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2002年11月29日(金)
 
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 今日から4日間外出のため12月2日まで「今日の雑記」はお休みである。出発まで多少時間があるので、昨日採取したシロフクロタケを顕微鏡で観察した。まず低倍率で縁シスチジア(a)やら担子器の並び(b)を確認した。胞子を伴った担子器などは2002/11/1付「今日の雑記」で取り上げているので、今朝は成熟段階の異なる3個体それぞれの担子器を比べてみた。当然だが、幼菌でも老熟菌でも同じである。担子器の基部にはクランプはない。
 顕微鏡を覗いているときは自然に微動ノブを動かしながら試料全体を観察しているが、撮影するとなるとどこに焦点を合わせたらよいものやら迷ってしまう。細い担子器の基部に焦点を合わせると、担子器の頭部がぼんやりして何を写しているのかわからない。一方頭部の膨らみに焦点を合わせると細い基部の様子はぼやけてしまって全くわからない。こうやって実際に覗いてみると、論文の検鏡図の多くがなぜ手書きスケッチなのかを実感をともなって納得できる。
 若い菌(11/28a,b)の担子器(c)、成菌(11/28c,d)の担子器(d)、老熟菌(11/28e,f)の担子器(e)を、それぞれから切り出して作ったプレパラートから撮影した。これはいずれも対物100倍油浸レンズによる映像だ。今回はデジカメでの撮影のために、なるべく端子柄から根元までが写りそうな被写体ばかりを選んでみた。そうなるとおのずと胞子を伴った担子器は除外される。胞子(f)は成菌のプレパラートから撮影した。さあ、出発の時間だ。

2002年11月28日(木)
 
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 早朝さいたま市の見沼地区に行ってみると、すっかり冬景色となって一面に霜が降りていた。長い霜柱が立っているところもあり、うかつに歩くとぬかる。ウッドチップからは相変わらずネナガノヒトヨタケが、立ち枯れや倒木にはアラゲキクラゲ、古くなったウッドチップからはいくつものシロフクロタケ(a〜f)がでていた。若い菌(a)、成菌(c)、老熟菌(e)がみられた。若い菌の柄の根元(b)、成菌のヒダ(d)はいつも見ているとおりだが、老熟菌のヒダ(f)が霜でやられてすっかり皺だらけになっていた。この老熟菌は昨日袋を破って子実体を伸ばしたばかりのものだ。撮影している間にもヒダの一部が凍って、触るとパリパリと欠けてしまった。
 シロフクロタケは胞子も担子器も大きく見やすい。さらに楽に薄いヒダ切片を切り出すことができる数少ないきのこだ。おまけに発生時期を見ると、関東ではほぼ通年出るようだ。顕微鏡初心者にとってはいろいろな練習をするのに非常に適したきのこだろう。
 復刊ドットコムでの石川のきのこ図鑑の得票数が75票になった。復刊交渉開始まであと25票だ。この本は決してマニアックなものではなく、非常に学問的な書籍だ。青木図版などと並んでアマチュアきのこ研究者による偉大な記念碑でもある。

2002年11月27日(水)
 
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 一昨日は関東地方でも恵みの雨が降った。それ以前があまりにも乾燥していたせいかウッドチップ以外の場所からのきのこの発生は相変わらずとても少ない。先日秋ヶ瀬公園でヒラタケとエノキタケの幼菌を確認したのだが、悪い予測があたって小さなうちにえぐりとられていた。
 きのこが少ない時期だけに、いつもならほとんど見向きもしないホコリタケにも注意が向く。今回世田谷区で見かけたのは柄の途中からさらに小さな頭部が2つ出ている奇形(a, b)だった。ハラタケ目、つまり傘と柄を持ったきのこには奇形がとても多いが、ホコリタケの奇形は初めて見た。念のために胞子(c, d)を確認した。(c)は水でマウントし、(d)は屈折率の大きい粘性の強い液体でマウントしたものだ。液の屈折率の違いが胞子サイズまで違って見せていた。担子器は明瞭にとらえることができなかったので撮影しなかった。
 まだかなり暗いがこれからちょっと見沼地区まで行ってみよう。ウッドチップ以外からも腹菌類(いまや分類学では滅びた名称だが)がでているかもしれない。

