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千葉県外房の海辺にいくとしばしば茶色いチャダイゴケ(a)に出会う。仲間内ではハマノチャダイゴケなどと呼んでいるが、これは小林義雄博士によるカバイロチャダイゴケ(Cyathus badius)ではあるまいかと思っていた。昨年の雑記(2002.9.20)でもこのキノコを取り上げた。 7日(日)にもやはり外房で出会ったので持ち帰り、今朝あらたに検討してみた。全般的な印象としてはハタケチャダイゴケにとてもよく似ているが、全体がかば色であることや、圧着した粗毛のあること、砂地に埋もれた材などからでること、胞子サイズがハタケチャダイゴケに比較すると一回り小さい(d)ことなどが観察される。砂地に深く埋もれた材から発生することもあり、一見するとまるで砂地から直接発生しているかのように見えることもある。砂浜に列を成してきれいに並んでいる姿には何度も出会っている。 ペリジオール(小塊)は黒から黒褐色で一つの個体に8〜12粒ほど入っている。この部分がカバイロチャダイゴケのそれとは大幅にことなる。カバイロチャダイゴケでは15〜25粒も入っているという。裏面の臍の緒は白色で巧妙に折りたたまれている(c)。伸ばすと10cmほどにもなる。雨粒にはじき出されたペリジオールは臍の緒を長く伸ばして勢いよく飛び出し、周囲の植物などに絡みつく。1メートル以上も遠くへ飛ぶものもある。 全体的な姿、発生環境、子実体の特徴などはカバイロチャダイゴケの記述に合致する部分が多い。一方、ペリジオールのサイズや胞子のサイズがやや大きい。一個体に収まっているペリジオールの数もやや少ない。これらを勘案すると、やはりカバイロチャダイゴケとも違うようだ。 |
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九十九里の浜には一見とても紛らわしいきのこもでていた。ケシボウズのミイラをみつけたと思ってよく見るとなんとなく変だ(a)。息を吹きかけると簡単にコロコロと転がってしまう。裏面をみると柄の痕跡は全くないか、あるいはほとんど無い。対物40倍で見ると短く断裂した弾糸が多数見える(b)。拳状節はない。胞子もなんとなく様子が違う。対物100倍油浸レンズにしてみると、胞子の表面には微細なイボがみえる(c)。これはドングリタケのようだ。これまでも何度もケシボウズの仲間と間違えてきた(雑記2003.2.10など)。 浜辺も防風林内もとても乾燥していてきのこはほとんど見られない。そんな中で唯一大きくて白いきのこ(d〜f)が遠くからも目だった。ハラタケ科のきのこのようだ。他にはベニタケ科、ニセショウロ科、アセタケ類、チャダイゴケの仲間くらいしかみられなかった。 |
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昨日朝、菌友のS氏と千葉県九十九里浜にケシボウズの観察に行ってきた。これまで見られた場所には、8月12日に観察した個体のミイラが二つ三つ転がっていた。その脇には最近発生したと思われる個体がいくつか出ていた(a)。午前10 時には帰宅していたので、直ちに確認したところ、これらは予測通りいずれもTulostoma striatumであった。柄を見ない限りこれはナガエノホコリタケとよく似ている。ただ、個体のサイズはいずれもかなり小さい。 その場所から数十メートルはなれた場所と数百メートル離れたところで、新たにいくつかのケシボウズを見つけた(b〜f)。最初ウサギの糞のようなかたまり(b)を見つけたので、周辺をよく探してみると、頭を少し出したものも見つかった(c)。それを掘り出してみると、すぐ脇にやや小ぶりの個体がついてきた(d)。頭部の孔口はまだ全く開いていない(e)。その近くの別の場所で掘り出したもの(f)には柄の基部がやや膨らみ、そこから多数の菌糸が伸びていた。菌糸屑は頭部の外皮にも多数まとわりついていた。 胞子(g, h)にはイボとか刺ではなく、隆起した畝をもち、弾糸には拳状節がある(i, j)。外皮・内皮、柄の様子、孔口や孔縁盤などの特徴から、これらはいずれもT. striatumだろう。それにしても、この浜ではこれまでのところ、ナガエノホコリタケも確認しているが、いわゆるケシボウズタケ(T. brumale)は一個体も見つかっていない。発生の本番は晩秋からではあるまいか。 |
