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日( )

2003年9月30日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 先日川崎市の緑地で行われた観察会(9月28日)では軟質菌が非常に少ないので、例年の今頃ならあまり省みられない硬質菌が結構集まった。それらの中にカミウロコタケ(a, b)があった。よく知っているきのこなので、撮影だけして採取しなかった。他のメンバーが採取してきたので、それをもらって持ち帰ってきた。若い菌の紫色を帯びたフェルト質の感触がとても楽しい。
 今朝はカミウロコタケを改めて検鏡した。はじめにフロキシンと消しゴムを使って菌糸型を確認すると、クランプを持たない原菌糸だけからなる一菌糸型である(c)。次に子実層面付近を薄切りにして切り出した(d)。このきのこの大きな特徴は頭部に独特の結晶を帯びた大きなシスチジアを持っていることである(e, f)。このシスチジアは子実層面の奥深いところから伸びて子実層面の外側まで大きく突出する。一方、子実層内部に埋没したものも多数ある。今回持ち帰った個体では胞子はほとんど見られなかった。

2003年9月29日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
 秋たけなわだというのにきのこの影が薄い。届く便りのほとんどが、例年に比較して圧倒的にきのこの発生が少ないという話である。昨日は所属する会の観察会が川崎市で行われたが、やはりきのこがとても少なく、採取されたきのこの多くが硬質菌であった。ほぼ通年見ることのできる硬質菌で、ふだんならほとんど見向きもされない菌が多かった。
 軟質菌ではベニヒダタケ(a)、ツチヒラタケ(b)はじめ両手で数えられる程度の数しか集まらなかった。今の時期にこれほどしか発生しない年というのも珍しい。しかし、きのこが少ないということは逆に勉強するには非常によい環境だということでもあろう。

2003年9月28日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
 福島のpico(斎藤)さんからロウタケの成菌(a, b)を送っていただいた。一日不在にしていたので受け取ったのは27日になってしまった。幼菌は白くてロウソクのイメージがあるが、成菌になると所々に結晶状の針のような構造物ができて色も褐色となる。一般的にはシロキクラゲの仲間とされているが、成菌(b)の姿をみているとムカシオオミダレタケの上面を連想させる。
 胞子紋を採れる状態ではなかったので、スライドグラスになすりつけ、わずかに採取できた胞子をフロキシンで染めた(c)。胞子は腎臓型ないしソーセージ型でサイズにはかなりバラツキがある。基物についたゼラチン状の層を薄切りにして切片をみると、大まかに三層ないし四層の構造がみられる(d)。ここで組織の上面から二層目に黒い粒のように見えるのが担子器だ。子実層の奥深くに位置して4本の長い担子柄をゼラチン質の外側まで伸ばしている(e)。長い柄の先端には胞子がついているのがわかる(f)。
 最初そのままの状態で倍率を上げて担子器を確認した(g)。ゼラチン質の中で多数の担子器が入り乱れてとても見にくいので、バラして担子器一つだけを分けて撮影した(h)。
 いただいたロウタケは紙袋から取り出すと多数の小さな虫があふれ出てきた。検鏡するために一部を切り出して昨日のうちに冷蔵庫に入れておいた。検鏡にあたっても虫の卵やら挟雑物がいろいろとあってとても見にくかった。

2003年9月27日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 昨日房総の浜にケシボウズの発生状況を確認しに行ってきた。内房の浜では先に数百個体の発生を確認しているが、新たに発生した様子は見受けられなかった。観察できたのは1ヶ月ほど前に発生した個体の姿だった(a, b)。まだミイラにはなっていなかったが真新しい個体とは程遠かった。内房ではあらたに4ヶ所ほどケシボウズの出る場所を確認できた。3種類のケシボウズを確認しているが、昨日はナガエノホコリタケの老菌70〜80個を観察できただけだった。
 房総横断道路を経由して外房の浜を見て回ったが、いずれの浜にもまだ新しいケシボウズは発生していなかった。昨日は以前から確認されているTulostoma striatum(c, d)のほか、ナガエノホコリタケ(e)の老菌なども確認できた。ドングリタケの仲間(f)もちらほら見られた。ここしばらくの涼しい日々とは対照的に、昨日の浜は真夏そのものだった。

