Top  since 2001/04/24 back


日( )

2003年10月10日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 チャコブタケが胞子を放出し飛散させていた(a, b)。じっと見ていると、茶褐色の塊の表面から細く黒い糸のようなものが出てきて、落下したり風に乗って飛んでいく(b)。このように胞子の放出を日中に見られるケースは少ないようだ。
 切断面には環紋が同心円状に並ぶ(c)。表面近くには子嚢殼が埋まっており、この中に薄い膜に包まれて多数の子嚢が入っている(d)。子嚢の先端にはメルツァーで空色にそまるリングがある(e)。胞子には縦にスリットがあるのだが、写真からはちょっとわかりにくい。子実体の中心部を構成する環紋状の部分は、隔壁を持ったストローのようなコルク質の組織からなっている(f)。
 チャコブタケについては、過去にも何度かここでとりあげている(雑記2003.6.23同2002.10.20等)。外見に似合わず、きれいなアミロイド反応をするリングをもつ子嚢が楽しい。
 明日から13日まで遠出するので、今日の雑記はその間ずっとお休みである。雑記再開は14日以降になろう。

2003年10月9日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 先に栃木県龍王峡で採取した白いきのこは冷蔵庫の野菜籠に放り込んだままになっていた。今朝はこれを調べてみた。切断面をみると内部は白く、柄は中実であり基部はやや膨らんでいる。表面近くが心持ち淡紫色を帯びている(a)。柄の表面は繊維状でしっかりしている(b)。胞子は表面に微細な疣がある(c)。胞子表面に焦点を合わせた状態での撮影はしなかった。ヒダ実質部の組織や傘肉の部分にはクランプがみられる(d)。
 粉末を溶かして作ったばかりのフロキシンで切片を染めてみた(e)。子実層の部分がきれいに染まっている。倍率を上げてみると担子器がビッシリと並んでいた(f)。このフロキシンは0.5gの粉末を100ccの水に溶かしたものだ。
 なお、24時間もかけて採取した胞子紋はほとんど白色といってよい。食べてみた感触はムラサキシメジの味と変わらない。ムラサキシメジ属(Lepista)のきのこには間違いあるまい。ウスムラサキシメジの可能性は非常に高い。

2003年10月8日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先日栃木県龍王峡の遊歩道で採取したイタチナミハタケを検鏡した。このきのこは外見こそ軟質菌だが、顕微鏡下の姿は硬質菌のそれである。
 ヒダ切片(a)を切り出し、倍率をあげてみるとヒダ実質部が妙な構造をしている(b)。あらためてメルツァーで染めてみると、胞子と実質部がアミロイド反応を示した(c)。倍率を上げると絡み合った組織が強いアミロイド反応を示している(d)。さらに倍率を上げるとヒダ実質部のすべてではなくアミロイド反応を示す菌糸組織がある(e)。子実層の部分を見ると担子器などはメルツァーには反応しない(f)。明らかにヒダ実質部は複数の異質の菌糸組織からなっている。
 新たに切り出した切片をフロキシンで染めて5%KOHでマウントすると、カバーグラスの重みで組織が崩れ、子実層と実質部の一部がピンクに染まった(g)。倍率を上げてみると、先ほどメルツァーで染まらなかった部分がピンクに染まっている。消しゴムでほぐして見ると2菌糸型の構造をしている(i)。細長い担子器も一緒にほぐされていた(j)。原菌糸にはクランプがある(k)。胞子紋は白色、胞子はアミロイドで表面に微細な疣がある(l)。

2003年10月7日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 栃木県きのこ同好会の採集会ではきのこがほとんど見られなかったが、コウボウフデだけはいろいろな成長段階のものを見ることができた(a〜f)。宇都宮大学演習林のコウボウフデは保護菌類となっており採取はできないので撮影だけしてきた。他のきのこが異常気象の影響をもろに受けて、非常に発生が悪かったにもかかわらず、コウボウフデだけは例年通りに姿を見せてくれた。ただ、発生数や背丈は例年ほどの勢いはない。
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 今朝は鬼怒川温泉龍王峡で採取したオニタケを覗いてみた。ヒダが分枝し(g)縁シスチジアが嚢状のタイプ(i)であるから、正確にはオニタケの中でもLepiota asperaということになろうか。
 ヒダ実質にはクランプはほとんど見られないが(h)、傘表皮を構成する細胞はクランプを持つ菌糸状のもの(k)と球形細胞の連なり(j)とからなっている。胞子(l)はデキストリノイドで保育社の図鑑に記載のサイズより若干大きめであった。
 日常よく使っているフロキシン溶液がそろそろ底をつく。先に調剤薬局に依頼してあった粉末25gが遮光瓶に入って届いたのでこれで一安心だ。これでむこう一年は持ちそうだ。