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道端の地肌が露出した斜面に赤いチャワンタケがでていた(a)。ちょっと見た目にはニクアツベニサラタケかベニチャワンタケかはっきりしなかった。地中の材から出ていたのだが、柄はあるようにも見えるし無いようにもみえた。写真(a)のようなものばかりでなく、暗いえんじ色でかなり肉の厚いものもあった。未熟を承知でとりあえず数個体を持ち帰った。 今朝持ち帰ったすべての個体から、それぞれ切片を切り出して観察してみた(b)。倍率を少し上げてみると子嚢と側糸が並んで見える(c)。側糸の中には赤い色素を帯びた顆粒が密集している。胞子の形は楕円形なので、ニクアツベニサラタケの線はほぼ消える。 顕微鏡のステージに載せたままの状態でカバーグラスの隙間からメルツァー液を注いだ。見ているとじわじわと組織にメルツァーが染み込んでいく。メルツァーに触れたところから、次第に暗緑色に変わっていく(d)。やがてすべてが暗緑色に変わってしまった。側糸の中の色素顆粒がヨードで反応したようだ。胞子やら、子嚢の色には何も変化はない。 子嚢についてのみ言えばメルツァー反応はマイナス、つまり非アミロイドということになる。胞子についても同様である。したがって、図鑑類によってはメルツァー反応は陰性と書いたものも見られる。だが、側糸の中の色素はアミロイド反応を示している。顕微鏡などを使わずに、子嚢盤表面にイソジン(うがい薬)をたらしてみると、暗緑色にかわる様子がよくわかる。 これらはみな未熟個体だったために、胞子サイズなどがやや小さいが、ベニチャワンタケに間違いないだろう。ちなみに半日かけても胞子は全く採れなかった。 |
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先日山梨県東部でヒメツチグリ属(a, b)の仲間を持ち帰ったのだが、なかなか見る時間がとれずに冷蔵庫の肥やしとなっていた。成菌の内皮は白っぽい色をしており、頂孔は繊維状(d, e)で明瞭な形の円座とか溝線のようなものはみられない。外皮は3層からなっており(f)、内側の反り返った部分は淡紅色を帯びている(a)。円座や柄はなく、広く落ち葉に菌糸マットをつくり、そこから直接発生している。 現地で幼菌をいくつか切ってみた。内部が白くはんぺんのような感触のものは少なく、多くは暗褐色の綿くず状となっていた(c)。担子器や特殊な形の組織を確認するには、内部がまだ白い幼菌が必要だ。幼菌の大部分は扁平な類球形だが、一部頂部がやや尖り気味の個体もあった。いずれも表面に短い毛がみられる(b)。 外皮の最内層は球形細胞からなっており、少しの水分ですぐに膨張する(f)。それに対して、内皮は1層で非常に薄く細かい組織からなっている(g)。担子器(h, i)は細長くちょっと見ただけではなかなかわかりにくい。胞子も小さいがよくみると表面に微細なイボがみられる(j)。弾糸は厚膜で分岐はほとんどみられない(k)。幼菌の子実層には電球のバルブのような形をした細胞が多数みられる(l)が、担子器同様に成菌では全くみられない。 はたしてこれはシロツチガキとしてよいのだろうか。腹菌類などでは、えてして日常頻繁に出会うきのこの多くが未報告種であったりするので、うかつに断定できない。 |
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このところキノコがとても少ないのだが、どこに行ってもやたらに目立つのがナラタケモドキ(a)だ。樹木の根元、樹上、地表からといろいろな形態で発生している。 一昨日の秩父地方でもナラタケモドキはよく目についたが、わずかにイグチ類もみれらた。ハナガサイグチ(b)、ミドリニガイグチ(c)、ムラサキヤマドリタケ(d)、ヤマドリタケモドキ(e, f)など何種類かのイグチが見られた。これまでムラサキヤマドリタケを9月に見たことは一度もなかった。これも今年の異常気象のなせるわざなのだろうか。 |
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秩父でコイヌノエフデ(g, h)に出会った。これまで何度もこのキノコには出会っているのだが、いつも自重で倒れている。ちょっとしたタイミングなのだろうが、なかなか直立した姿にお目にかかることができない。 キツネノエフデでは頭部と柄部の境界線が曖昧ではっきりしないが、コイヌノエフデでは非常に明瞭に分離している(i)。頭部の中間部を輪切りにしてみた(j)、ツボの部分にはスッポンタケ科特有の厚ぼったいゼラチン質がある(k)、胞子(l)はとても小さい。コイヌノエフデはスッポンタケの仲間では悪臭をもたないことでも異色である。 |
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ベニイグチはアカマツ・コナラ林ではよく見られる美しいきのこだ。先日山梨県で採取した個体はその日のうちに検鏡しているが、今朝あらためてそれを乾燥させた標本からプレパラートを作成して両者を比較してみた。写真はそれらの一部である。上段に採取当日生標本から作成したものを、下段に今朝乾燥標本から作成したものを並べてみた。 ふだんほとんどの切片は採取当日か数日以内に生状態から切り出している。今朝のように乾燥標本からの切り出しは、自分で採取したきのこではめったにやらない。 胞子に関しては、上段(a, b)は採取当日に胞子紋から採取したもの、下段(e, f)は今朝乾燥標本の管孔部から採取したものである。乾燥標本は戻し処理に5%KOHを使ったせいか、生のものとは色が違っている。生標本からの担子器(d)は、やや厚過ぎた上にフロキシンが濃過ぎたので、影像がよくない。傘表皮(h)は生標本から切り出すのに比較すると非常に楽だった。 イグチ類は生標本からだと管孔部の切り出しはとても難しい。(c)は管孔部の先端付近を切り出したもので、フロキシンで染めている。縁シスチジアを確認しやすくするため孔口部に斜めに切り出している。このプレパラート1枚を作成するため5〜6回は生標本に剃刀を当てている。(g)は管孔部を、ピスも実体鏡も使わず、剃刀の自重で軽く削って切り出したものだ。側シスチジアや担子器などを確認するにはこの方向で切り出すと楽だ。こちらは一度で楽に切り出せた。 |
