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2003年9月20日()
 
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(l)
(l)
 今のようにきのこが少ない時期は、勉強するにはもってこいだ。今朝も硬質菌の菌糸型の判定の練習をした。材料は自宅団地の桜の切り株からでていたエゴノキタケを使った(a, b)。メルツァーで反応をみたあと、すぐにフロキシンを使ってプレパラートを作成した。
 最初に薄い切片を切り出してフロキシンで染めた(c, d)。軟質菌ならば担子器などがきれいに並んで見える厚さである。400倍で見ても菌糸層が厚過ぎることは明白だ(e)。油浸1000倍にしても、フロキシンで染まった原菌糸と骨格菌糸らしきものが見えるが、今ひとつはっきりしない(f)。
 次に、このプレパラートのエマルジョンオイルをアルコールでぬぐった。カバーグラスの上に消しゴムを当て、文字を消す要領で菌糸をほぐした。塊が星雲のようなもやもやした状態になった(g, h)。これを油浸1000倍にしてみると、明瞭に3菌糸型の構造が捉えられた。着色しているのが原菌糸でクランプもよくわかる(i)。骨格菌糸(j)、結合菌糸(k)も明瞭に捉えることができる。
 (i)の場面一枚にこれらの3菌糸のすべてが見られるのだが、焦点位置を固定しての撮影ではそれを表すことはできない。いくら薄切りにしても(f)、菌糸を上手にほぐした状態(i)とは雲泥の差である。やはり技術は重要だ。最後に傘表皮部分をみた(l)。なお、チャカイガラタケの胞子はいまだに見たことがない。
 日本菌学会のホームページに「ニュースレター企画 今年最大のオニフスベは何センチ?」という企画が掲載された。日本菌学会会員であれば、誰でも投稿できる。はたして何センチのものが出現するのだろうか。今年は今のところオニフスベを見ていない。かつてのような大物にまた出会いたいものだ。

2003年9月19日(金)
 
(a)
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(b)
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(e)
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(f)
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(g)
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(i)
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(j)
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 このところの乾燥と高温のせいか、埼玉県南部ではきのこの姿がほとんどみられない。しかし硬質菌なら常時10数種類がみられる。今朝は近くの公園で採取した多孔菌(a)を覗いた。
 はじめに組織の一部を薄切りにしてメルツァー液でマウントした(b)。菌糸も胞子も非アミロイドだが菌糸型はよくわからない。管孔部を再度切り出して倍率を上げたがシスチジアなどはみつからない(c)。胞子は2重の壁を持ち、截頭型(頭の一部を削いだような型)をしている(d, e)。この時点でコフキサルノコシカケとほぼ同定できるが、念のために菌糸型を確認した。
 フロキシンで染めてから5%KOHでマウントしたものをそのまま見た(f)。薄切りにしたつもりだが、菌糸がゴチャゴチャして何が何だかわかりにくい。カバーグラスの上に消しゴムを当てて何度か軽くこすると塊状だった切片が雲状星雲のようになった。その状態で再び覗いてみると、クランプを持った原菌糸(g)や、骨格菌糸(h)、結合菌糸(i)が明瞭に捉えられた。消しゴムの威力は大きいが、強くこすり過ぎるとカバーグラスが割れてしまう。またあまり何度もこすっていると、組織が潰れてバラバラになってしまう(j)。
 以上の検鏡結果だけを頼りに、Gilbertson & Rybarden に準拠した検索表に当たっていくと、Ganoderma(マンネンタケ属)に落ちる。現物の小さな破片しかなくても、Ganodermaまでは見当をつけることができる。フロキシンと消しゴムを活用すると同定がかなり楽になる。

2003年9月18日(木)
 