2002年11月26日(火)
 
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 日本ではコナガエノアカカゴタケを掲載している図鑑は全くない。各地で行われるきのこ採集会などで参加者が手にしている図鑑といえば、圧倒的に山渓フィールドブックス「きのこ」(a 左)だ。このハンディ図鑑にもコナガエノアカカゴタケは掲載されていないが、非常に近縁のキアミズキンタケが掲載されている(p.278)。これは色が違うだけで姿形はほとんど同じである。
 以前から屋外には Peterson Field Guides シリーズの "Mushrooms"(a 右) を持っていくことが多い。これは北米で出版されたミニガイドである。これまでは "Mushrooms" にもコナガエノアカカゴタケなど載っていないだろうと思っていた。しかしつい最近腹菌類の項を開いてみると(b)、Net Stinkhorn(マクキヌガサタケ)などと並んで Chambered Stinkhorn として掲載されていた。おまけに胞子サイズまで記述されている。しかしこちらにはキアミズキンタケのことは記されていない。
 D.M.Dring の "Clathraceae" を見ると図版(c)とともにコナガエノアカカゴタケとキアミズキンタケを統一的に扱っており、両者についても詳細な説明がある。さらに深く調べるためには必須となる文献リストも豊富だ。Miller の "Gasteromycetes" にも図版入りの説明(d)があるが、こちらには簡潔な説明があるだけだ。詳細に知りたければ巻末の文献リストにあたれということだろう。
 特定の種についてちょっとでも調べ始めると、いやでも海外の文献を渉猟せざるを得ない。それらの文献は大きな図書館にもほとんど置いていないので、結局自分で購入するしかない。これは万年金欠病者には非常に辛い。各地の図書館が充実していればどんなに楽なことだろう。

2002年11月25日(月)
 
 「きのこ雑記」の表紙を少し模様替えした。従来は下側の左右に小さなきのこの写真がアットランダムに表示され、これをクリックすると大きな写真がポップアップ画面にでてくるようになっていた。この写真は更新ボタンをクリックすると別のものに変わる。顕微鏡写真のページを設けたのにともない、この右下の写真には胞子やシスチジアなどが表示されるように変更した。これもアットランダムに表示されるので何がでてくるかはわからない。左側と同じくクリックすると大きな写真がポップアップされる。
 今朝は久々の雨だ。しかしまだ恵みの雨にまでは至らないようだ。川口市、さいたま市、所沢市界隈ではキノコの姿はほとんど消えてしまった。ただ、ウッドチップからは相変わらずネナガノヒトヨタケばかりが元気よくでている。ナヨタケ属は全く姿を消してしまった。
 復刊ドットコムでの[石川のきのこ図鑑]の得票数がやっと69票になった。あと31票獲得すれば版元との交渉開始だ。

2002年11月24日()
 
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(g)
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 10月24日(今日の雑記 2002/10/25)に九十九里浜で採取してきたコナガエノアカカゴタケのタマゴ(a)を冷凍乾燥するつもりで、冷凍庫に保管してあったが、そろそろ一ヶ月になる。
 昨日腹菌類の担子器の話題が出て、コナガエノアカカゴタケの担子器を改めて再確認してみようということになった。冷凍庫から出したタマゴ(b)は一見するとかなりしぼんで表面はすっかり乾燥していた。しかし切断してみると(c)、中のグレバの部分は単純に凍結しているだけだった。
 グレバを薄切りにしてみる(d)と、色の濃い部分が縞模様になって繋がっている。倍率を一段上げる(e)と担子器が整然と並んでいる。担子柄に付いた胞子の色が濃い茶褐色にみえていたようだ。さらに倍率を上げて担子器(f, g)をみると4〜8つほどの胞子をつけている。
 冷凍庫には鼻を突く臭いが充満していた。自宅冷蔵庫を使って腹菌類の凍結乾燥をするには、さらに半年以上かかりそうだ。今日は観察を終えた個体は処分してしまった。

2002年11月23日()
 
