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2006年2月10日(金)
 
思わぬ伏兵
 
 ふだん早朝はたいていきのこ関係の作業に従事してきた。近場の公園や千葉の海浜などを観察したり、顕微鏡を覗いて記録をしたりである。薄暗い早朝から出勤前の数時間を利用して、千葉の海辺まで250kmほど走ってくることもしばしばあった。その結果は「今日の雑記」にも反映されてきた。宿泊を伴う外出の時には「雑記」は更新しないが、病気や体調不良、激しい歯痛、あるいは親族に不幸があっても、更新は行ってきた。
 歯科医にかかるようになって、事情が変わった。ゆえあって原則として薬は使わない。激しい痛みは集中力を失わせる。今週は何度も「雑記」の更新を放棄しようと思った。歯科医、それは思わぬ伏兵であった。今日また通院日、明日の「雑記」はどうなることやら。

2006年2月9日(木)
 
仙台合宿2006
 
 近場のさいたま市の公園に行ってみた。先日雨も降ったし、気温も高くなったので、きっときのこも何かでていることだろうと思ったのだが、傘と柄をもったきのこの姿は見られなかった。ただ、ハンノキの樹下にチャワンタケの仲間がみられたのみだった。

 幼菌の会が提唱し、各地のきのこ会に呼びかけた夏の仙台合宿、参加予定者は100名を超えた。北海道から九州まで、全国からきのこ関係者が参集する。ふだん顔を合わすことのない各地の関係者が一同に会する意義は大きい。これまで各地のきのこ会はそれぞれ孤立して活動してきたが、この合宿を契機に大きな変革が起こるかもしれない。

2006年2月8日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 去る2月2日に持ち帰ったヒメキクラゲを湿り気を与えた状態でスライドグラスに放置しておいた。2月3日朝には胞子も担子器も全くみられなかったが(雑記2006.2.3)、カバーグラスには無数の胞子が落ちていた。水でマウントしても透明でとてもみにくい(a)。フロキシンを加えると姿が明瞭になった。正確にサイズを計測するには油浸100倍で確認するのが間違いない(b)。
 最初に胞子紋取りに使ったブヨブヨの子実体から切り出してみた(c)。担子器らしき姿はあるが、このままでは確認するのが難しい。あらためてフロキシンを加えて3%KOHでマウントし直すと、子実層には担子器が多数できているのがわかる(d, e)。
 菌糸組織にはクランプがある(f)。なお、室内に放置して乾燥したヒメキクラゲからも切り出してみた。こちらの方がはるかに簡単に薄手の子実層を切り出すことができた。慣れないとブヨブヨの生状態から(c)、(d)の様な薄片を作るのは難しいが、乾燥させると簡単にできる。やはりキクラゲの仲間は乾燥品から切片を作るに限る(雑記2006.1.26)。
 あらためて振り返ってみると、ほぼ2年に一度は同じようなキノコを顕微鏡で覗いている。ヒメキクラゲも2002年12月25日2004年2月13日にやはり取り扱っていた。過去の雑記をみると、切片作成技術が年々低下している。とにかく、キクラゲ類の生から切り出しは難しい。

2006年2月7日(火)
 
冬場は基本書
 
 久しぶりに(旧)腹菌類の基本書に目を通した。O.K.Miller 他 "Gasteromycetes: Morphological & Developmental Features"。これは初めて腹菌類を勉強しようとする初心者のための入門書であるが、あらためて実に懇切丁寧に書かれていることを知った。英語表現が中学高学年から高校の範囲であることもありがたい。
 上記教科書であるが、何ヶ所かでハラタケ目の教科書であるD.L.Largent 他 "How to Identify Mushrooms to Genus" のシリーズが引用されている。こちらはさらに有名な教科書で、いまなお基礎概念の習得には最適な文献として名高い。こういった基本的な概念を詳細・簡潔に著した日本語の基本書が全く無いのが悲しい。
 冬場のきのこシーズンオフの時期に、気のあった仲間同士でこういった教科書を輪読してみるのも面白いかもしれない。いずれも薄くて比較的短時間に読めて、基本的な概念をきちんと習得できる良書だ(cf: 雑記2004.2.1同2004.1.30)。

2006年2月6日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 昨日早朝、千葉県内房の海辺を歩いてきた。春霞の中に富士山がぼんやりとみえる陽気だったが、気温は終始マイナス5〜6度の寒い朝だった(a)。やや広い植生のみられるところで(b)、最近発生したと思えるケシボウズの仲間に多数出会った(c〜e)。同所を訪れたのは昨年12月3日以来だった。その折りには全く何も無かったところである。
 その後は終日ヒメツチグリ科のきのこの胞子観察をすることになった。ケシボウズの仲間の胞子に比べると、一般的にヒメツチグリ科のきのこの胞子は小さい。光学顕微鏡でみると、みな同じような類球形で小さな疣をもっている。しかし、走査型電子顕微用でみると、実に興味深い姿をみせてくれる(f)。寒い一日だった。

2006年2月5日()
 