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昨日山梨県東部の山の中を歩いたが、きのこはとても少なくウスムラサキホウキタケ(a, b)ばかりがやたらに目立った。大きなものでは径25cmほどにもなり、幼菌から老菌(?)まで20個体ほどに出会った。オクヤマニガイグチ(c, d)、コガネヤマドリ(e, f)、ニガイグチモドキ、ムラサキヤマドリタケ、ミドリニガイグチ、シロオニタケ、ササクレシロオニタケを確認できた。 写真のキノコの名前は正確には「?」をつけるべきだろう。というのは、きちんと同定作業をしていないからだが、ウスムラサキホウキタケは数時間かけて試みたにもかかわらず、胞子紋が取れなかった。姿こそ大きくなって一部茶褐色に変色しているものもあったが、老菌ではなく乾燥のためだったのかもしれない。オクヤマニガイグチはまだ胞子だけしか確認していない。コガネヤマドリは幼菌のためか、胞子紋が全く採れなかった。 |
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白州町の道端で面白い表面模様をもった腹菌類にであった(a)。ほかにもないかと、周囲をさんざん探したが見つかったのはこの成菌ただ一つだけだった。25×20×15mmほどのサイズだが、ふわふわした柔らかい類球形でどこにも孔や破れはなかった。表面の姿がちょうどハス花床(実をつける蜂の巣状に孔のあいた部分)のようである。 掘り出してみると白い菌糸がかなり長く伸びている(b)。表面をルーペで拡大してみると何とも異様である(c)。凹部に収まっている小塊(d)は振動や風で剥離してしまうようだ。小塊の組織はほぼ全体が球形細胞からなっている(e)。胞子は小さな球形で表面は平滑である(f)。弾糸は厚膜で頻繁に分岐を繰り返している(g)。手許の資料からはどの属に落ちるのか分からなかった。 見つけたのも採取したのもこの個体一つだけだったので、どうしたものかと思ったが、とりあえず検鏡だけしておくことにした。これまでだと腹菌類の場合、よほどのことがなければ、採取個体が一つだけの場合は持ち帰らないことが多かったのだが、今回のものは表面模様が何とも異様に見えたので、珍しく持ち帰ったものだ。 |
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先日(8/29)山梨県白州町で採取したイグチ2種類をとりあげた。他のきのこの観察に追われて冷蔵庫やベランダに放置したままになっていたイグチだ。他にも6種類ほどのイグチを持ち帰ったのだが、今朝冷蔵庫の中から取り出した時点で、既に腐敗が始まっていた。多くは蛆虫が多数這い回っている状態となっていたので、諦めてすべて廃棄した。 やはりイグチ類は持ち帰ったら直ちに乾燥器にかけてしまわないとどうにもならないようだ。 ひとつめのイグチは全体が黒っぽく柄に網目(c)をもっている(a〜c)。管孔は白色から淡褐色だが触ったり傷つけると、孔口部が褐色に変わる(b)。クロアワタケにしては全体が黒っぽすぎる。管孔部を切り出し(d)、徐々に倍率を上げてシスチジア、担子器などを観察した。胞子(e)のサイズはクロアワタケのそれよりもかなり大きめである。菌友のS氏・Y氏らが白州町で以前オオミノクロアワタケを採取しているが、どうやらこれもオオミノクロアワタケのようだ。全体がやや白っぽく胞子サイズもやや小ぶりのイグチも持ち帰ったが、それはクロアワタケのようだった。 いまひとつは、ニガイグチモドキのように思えるのだが、柄がやや赤みを帯びていた(f, g)。柄の上部にはわずかに網目もみられる。冷蔵庫から出して、一晩ベランダに放置してみると柄の色も管孔部もニガイグチモドキのようになった(h)。管孔部を切り出して(i)、同じようにシスチジアなどを確認した。胞子(j)やらシスチジアを見る限りニガイグチモドキに間違いなさそうだ。それにしても柄が赤みを帯びたものがあることはこれまで知らなかった。 昨日の雑記で取り上げたイグチであるが、黒褐色のイグチ(8/31a, b, d)はオオコゲチャイグチらしい。また、ニガイグチモドキ(8/31e, f)として取り上げたイグチは、コガネヤマドリに近い種のようである。いずれも、正井俊郎さんからご指摘を受けて再検討した結果である。正井さんありがとうございました。 |
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