フロキシンと消しゴム
 
 フロキシン(Phloxine B)はきのこの顕微鏡観察をする上では、メルツァー液に次いでよく使われる染色剤のひとつだ。石油原料のタール系色素であり、赤色104号として食品添加物として広く使われ口紅などにも利用されている。劇毒物ではないので、誰でも購入することができる。薄めて使うので数グラムもあれば1年以上使える。細胞質などをよく染めるので、菌糸型の判定などでは絶大な威力を発揮する。しかしなぜかアマチュアの間では意外と使われていない。
 これまでも日常フロキシンを多用しているが、硬質菌の菌糸型の判定にこれほどまでに威力を発揮するとは考えてもいなかった。生殖菌糸(原菌糸、一次菌糸)には必ず隔壁があり、細胞質などの内容物を持っている。菌糸壁が厚膜化して骨格菌糸と間違えそうなケースでも、フロキシンを使えば簡単に原菌糸かどうかを判定できることが多い。
 今回の日本菌学会関東支部ワークショップは服部力博士による「硬質菌の分類と顕微鏡観察」で非常に好評だった。参加して最大の収穫はフロキシンと消しゴムを使うと菌糸型がとても楽に判定できるということだった。消しゴムをカバーグラスの上に当てて軽くこすると、菌糸がきれいにバラせてとても見やすくなる。以前は注意深く薄い切片を作って、フロキシンで染めてそのまま検鏡していた。この方法だと薄く切れない場合には判定が難しい。一方、消しゴムを利用すると多少厚めの切片でも容易にほぐせるので楽に観察できる。
 フロキシンとカタカナ表示をすると同名になってしまうが、抗生物質にFloxinというものがあり、これは色素ではなく全く別の薬品である。正確を期すならフロキシンBといえば間違いない。

2003年9月17日(水)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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 Xylariaの仲間と思われる細長いきのこにであった(a)。一株全体の大きさは50×100×80mm(高さ、長径、短径)ほどあり、これが倒木のそこここに多数発生していた。途中で枝分かれをしたり十字型になったりしたものもあり、触るとまだ柔らかい。拡大して見ても子座表面に孔口のようなイボはみられない。こんなに大きいにもかかわらずまだ未熟なのだろうか。
 一本を輪切りにしてルーペで見ると辺縁に柔らかな袋に包まれた子嚢殼がみえる(b)。顕微鏡でみると子嚢殼の中の胞子はまだ未熟のようだ(c, d)。袋を破って子嚢を取り出し、メルツァー液で染めると子嚢先端が青変する(e)。青変する部分の形状が、筒状ではなく塊状である。なお、これらの子嚢は既に胞子を放出して空っぽになったものか、まだ胞子が完成していないものかよくわからない。あちこちを探してやっと一部に胞子をみつけることができた(f)。黒くて縦に発芽スリットが入っている。写真(f)では左下の胞子をよく見るとわずかにスリットらしきものが見える。
 このXylariaはどうやらこれまで自分で知っている種とは別のようだ。メルツァーでの染まり方が特異だし、未熟とはいえ胞子の大きさも気になる。

2003年9月16日(火)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
(e)
(f)
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 13日に長野県菅平に到着したおり、観察会が始まるまでにはまだかなり時間のゆとりがあったので、峰の原のミズナラ・マツの斜面に入った。菅平のほかの地域はかなり乾燥していたにもかかわらず、場所によってはかなりよい湿り具合で、多くのきのこを観察することができた。
 今回の菌学会関東支部のワークショップのテーマは「硬質菌の分類と顕微鏡観察」なので、傘と柄をもったきのこは全く採取も撮影もせずにのんびりと歩いた。若干の多孔菌を採取してから地面をよくみると黒いヘラ状のきのこが多数でている(a)。遠くからチラっとみたときにはテングノメシガイ科のきのこのように見えた。最初深く考えることなく掘り出すと柄の根元が黄色くひどく枝分かれしている。この時点でツチダンゴに寄生するバッカクキンらしいと気がついた。今度は慎重にいくつかを掘り出してみた(b)。現場は樹木の根が縦横に張り巡らされたところなので、何度も掘り出しに失敗して7〜8個ほどギロチンをしてしまった。
 前にも何度も眺めていはいるのだが、今朝また薄切りにして覗いてみた。黒い頭部を切断すると周囲に多数の子嚢果が見える(c)。薄切りにすると成熟した子嚢があふれていた(d)。一部を拡大すると内部には細かい区切りを持った細長い一次胞子が見える(e)。この仲間の菌の子嚢先端(f)はどれもほとんど変わらない姿をしている。これはハナヤスリタケのようだ。

2003年9月15日()
 