顕微鏡修理
 
 昨日友人のSさんと一緒に、顕微鏡を持って八王子市の多摩光顕まで行って来た。整備・修理が専門の技術者だから当然なのだろうが、みている前でたちまち重くて大きな顕微鏡が分解されていく。数分もしないうちに8〜10ほどのパーツに分かれた。電気系統のチェックとヒューズ交換、ついでだからということで、各部のオーバーホールもやってもらった。
 やや古い顕微鏡は小型でも全体が金属の塊なのでずっしりと重い。それに対して、最近の顕微鏡の多くはプラスチック部品の塊で、まるでプラモデルのようだ。かなり大型でも思いの外軽い。修理を待つ数十台の顕微鏡をみていると、古い顕微鏡の鏡基の造りと、最近の顕微鏡のそれとのあまりの違いに愕然とさせられた。道路渋滞に泣かされた一日だった。

2006年2月4日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
 2003年のケシボウズ標本(雑記2003.2.11)をSEMで撮影できる機会があったので、あらためて光学顕微鏡とSEM映像を比較してみた。千葉県の九十九里浜で採取したもので、熱乾燥をして保存しておいたものだ。標本はほぼ3年経過しているがほとんど変形していない。
 小さな胞子は光学顕微鏡の油浸100倍レンズでみただけでは、網目模様にも見えれば、疣が繋がっているかのようにも見える(b)。当時の雑記には「疣と網目の混ざったような模様」と表現してある。なおフロキシンで染めるとより鮮明にみられる。
 あらかじめ、4酸化オスミウムで固定したものと無処理のものとを比較した。類球形のせいか、無処理でもよい状態のものを選ぶと遜色なく使える。写真の映像は、固定・脱水処理はせず、たんに蒸着だけを施したものだ(d)。潰れて大きく変形した胞子もみえる(c)。
 SEMは基本的に被写界深度が非常に深い。一方、光学顕微鏡の焦点深度は、倍率を上げるほど極端に浅くなる。小さな胞子ではその表面模様の観察はとても難しい。SEMで明瞭に異なる模様を、光学顕微鏡ではどこまで差異として認識しうるのか、それが課題となる。

2006年2月3日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
 さいたま市見沼区の公園に行ってみた。2日前に終日雨が降ったにもかかわらず、ウッドチップからはほとんどきのこが出ていなかった。わずかにヒトヨタケの仲間が数十本ほど出ていただけである(a, b)。また、ヒメキクラゲをつけた落枝が多数みられたが、いずれも小さなものばかりだった(c)。1時間ほどスライドグラスに置いてみたが、胞子は全く落ちなかった。ブヨブヨの子実体から子実層を切り出してみたが、担子器はみられなかった(d)。

 メインの顕微鏡の電源スイッチを入れても光源が反応しない。ハロゲン球を確認すると切れてはいなかった。ヒューズが飛んだ確率が高いが、土曜日に修理に持っていくことにした。

2006年2月2日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 今朝もコツブタケ、というのは他にきのこの姿がないからである。若い菌の切断面には大小のペリジオール(小塊)が満ちあふれているが、ひび割れて褐色の粉に被われた老菌でも、基部近くには必ずといってよいほどペリジオールが残っている。
 ペリジオール周辺の組織(a)には、いたるところにクランプが見られる(b)。保育社「原色日本新菌類図鑑II」のコツブタケの記述(p.197)には「担子器には4胞子が座生する」とあり、担子器と胞子が描かれている。関係ないが、隣にはコウボウフデの環紋菌糸の図がある。
 雑記2004.11.25でとりあげた担子器の写真でもそうだが、ちょっとみたところ、確かに胞子が座生しているように見える。ところが、かなりの頻度で長い担子柄をもったもの(d)や、5〜6つの胞子をつけた担子器がみられる(e)。胞子と担子器との間にはたいてい短い柄がみられる。
 今日の曖昧な写真では何とも言えないが、若いコツブタケを観察すれば、すぐにでも明らかになりそうだ。海辺に行くと、つい他の菌にばかり気持ちが向いて、気になりつついつも若いコツブタケの採集を忘れる。したがって、今朝書いたことも未だ憶測の域を出ない。

2006年2月1日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 コツブタケの胞子について、「胞子表面には網目模様がある」と映像を添えて書かれたものを見たことがある。先日コツブタケの老菌を持ち帰ったので、その胞子を対物40倍で見た(a)。赤枠で囲った部分をパソコンの画像処理ソフトでトリミングして拡大してみた(b)。これをみると、確かに網目模様を持った胞子があるかのように見える。
 しかし、油浸100倍対物レンズであらためて胞子をみると、網目模様などどこにもない。念のために胞子表面部に合焦したものと、輪郭部に合焦したものを掲げた(c, d)。同一プレパラートで比べたわけでないのが悔やまれるが、(b)は40倍対物レンズで見た映像、(c)は油浸100倍対物レンズでみた映像である。
 要は、胞子表面の模様を観察する場合、40倍対物レンズでの観察はときとして、誤った結論を引き出しやすい、ということだ。光学顕微鏡において同じ1,000倍といっても、たとえば、(イ)対物40倍×接眼25倍、(ロ)対物100倍×接眼10倍、という組み合わせがありうる。その場合、(イ)の組み合わせでは同じ過ちをおかすおそれが大きい。
 試料を拡大しているのはあくまでも対物レンズであって、接眼レンズではない。接眼レンズは対物レンズの作り上げた像を拡大しているだけである。大きな胞子ですら、こういったことがあり得る。さらに小さな胞子や微妙な表面模様を持った胞子では、必ず油浸100倍対物レンズでの観察が必要である。
 次に、若い胞子をKOHでマウントして見ると、油球が見え、大きさはまちまちである(e, f)。

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