 トップページに「資料コーナー」を設けた。とりあえず「菌類 学名→和名便覧」「菌類 和名→学名便覧」「辞書 学名登録用辞書」をダウンロードできるようになっている。また「サイト内全文検索」をトップページにもってきた。これはサイト内のすべてを検索できるように仕様を変更した。
 もう一つ「顕微鏡下の素顔」というページを新たに設けた。実はこれは Microscopic Features of Fungi として、11月10日に開設したのだがこれまでは「今日の雑記 11/7」に一度だけしか表示していなかった。 生き残った胞子などの顕微鏡データを徐々にアップすると同時に、きのこの顕微鏡下の世界を少しずつアップしていこうと思う。
 プレパラートの作成はその場での観察だけを目的としているので、撮影は「おまけ」に過ぎない。観察が済んだらすぐに捨ててしまう。永久プレパラートは手がかかるので作らない。
 撮影に使う顕微鏡はオリンパスの小型単眼が主である。この顕微鏡はコンパクトで気楽に使えるのでとても気に入っている。しかし長時間続けて使っていると、光源からの熱でしばしばプレパラートが変質してしまう。さらにデジカメでの撮影もかなりいい加減だった。これらのため、いま取り上げている顕微鏡写真は全般的に非常に質が悪い。少しずつ「まともな写真」に差し替えていくつもりだ。それにつけても上質の対物レンズ(プランアポ)が欲しい。

2002年11月22日(金)
 
(a)
(a)
(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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 ネナガノヒトヨタケをウッドチップの堆積から採取してきてすぐにプレパラートを作成した。三度目の正直である。ヒトヨタケ属の溶けるきのこを検鏡するときは時間との勝負なので、手際よくやる必要がある。まだ円筒形の幼菌を採取できると切片つくりはとても楽になる。ちなみに、
   ササクレヒトヨタケについては 今日の雑記 2002/5/13 に、
   ヒトヨタケについては今日の雑記 2002/4/14[その2] に、検鏡結果などを取り上げた。
 ヒダ切片(a)をみると低倍率でも大きな側シスチジアが多数みえる。ルーペでもわかるほどの大きさのものが多数並んでいる。少し倍率を上げると、つっかえ棒の役割も果たしているもの(b)やら、ヒダ先端付近のもの(c)が明瞭にわかる。この低倍率でも担子器はわかるが、油浸レンズを使うと(d)端子柄についている胞子の向きなどもよくわかる。ヒダの縁は大きな球形細胞が担子器を支えるかのように1列に整然と並んでおり、間に担子器が挟まるように位置している(d)。
 ネナガノヒトヨタケはこれまでにも何度も検鏡しているので、今朝は撮影を目的としてプレパラートを作った。400倍以上になると焦点深度は1μm以下になってしまうので、試料は慎重になるべく薄く切り出した。このプレパラートは30分も経つとほとんど溶けて胞子だけになってしまった。

2002年11月21日(木)
 
 「石川のきのこ図鑑」の著者である池田良幸さんに、復刊の件を今どのように考えていらっしゃるのか改めて書面でおたずねしたが、昨日お返事をいただいた。池田さんはインターネットを利用していないので、復刊ドットコムにおける復刊希望の声なども書面でお伝えした。私事に関わる部分は別として、公開しても差し支えない範囲で、ここにその概要を記すことにした。
 なんとか増補改訂版を出版したいが、不況のためかどこの出版社も引き受けてくれない。出版社は自費出版を要求するので、資金繰りでどうにもならず困惑している。単純な増刷りすら出版社の厳しい条件のため断念せざるをえない。
 手紙の書面を前にして、今のまま放置するのは大変無責任と気づいたので、何らかの形で要望に応えていかねばならないと思う。今一度考え直して出版社やきのこ会有志と相談し、出版に向けて前進の道を探してみる。    [文責 きのこ雑記]
 初版のままでも十分復刊の価値のある書籍だが、出版社に増刷りの意思は無い。となると当面の策としては、復刊ドットコムによるオンデマンド出版での復刊に期待するしかない。その一方で、著者自身による増補改定版への模索にできる限りの力添えをしていきたい。
 なお、復刊ドットコムのURLは[石川のきのこ図鑑]である。100票に達すると、出版社と復刊交渉を開始するという。現在53票。投票したからといって購入の義務は無い。

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