(a)
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(k)
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(l)
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 13〜15日まで菌学会関東支部の観察会・ワークショップに参加していたので、その直前に採取したきのこは処理する暇が無く、ずっと冷蔵庫に入れっぱなしにしておいた。先ほど(pm2:30)帰宅したので、直ちに冷蔵庫から引っ張り出して検鏡した。シロヤマイグチ(a, b)は管孔部が腐敗を始めて白い蛆虫が這い出していたが、何とか検鏡することができた。
 管孔部を切り出して眺めたが(c)、側シスチジアらしきものがみえないので、あらためてフロキシンで染めて管孔のフチをさがしてみた(d)。シスチジアはヤマイグチほど多くなくまばらであった。サイズも若干小さめだ(e)。胞子(f)はヤマイグチのそれとほとんど同じであった。光学顕微鏡レベルではヤマイグチとシロヤマイグチを区別することはできない。
 ホソヤリタケ(g, h)、チチタケ属(i, j)、アセタケ属(k, l)に関しては、もはや検鏡に耐えない姿に成り果てていたので、諦めて廃棄した。結局これらは最終的に種名まではたどり着けなかった。何が何でも同定作業をこなそうと思ったら、持ち帰ったきのこは直ちに乾燥してしまうことが必要だろう。特に猛暑の季節は冷蔵庫などまるで当てにならない。

2003年9月13日()
 
(a)
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(b)
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(i)
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(j)
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 9日のブナ林ではテングタケ類ばかりが目立ったが、カンバの林にはいると今度はイグチ、チチタケ属、アセタケ属が目に付いた。ヤマイグチ(a, b)やシロヤマイグチがやたらに多い。持ち帰ったヤマイグチは一部食用にまわし、残りは冷蔵庫の野菜籠の中にそのまま放置しておいた。今朝はそのヤマイグチを引っ張り出して覗いてみた。
 最初にカバーグラスに採取した胞子紋から胞子をみた(c)。次に管孔部を切り出してフロキシンで染めた(d)。一部を拡大すると側シスチジアと担子器がなんとなくわかる(e)。サイズを計測するために対物レンズを油浸100倍に変えて側シスチジア(f)、担子器(g)を再度確認した。
 次に管孔部に平行に組織を切り出した。管孔部実質は平行に菌糸が走っている(h)。管孔部の先端に行って縁シスチジアをみたが、側シスチジアと形もサイズもほとんど同じだった(i)。最後に傘表皮を観察した(j)。
 今日から15日(祝)まで、長野県菅平で行われる日本菌学会関東支部の観察会・ワークショップに参加するため「今日の雑記」はしばらくお休みである。am6:00、そろそろ出発の時刻だ。

2003年9月12日(金)
 
(a)
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(c)
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 先日の上州武尊山のブナ林にはテングタケの仲間が実にいろいろ見られた。最も多くみられ目立った順に並べてみた。カバイロツルタケ(a, b)、ヒメコナカブリツルタケ(c, d)、ドウシンタケ(e, f)、ヒメベニテングタケ(g, h)、ツルタケ(i)、オオツルタケタマゴタケアカハテングタケシロオニタケフクロツルタケコテングタケモドキなどであった。他にも、何種類かのテングタケ類、また頭部が黒色(j)や黒緑色の幼菌などもいくつもみられたが、これらは結局同定できなかった。
 一方、例年なら成菌が多数みられるブナ林特有のきのことしては、ツキヨタケ(k)、ブナハリタケは幼菌ばかり、ヌメリツバタケモドキ(l)は最盛期だった。他にも各種のイグチ類がみられ、例年の8月を思わせるようだった。季節が完全に狂っている。

2003年9月11日(木)
 
(a)
(a)
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(c)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
(i)
 さる9日の朝、群馬県の武尊山のブナ林を散策した。道端で多数のホオベニタケにであった。地肌が露出した斜面に群をなして埋まっており、その一部が地表に顔をだしていた(a)。掘り出してみると軟骨状ゼラチン質の偽柄は土にまみれてほとんど見えない(c)。おまけに木の根が絡んでいる。別の一塊の個体群を掘り出し、川の水で洗って石の上に適当に転がした(c)。若い菌を選んで二つに切ってみた(d)。幼菌のグレバは真っ白ではんぺんのようだ(d)。
 3層からなる外皮(e)の最も厚い部分は軟骨状ゼラチン質だ。グレバの内部には弾糸も見られる(f)。幼菌の時にしか担子器(g)は見られないが、他の担子菌のそれと違ってわかりにくい。グレバは成熟にしたがって、柔らかい粘土状になり、さらには粉状となる。弾糸も担子器も成熟すると全く無くなってしまう。胞子(h, i)はその表面に小さな穴が多数開いた厚い膜に被われている。
 武尊山の標高1400〜1600メートル付近は、ブナの林が一面に広がっているが、この日見られたのはテングタケ科のきのこが主で、例年とはずいぶん様子が違っていた。ブナハリタケはまだとても小さく、ツキヨタケも幼菌が出始めたばかりだ。

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