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2003年3月31日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
 茨城県では海に沿った斜面林でカシタケ(a)が最盛期を迎えていた。地元ではシイダンゴとも呼ばれ美味しいキノコとして人気が高いので、いずこも踏み跡だらけだった。海辺を離れてやや内陸に入ると、大きな倒木に巨大なヒラタケ(b)やらクロハナビラタケ(c)などが出ていた。足元のかなり腐朽した倒木からはニガクリタケ(d)がまるでクリタケのような姿を見せていた。
 落ち葉のなかにアカツムタケのようなきのこがみえた(e)ので近寄ってみると違っていた。柄は白い繊維状の短い菌糸で被われていて、根元は白毛のような菌糸が一面に絡みついている(f)。その先は落ち葉の中に広く菌糸マットをつくっていた。ヒダをみるとまるでウラベニガサ科のきのこのようなつくりをしている(g)。隔生で柄との間にはドーナツ状にヒダの無い部分がある。胞子紋は白(h)だった。特にこれといった匂いは無い。
 他にも木の実や地面から美しい色の子嚢菌がでていたり、太い倒木から暗緑色のキクラゲの仲間などに出会った。

2003年3月30日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 トガリアミガサタケの完熟個体がどうやら採取できたので、切片(a)を作って覗いて楽しんだ。胞子はとても大きく低倍率でみてもそのひょうきんな姿(c)を捉えることができる。何ともひょうきんに見えるのは、両端に小さな油球が多数ついているからだろう。
 完熟した成菌でも、まれにこのミニ油球群がみあたらないものもあるが、ほとんどのアミガサタケ類の胞子にみることができる。子嚢の先端付近(d)を見てもそのミニ油球は明瞭にわかる。ただ、このミニ油球群は未熟個体ではほとんど見られない。胞子は対物油浸100倍にすると大きすぎて全体に焦点を合わせることはできないが、ミニ油球が膜の外側に漂っている様子がよくわかる(f)。アミガサタケの仲間は他の子嚢菌に比べると側糸がとても太い(b)。側糸には隔壁がいくつもあり根元付近から分岐している(e)。
 国内の多くの図鑑ではこのミニ油球群について言及していない。そのことに前々から疑問を感じていた。というのも1981年刊のスイス菌類図鑑Vol.1では、アミガサタケ類の胞子の記述において「sometimes with small droplets on both ends(outside the spore wall)」とあり、sometimesとはあるがミニ油球群のことが明瞭に記述されている。一方、1987年刊の保育社「原色日本新菌類図鑑2」には参考文献のひとつとして上記スイス菌類図鑑Vol.1が掲げられている。しかし、アミガサタケ類の胞子については「楕円形、鈍頭、無色、平滑」とだけ記述してあって、両端付近に見られる小さな油球群についてはまったく触れていない。
 アミガサタケ類では、姿はかなり大きくても未熟個体があり(3月21日 雑記)、一方で小さくても完熟個体がある。大きな姿をしているにもかかわらず、一晩放置しても胞子紋がまったく採れないものがある。しかし小さくても完熟個体では一晩も放置すればかならず胞子紋の堆積をみることができる。上記の疑問を解く鍵はこのあたりにあるような気がしている。

2003年3月29日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 都内ではトガリアミガサタケが最盛期のようだ。昨日都内の公園と大学構内を歩いてみると、かなり成長した立派な姿をみることができた。背丈が24cmほどある大きなもの(a, b)やら、駐輪場すぐ脇に15cmほどの大きさで蹴飛ばされることも無く育っていたもの(c)もみられた。イチョウの老木の下には先端が尖っていかにもトガリアミガサタケですといわんばかりの細身のもの(d, e)もみられた。ここ数日の暖かさで桜も一気に開花し始めた。来週後半にはトガリ系のシーズンも終わりとなり、桜の下に出るアミガサタケ(イエローモレル)にバトンタッチということになりそうだ。また、ツバキキンカクチャワンタケもそろそろ終わりを告げているようだった。

2003年3月28日(金)
 
見沼は変わりばえなし
 
 雨も適度に降り気温も上がり始めたので、ひさしぶりにさいたま市見沼地区の公園に行ってみたのだが、目新しいきのこはほとんど出ていない。かろうじてタマキクラゲ、ヒメキクラゲ、アラゲキクラゲ、エノキタケ、ヒラタケが見られた。ウッドチップからはきのこの発生が悪く、わずかにネナガノヒトヨタケ、クズヒトヨタケが見られる程度だった。結局一枚も撮影しなかった。
 もっとも、これまでに無いほど多量のウッドチップが広範囲に撒かれ、それからさほど時間が経過していないのだから、それも当然かもしれない。園内にはまだウッドチップの蒸せるような匂いが充満している。いずれにせよ、昨年までとはえらい違いである。今年の1月以来ついぞシロフクロタケには一度もお目にかかっていない。最近10年間で初めてのことだ。ウッドチップ撒布以外にも1〜2月の低温がかなり影響しているのだろうか。
 昨年の今頃は馬糞堆からジンガサタケが出ていたのだが、今年はまったく出ていない。4月に入ってからの発生なのだろうか。