2003年10月6日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 土日で鬼怒川温泉の遊歩道、栗山村川俣の林道、塩原新湯温泉神社周辺の山道を歩いてきた。いずこもかなりに乾燥していてきのこは非常に少なかった。
 鬼怒川温泉の遊歩道脇にシイタケが出ていた(a, b)。そのすぐ脇にはイタチナミハタケもでていた(c, d)。地上生のきのこはヤブレツチガキ(e, f)、ほとんど白色だがまるでムラサキシメジのように見えるきのこ(g, h)、クチベニタケ(i, j)くらいしか見られなかった。硬質菌ではヒラフスベ、シロカイメンタケ、カイメンタケ、カワラタケ、ツガサルノコシカケ、ツヤウチワタケなどが目立ったくらいで、数は少なかった。
 川俣温泉付近ではきのこはほとんど終わってしまったかのようであった。タマウラベニタケ、オニタケ(k, l)とわずかにナラタケを少々見かけたのみだった。
 日曜日(10/5)は栃木県きのこ同好会の採集会に合流した。参加者は35〜6名ほどだったが、集まったきのこはたった10数種類とこれまた会始まって以来のできごとだった。

2003年10月4日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
柄無し径4〜6mm
 
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
水でマウント
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
メルツァーで染色
 
 9月28日の観察会の折に宿題となってしまった二つ目の子嚢菌を検鏡した。ほんとうは同定作業はやりたくなかったのだが、引き受けてしまったから仕方ない。子実体の径は4〜6mmほどで柄はない。一見したところアラゲコベニチャワンタケなどにもよく似ている(a, b)。子嚢盤の縁にはわずかに短い毛がある(c)。
 切り出した切片を見ると、側糸には色素を帯びた粒子が満ちている。子実下層は円形菌組織からなっている。やや倍率を上げてみると側糸には隔壁があり、胞子表面には疣があるようにもみえる(e)。しかしこれは表面の疣ではなく内部の油球のようにもみえる。さらに倍率を上げると子嚢先端は膜がやや肥厚している。胞子表面には背丈の低い小さな疣があり、無数の油球を持っていることがはっきりする(f)。
 メルツァーで染めると紫褐色に変色した(g)。特に側糸の色素が強く反応する(h)。子嚢先端や胞子は非アミロイドで色の変化はほとんどない(i)。
 子嚢が非アミロイドであるからチャワンタケ科ではなくピロネマキン科に属する菌だろう。胞子表面に網目状の模様がないからベニサラタケではない。長い剛毛を持たず側糸がアミロイドであることなどからアラゲコベニチャワンタケ(Scutellinia scutellata)ではない。しかし、Scutellinia sp.としてよいのではあるまいか。
 やっと宿題が片付いた。報告文はメールで出したし事務局からは叱られずにすむ。安心して温泉旅行にでかけられる。ネット環境のないところに行くので、明日の雑記は休みである。

2003年10月3日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 9月28日の観察会の折に宿題として二つの子嚢菌を手渡されてしまった。盤菌類に関しては手許に資料・文献類が整っていないので検鏡はできても同定は難しい。しかし有無を言わさず渡されてしまったので、あきらめて今朝はそのうちの一つを検鏡した。
 現地で見たときには未熟なフジイロチャワンタケ(Peziza michelii)のように見えたが、検鏡しないと断定はできない(a)。幸いやや成熟した個体もあったのでそれを基準にして検鏡してみた(b)。子嚢菌では十分に成熟した個体が入手できないと同定は難しい。同じ子嚢菌でも不整子嚢菌ではごくごく若い菌を入手しないと消失性の子嚢は確認できない。
 切り出した切片はそのままメルツァー液でマウントしてみた。子実下層は円形菌組織からなり托外皮層は多角菌組織からなる(c)。有弁の子嚢をもち子嚢先端付近はアミロイドであり、紐状の側糸には隔壁があり下部で分岐している(d)。子嚢と胞子の部分を拡大してみた(e, f)。胞子は15〜18.5×8〜9μmで、表面には不規則に散在する疣を持つ(f)。メルツァーでマウントすると見えなくなってしまうが、おおむね2つの油球を持つ。
 外見からは類似のチャワンタケとしてP. echinospora、P. violacea、P. praetervisa(フジイロチャワンタケモドキ)があるが、P. echinosporaは明瞭な疣をもち油球はない。P. violaceaは胞子表面が平滑で側糸先端がわずかに膨大している。P. praetervisaも明瞭な疣を持ち、側糸の先端がいま少し膨大している。したがって、この菌はフジイロチャワンタケとしてよさそうである。