2003年9月26日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 先日(9月22日)福島県で出会ったきのこ(a, b)についての失敗談である。
 図鑑などでも見た記憶はない。姿形から多孔菌の一種だろうと気楽に考えて持ち帰った。翌日仲間内で手分けして検鏡した。以下そのなぐり書き。胞子以外は仲間の観察結果である。
 メルツァー反応はデキストリノイド(偽アミロイド)(c)。原菌糸と骨格菌糸からなる2菌糸型(d)。シスチジアはなく、原菌糸にはクランプがあり、樹糸状の菌糸をもち、胞子は平滑で楕円形。傘肉は白っぽい。全体に弾力性がある。
 この結果に基づいて管孔部の形も加味して検索表をたどるとGrammothele(和名なし)という属に落ちた。しかしいくつか疑問が提示された。菌糸がなかなかほぐれない、原菌糸の姿がなんとなく変だ、管孔がピンク色を帯びている、などなど。しかしとりあえず硬質菌の一種だろうということで一件落着となった。
 疑問点を解消すべく、今朝すべて自分で直接検鏡してみた。メルツァー反応は省略して、すぐにフロキシンで染めて倍率を上げてみた。妙なものが見えた。油浸100倍レンズで覗いてみた。なんとヒメキクラゲ型の担子器が見えるではないか(e, f)。多孔菌ではなかった。それを真剣になって多孔菌の検索表をたどって属レベルまで落としていたのだ。
 多孔菌とばかり思ってそのつもりで検鏡していたので、ヒメキクラゲ型の担子器を見落としてしまったものだった。類似の過ちはきっとあちこちで犯しているのだろう。
 これはヒメキクラゲ科のムカシオオミダレタケ属のきのこのようだ。下面が迷路状のヒダをつくらず、羽毛状の毛を帯びた管孔状をなしていることや、管孔部がピンク色を帯びているなど、ムカシオオミダレタケとはやや異なる特徴をもっている。
 9月22日に採取した個体の中には、傘面が羽毛状に分枝した乳白色の毛に被われた個体もあった。この部分だけをみるとまるでムカシオオミダレタケそのものなのだが、子実層面は迷路状のヒダとはいいがたい。この部分も乳白色の毛に被われている。

2003年9月25日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 昨日の影像にさらにいくつか追加しておこう。コウボウフデの幼菌基本体の顕微鏡下の姿である。右の3枚はフロキシンで染色したものだ。ここでは胞子を包む膜をとりあえず仮に以下「子嚢」と記述することにする。それぞれの子嚢には8つの胞子が入っている。若い胞子はまだ平滑な球形をしている。作成したプレパラートを30分ほど放置しておいたら、子嚢の半分ほどは消失していた。また、ライターなどで急激に熱を加えると、子嚢はたちまち消失してしまった。エタノールや5%KOHでマウントしたものも短時間のうちに子嚢を失ってしまった。
 まだ子実体が地表に姿を見せる前に採取した幼菌では、グレバは緑褐色と白の霜降り模様を呈し、子嚢に入った胞子を観察できる。しかし昨年、子実体が地表に多数あらわれる頃に地下から掘り出した幼菌では、その内部はほとんど緑褐色であった。そこには胞子と分岐する薄膜の組織、そして弾糸の姿しかなく、子嚢の痕跡は全くみられなかった。
 昨年のことだが、冷蔵庫などで保存した幼菌は、翌日になると内部は完全に緑褐色一色になってしまった。冷蔵庫の中でも成長を続け、子嚢はすっかり消失してしまった。分岐する薄膜の組織も消失していた。未熟胞子はそのままの状態でバラバラになっていた。
 今朝冷蔵庫から出して検鏡したところ、まだ写真(c)のような状態が維持されていた。この分だと、まだ数日は子嚢が消失せずに残っているだろう。

2003年9月24日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 コウボウフデについて、いわき市の佐藤 浩氏によって明らかにされた事実の一端を記しておこう。(a)〜(f)の写真は氏によって9月21日に撮影されたものの一部である。(b)の写真をよく見ると前年度に発生した個体もみえる。切断された幼菌の内部は緑褐色と白色の霜降り模様をしている。(e)の顕微鏡写真は昨年私のみたものとよく似ている。しかし、視野の右下に見えている歯車のような組織は見えなかった。
 昨年10月14日に掘り出した幼菌が(g)である。当初は切断面に霜降り模様が見えた。検鏡すると、薄膜で隔壁を持った組織が頻繁に分岐していた。ちょうど佐藤氏の写真(e)のような姿であった。そして、組織の途中から円筒状ないし嚢状の組織がでて、その先端やら途中に胞子がついているように見えた。しかし、10時間くらい後には、内部はすっかり緑褐色となり(h)、もはやそういった姿は全く見られなくなってしまった。そのために撮影するチャンスも失ってしまった。
 さて、今回佐藤氏にいただいた幼菌(i, j)を帰宅後直ちに検鏡した結果の一部を提示した(k, l)。胞子の形こそかなり違うが、マユハキタケを連想させるような光景であった。袋の中には8つの胞子が入っている。ちなみに、昨年現地で採取されたコウボウフデは、栃木県で毎年発生するものと同様に、環紋弾糸(elater)を持っていないタイプのものである。

