なるので色は違うが、低倍率(i)でも高倍率(j)でもやはり胞子の形が違う。厚膜で発芽孔を持っていることは両者に共通しているが、形がなんとなく違って見える。この程度は変異の範囲なのだろうか。クリソシスチジアのこともあるので、やはりこれはサケツバタケではないのだろうか。

2003年4月22日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 川口市や戸田市では昨年まであった梅林が住宅や駐車場になってしまったが、さいたま市や朝霞市の梅林では10日ほど前からハルシメジが出ていた。つい数日前までは小さかったのだが、今日行ってみるとすっかり成長していた(a, b)。足の踏み場が無いほど多数が梅の樹下一面に発生しているところもあった。胞子(c)はいかにもイッポンシメジ科といわんばかりの五角形から六角形の姿をしている。梅の落枝からはアミスギタケ(d, e)があちこちでたくさんでていた。こちらの胞子は水でマウントしただけではあまり鮮明には捉えられない(f)。

2003年4月21日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
  Brackycystidia
    がわかる
 
 
 見沼のウッドチップ帯には何種類ものヒトヨタケ科のきのこがでる。このところワタヒトヨタケ(a)がやけに目立つので数個体を持ち帰った。以前やはりこのきのこを側シスチジア主体に取り上げたので(雑記 2002/12/6)、今回は別の側面を主体に観察してみた。
 まずは、かさ表面の綿くず状の部分を低倍率でみた(b)。比較的短い細胞がつながっている。ヒダを切り出そうとした時点で、すでに傘の部分がかなり溶け始めていた。やっとのことで何とかヒダを切り出すと、担子器の並びと大きな側シスチジアが見える(c)。
 担子器周辺をやや倍率をあげてみると、ヒトヨタケ属に特殊化したBrackycystidiaが明瞭にわかる(d)。薄膜で担子器の根元付近に整然と並ぶ四角っぽい細胞がそれだ。bracky-とはギリシャ語由来のラテン語でshort-ということらしい。だから、barckycystidiaとは短い嚢状体ということになる。ヒトヨタケ属以外ではこういった形のシスチジアは見たことがない。
 サイズをみるために担子器(e)と胞子(f)を油浸100倍で観察した。ワタヒトヨタケの特徴とされる、先端から外れた位置にある発芽孔の様子がよくわかる。いわゆるドライマウント状態の胞子(g)はつぶれたような形をしているが、これでも発芽孔が先端からずれている様子がわかる。
 観察を終える頃には持ち帰ったサンプルはすべてドロドロに溶けていた。ひだの切り出しは間一髪のところだった。溶けるきのこの観察は毎度ながら難しい。

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