2003年3月27日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 昨日は吉見昭一先生の告別式、だが京都まで行くには時間が取れない。元気な頃の吉見先生を偲びながら朝の奥日光を歩いて回った。なぜか腹菌類に出会えるのではないかと思った。
 奥日光はまだ腰までもぐる雪に被われている(a)。例年の3月末に比べると積雪はかなり多い。しかし南側の斜面の一部では地肌がのぞきはじめている(b)。
 雪面のところどころに枯れ枝が落ちている。よく見るとタマキクラゲ(c)のついたものがいくつもあった。南斜面では解けた雪の斜面に若葉の芽生えが目立ち始めている。じき4月、春も近い。近寄ると前年のツチグリ(d)がいくつも姿を見せてくれた。
 昼過ぎには帰宅したので、持ち帰ったツチグリを覗いてみた。胞子(e)は褐色をしており表面は小さな疣に被われている。偽弾糸(f)は厚膜でところどころに分岐がみられるが、隔壁はない。

2003年3月26日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 一昨日取り上げたモクレン樹下のキンカク菌(Ciborinia gracilipes)を顕微鏡で覗いてみた。切片を低倍率で見ると(a)、子実層(右上)、褐色の子実下層、髄層(左下)が明瞭に区別される。わずかに倍率を上げると(b)、髄層と托外皮層(左下)の組織構造も違うことがわかる。托外皮層はいわゆる円形菌組織(textura globulosa)、髄層は絡み合い菌組織(t. intricata)をなしている。
 水でマウントしたままさらに倍率を上げると、子嚢が整然と並び胞子の姿もよくわかる(c)。メルツァーで染めてから子嚢を1本とりだしてみた(d)。子嚢先端の頂孔がアミロイド反応を示し水色に染まっている(d, e)。側糸は細長い紐状で先端がわずかに膨らんでいるものもある(e)。飛び出した胞子(f)は一端がやや細めに尖った楕円形をしている。
 (a)、(b)の切片は切り出すまではよかったのだが、カバーグラスをかぶせる時にかなりいい加減にやったので、あちこちに水泡(気泡)が入って見苦しくなってしまった。やはりカバーグラスの縁をマウント液に接触(表面張力を利用)させてから、柄付針なりピンセットを使って、カバーグラスをジワーっと下ろしていかないと見やすいプレパラートはできない。パンをかじりながら片手でカバーグラスを適当にかぶせた結果である。

2003年3月25日(火)
 
ヨモギの根からでるきのこのこと
 
 先にヨモギの根からでるきのこについて取り上げたが(雑記 2003/3/4)、兵庫のN氏はじめ何人かの方からチャムクエタケモドキ(Tubaria furfuracea (Pers.:Fr.) Gill.)としてよいのではないか、という鋭いご指摘を受けたので、その後の経過を略記しておこう。
 3月4日検鏡を終えた時点でsimocybeかtubariaだろうと思った。3月16日の菌懇会例会の折に、いわき市のN氏がこのきのこの新鮮なサンプルを持ってこられた。河川敷のヨモギの根から大量に発生していたという。そしてセイタカアワダチソウの根からも出ていたということだった。川口市見沼地区の休耕田でもセイタカアワダチソウなどキク科植物の根からでていた。
 菌懇会例会の場で傘表皮層を確認したところ、tubaria(チャムクエタケ属)の特徴とされる「匍匐性の糸状菌糸」が認められた。すでに観察済みの他のマクロ的/ミクロ的所見なども考慮すると、集合種(collective species)としてのTubaria furfuraceaだろうと思っている。現時点ではまだ結論を出すまでには至っていないが、T. furfuracea、T. hiemalis、T. romagnesianaあたりに落ちるのではないだろうか。simocybeでは無いように思える。和名のチャムクエタケモドキはいくつかの種が混同された状態で通用しているのではないかと考えている。
 ところでtubaria(チャムクエタケ属)であるが、代表的な図鑑類にあたってみると、所属する「科」が揺れ動いている。保育社「原色日本新菌類図鑑」ではCrepidotaceae(チャヒラタケ科)、スイス菌類図鑑Vol.4ではStrophariaceae(モエギタケ科)、Dictionary of the Fungiも第8版(1995)ではCrepidotaceaeとされていたが、第9版(2001)ではCortinariaceae(フウセンタケ科)と記述があらためられている。池田著「石川のきのこ図鑑」では保育社の図鑑を踏襲してCrepidotaceaeとしている。Dictionary of the Fungiの記述があらためられたのは、最近のDNA鑑定に基づく分子系統分類学の成果を取り入れたものだろうか。