2003年9月23日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 台風とともに北上しながら、昨日福島県の山の中まで日帰りで出かけてきた。早朝の東北自動車道を時折襲ってくる強い突風に悩まされながらもっぱら北上した。目的はセンボンキツネノサカズキ(a〜d)である。今年の異常気象で発生の時期が全く読めなくなっていたが、どうやら例年より早めに出始めたようだ。しかし既に幼菌の段階でバクサれてしまったものが結構あった。多くはまだ子供の握りこぶしより小さめであったが、写真の個体は群れの長径15〜20cmほどにおよぶ比較的大きなものだ。強い雨風のなかで傘をさしてやっとのことで撮影した。
 まだ詳細に見てはいないが、多孔菌の仲間と思われるきのこで見たことのない妙な姿をしたきのこにであった(e, f)。今日はこれを少していねいに調べてみなくてはなるまい。
 昨年10月14日にコウボウフデの幼菌をさんざん探してやっとのことでいくつか掘り出した。幼菌にこだわった最大の目的は、担子器を確認したかったからである。撮影こそしなかったが胞子を伴った担子器を見たと信じていた。
 しかし、昨日新たに知った事実は、自分が昨年見たものは担子器ではなく、菌糸組織の一部と胞子が偶然重なった状態で視野に入っただけのものを、担子器と思い込んでしまったに過ぎないという事実だった。つまり先入観が見せた幻であった。佐藤浩氏が9月21日に強雨のなかで苦労して見つけ掘り出した幼菌をいただいて帰ってきた。氏によって明らかにされた事実は、どう解釈したらよいのか戸惑うとんでもない問題を突きつけている。

2003年9月22日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 昨日午前中に久しぶりに見沼地区を歩いた。時折激しく降る雨のためか公園にはほとんど人影がない。ビショビショになって歩いていると、ツブカラカサタケ(a)を初め、ハラタケ科のきのこがあちこちに顔をだしていた(b〜e)。この写真はいずれもオニタケだった。他にもナカグロモリノカサ、ハラタケ、アカキツネガサが出ていたが、激しい雨のために撮影はできなかった。ツマミタケ(f)、サンコタケ、キツネノタイマツ、ネナガノヒトヨタケ、クズヒトヨタケ、ザラエノヒトヨタケ、アラゲキクラゲ、ハタケチャダイゴケなどもみられた。
 今朝はオニタケの検鏡結果だけを取り上げた。(d, e)は採取時はよく分からなかったが、検鏡してみるとオニタケであった。傘裏をみると親ヒダにはかなりの頻度で分岐がみられる(g)。胞子紋は白色、水でマウントして胞子をみると透明で見にくい(h)。カバーグラスの脇からメルツァー液をそそぐと赤褐色に染まった(i)。偽アミロイドである。ヒダを切り出して(j)側をみると担子器が多数並んでいる(k)。基部にはクランプがある。縁シスチジアは嚢状をしている(l)。
 傘と柄をもったきのこを検鏡したのは久しぶりだった。最近の習慣でつい消しゴムで菌糸をほぐそうとして慌てて中止した。
 今朝はこれから台風と並走して福島県まで行く予定だ。そろそろ出発の時刻になる。雨で道路が閉鎖にならなければよいが。台風を追い越さないように走るようにしよう。

2003年9月21日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 首都圏でも昨日からようやく雨が降り出した。気温も急激に下がりいよいよ秋を思わせる陽気になってきた。今朝は自宅近くの切り株からでていたカワラタケ(a, b)の菌糸をほぐして観察した。
 最初薄切り片を作り5%KOHでマウントしてそのまま見た(c)。いったいどれが原菌糸で、どれが骨格菌糸なのやらほとんどわからない。カバーグラスの脇からフロキシンを注ぐと原菌糸だけが赤紫色にそまった(d)。しかしクランプの有無などはよくわからない。
 サンプルを顕微鏡からはずして、テーブルの上に置き、消しゴムで何回かこすって菌糸をほぐした。再び顕微鏡にかけるとクランプを持った原菌糸が明瞭に捉えられた(e)。骨格菌糸、結合菌糸もよくわかる。以上はすべて対物40倍でみていたが、最後に油浸100倍にしてクランプを高倍率で確認した(f)。菌糸の太さの割には大きなクランプだ。
 このところ軟質菌がほとんど見られなかったので、ちょうどよい機会と思って、早朝の時間は硬質菌の観察と検索表をたどる練習ばかりしていた。このところ持ち帰った硬質菌から2センチ四方くらいの小片を切り出し番号をつけた袋に容れて保存しておいた。これを使って菌糸型・ヨウ素反応・シスチジアなどを観察して、顕微鏡的所見だけから属レベルまで落とす練習をした。状況証拠から追い詰めていく作業はパズルを解くような味わいがある。

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