2003年10月2日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 ずっと晴天続きのせいかきのこの姿が少ない。硬質菌ですら干乾びている。今朝は久しぶりにさいたま市の秋ヶ瀬公園に行ってきた。キララタケくらいはあるだろうと思ったのだが、材上生の軟質菌は全く無く、わずかに干乾びたアセタケ類、ホコリタケの仲間などがみられた。
 ウッドチップの草むらを見ると一面に黄色いきのこが群生していた(a)。てっきりシワナシキオキナタケだろうと思って近づくとどうも様子が違う。鮮やかな色合いの新鮮な個体も多数みられた(b)。幼菌もあちこちにある(c)。傘裏を見るとどうやらベニヒダタケのようだ(d)。
 持ち帰った個体の傘を切り離して胞子紋をとるつもりで、広告紙の裏に置いてすっかり忘れていた。20分ほどして気づくと淡い桃褐色の胞子紋ができていた(e)。最初にカバーグラスに採取した胞子をみた(f)。ここまでは非常に気楽な作業である。
 ヒダを切り出すのはひさしぶりだったのでやはり一発ではうまくいかなかった。切り出したヒダをみると逆散開型の実質を持ち、多数の側シスチジアが見えた(g)。油浸100倍でみると実に大きなシスチジアだ(h)。カバーグラスの脇からフロキシンを注ぎ軽く押しつぶすとシスチジアが飛び出してきた(i)。子実層には担子器がびっしりと並んでいる(j)。
 サンプルとして保存するつもりは全くないので、観察後のベニヒダタケは軽く炒めて朝食の具にしてしまった。やや水っぽいが悪い味ではない。

2003年10月1日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 三重のgajin(谷口)さんからトリュフをいただいた(a)。かなり大きなもので長径5cm以上ある。むろんご自分で採取されたものである。切断面にはきれいな大理石模様がみられる(b)。ルーペを通して表面を見るとイボ状の突起が見える(c)。
 全体にまだ未熟気味だが子嚢に収まった胞子(d, e)には長い針状の突起を帯びている。撮影は、例によって表面近く(d)と輪郭部(e)に焦点を据えた。子嚢には1つから6つの胞子が見られるが、2〜5つ入ったものが多い(f)。中には大きな未熟個体もある(g)。
 形態やら子嚢などをみると、Tuber indicumの仲間には間違いなさそうだ。仮にこれをイボセイヨウショウロ(Tuber indicum)だと仮定してみる。山渓カラー名鑑「日本のきのこ」には、「(胞子は)水酸化カリ液で黒変, ヨード反応は青」と、吉見昭一氏によって記述されている。
 5%KOHではまったく変化がない。10%KOHでもほとんど変わらない。一部にわずかに黒ずんだものがあったが、黒変とはいいがたい(h)。メルツァーで反応をみた。これまた青変はしない(i)。反応を促進させようとライターで熱してみたがやはり青くはならない(j)。
 地下生菌についての文献が手許にはほとんどないので、未熟なイボセイヨウショウロゆえのKOHやヨード反応なのか、あるいは別種(Tuber indicum spp.)なのかわからない。
 なお、ここに掲載した写真(a〜c)は本来の色合いからは遠く、妙に赤色かぶりをしている。gajinさんのホームページ(2003/09/27)にはとても美しい写真と興味深い記述が見られる。このきのこの本来の色合いなどはそちらを参照してもらうのが一番だ。

過去の雑記
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2003
2002
2001