2003年3月24日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 川口市でもようやくシモクレン(a)のつぼみがかなり膨らんできて、一部で開花が始まった。念のために樹下をみると花も咲いていないのにキンカク菌(Ciborinia gracilipes)が出ている(b, c)。小さいが赤みの強いもの(b)もある。掘り出してみると柄の先は小さな菌核につながっている(d)。一方ハクモクレン(e)はあちこちで最盛期だが、樹下にキンカク菌(f)は案外少なかった。シモクレンにせよハクモクレンにせよ、数日前にはキンカク菌の姿は見られなかったから、つい最近になって子実体を作り始めたものだろう。
 今年は1月から3月前半にかけて低温が続いたので、モクレンの開花もかなり遅くなるのではないかと思っていたが、どうやら1週間遅れ程度ですんだようだ。なお昨年は暖かい冬のためにすべてが前倒し状態となり、3/17には川崎市や都内新宿御苑ではハクモクレンが満開状態だったし、3/19には川口市でもシモクレンが満開状態で、多数のCiborinia gracilipesがみられた。今年の気候が平年並みなのだろう。

2003年3月23日()
 
 自宅サーバーを稼働させてからそろそろ1ヶ月半超になる。この間にすでに一度外部からの侵入があり、システムの一部を破壊された。ログファイルから追跡していくとどうやら海外のクラッカーの仕業のようだった。攻撃対象はどこでもよいのだろう、相手かまわずセキュリティの弱いところが狙われる。修復に数時間が必要だったが、データなどには被害はなかった。プロバイダを運営していると四六時中いろいろな攻撃があるんだろうなぁ〜とあらためて痛感する。
 すでに「きのこ雑記」の写真などデータのかなりの部分のリンク先を自宅サーバーに変更した。これまで契約していたプロバイダのひとつからは、予告どおりに「転送量常時オーバーにより削除」の通知がありまるごと削除されてしまった。しかし今後は年間5,000円の契約料金が不要となる。自宅サーバーを四六時中稼働させても年間の電気料金は2,000円もかからない。URLや各々のトップページアドレスは従来のままで変更はない。ただ、その中で表示される多数のhtmlファイルや画像ファイルのリンク先が自宅サーバーになっただけである。

2003年3月22日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 シーズン最後のケシボウズ探しに行ってきた。今回は千葉県九十九里浜の北部の浜を9ヶ所ほど歩き回った。風こそ強かったが比較的温かく空も晴れ上がっていたので、屏風ヶ浦を遠望しながら歩くことができた。2ヶ所の浜でケシボウズに出会うことができた(a, b, f, g)。本来の発生時期は10月〜1月頃なので、今頃残っているものはまず大方はミイラである。
 この仲間は外見だけではほとんど種の同定はできないのだが、ちょっと見た目には両者ともにナガエノホコリタケかアラナミケシボウズタケのように見えた。しかし、胞子を見たとたんに全くの別種であることがわかった。最初に出会ったケシボウズ(a, b)の胞子(c, d)はフロキシンで染めた。弾糸の拳状隔壁(e)は少なく、すぐには見つからなかった。2度目に出会ったケシボウズ(f, g)の胞子(h, i)はそのまま水でマウントした。こちらの弾糸にも拳状節(j)はとても少なかった。
 地理的にまったく離れた場所で採取したものだが、これらはすべてTulostoma striatumと思われる。T. striatumには昨年12月以来何度か出会っている(2002/12/92002/12/142003/2/11)が、それらはいずれもここから南に数十キロメートル以上離れている。

2003年3月21日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
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(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 気温がやや高くなり雨も降ってくれたおかげか、さいたま市でもようやくトガリアミガサタケが成長しはじめた。昨日午後確認したところでは12〜15cmほどになったものが7〜10個ばかりみられた(a〜c)。3月5日に3〜8mm3月16日に40〜70mmほどにまで育っていたものは、そのほとんどが成長することなく、小さな姿のまま干からびた姿をさらしていた。
 背丈15cmほどのもの2個(d)を採取した。頭部と柄との付け根(e)などをみるとほぼ成熟しているようにみえたのだが、結果的にはこの2個体ともまだかなり若い幼菌だった。顕微鏡でのぞいてみるまでは、この2個体に関してはてっきり成菌だとばかり思っていた。
 帰宅して子実層(f)の一部を切り出し(g)、倍率を上げてみると(h)、胞子も子嚢も未成熟であった。メルツァーをやめ、新たにフロキシンで染め直してみると、胞子を作り始めている子嚢をいくつかみつけた(i, j)。胞子サイズはまだとても小さい。このサイズで幼菌ということは、湿度・気温条件が整えば背丈が30cm以上に成長するタイプのものだろう。それまでに踏み潰されたり、引っこ抜かれたりしないで育ってくれるとよいのだが。

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