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日( )

2007年5月10日(木)
 
胞子の計測 (2)
 
 持ち帰ったきのこの胞子サイズを測るにあたっては、目的と特性に応じて何通りかのやりかたをしてきた。ただ、いずれの場合でも、対物ミクロメータの目盛を基準にしている。ただ、接眼ミクロメータを利用するとおおよその見当をつけることができて便利だ(e)。
 
 
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 ハラタケ目や子嚢菌の場合は、大前提として、計測には必ず落下胞子を使う。これを水で封入して、輪郭部に合焦したときのサイズを基準にしている。試薬類や封入専用液、染色液で封入すると、必ずしも水封の場合と同じサイズにはならない。

 先月29日、日光からの帰りに寄ったパーキングエリアで、桜樹下にハルシメジ(広義)がでていた(a)。やや乾燥気味だったが、一昼夜試みると胞子紋がとれた。最初にカバーグラスに採取した胞子紋を、そのままスライドグラスに載せて検鏡してみた。合焦位置を変えて撮影した3枚の画像を一枚に合成した(b)。
 ついで、胞子プレパラートを顕微鏡のステージに載せたまま、カバーグラスの脇からスポイトで水を注いだ(c)。次に、カバーグラスの脇からメルツァー液を注いで、溢れる液は濾紙で吸い取った(d)。その過程で、接眼ミクロメータの目盛で、おおよその胞子サイズを計測してみた(e)。十字型の接眼目盛は胞子のサイズを計測するにはとても使いやすい。
 精密に胞子サイズを計測する場合は、まず対物ミクロメータを油浸100倍の状態で撮影して(f)、接眼ミクロメータの正確な1目盛のサイズを計算し直している。とくに、顕微鏡を変えたり、撮影用接眼レンズや撮影用カメラを交換した場合は、この作業は欠かせない。


2007年5月9日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 5月5日に、福島県いわき市の夏井川に注ぐ支流に沿った林道脇で、カンムリタケ(広義)が流れのよどんだ小さな流れに群生していた。改めて、胞子サイズなどを計測してみた。
 カンムリタケという和名は小林義雄博士が原色日本菌類図鑑 第七巻で初めて使ったものらしい。そこに記載された胞子サイズは、13-17 x 3-4μm(p.767)。一方、スイスの菌類図鑑Vol1.では、Mitrula paludosa(カンムリタケ)の胞子は、10-15 x 2.5-3μmとある(p.136)。
 「顕微鏡下の素顔」に掲載したカンムリタケの胞子は、概ね上記の範囲に収まっている。しかし、ここで取りあげたものや、これまで各所で出会ったカンムリタケでは、胞子サイズが18-40 x 2.5-4μmと、かなり長い。「顕微鏡下の素顔」掲載の胞子も、ここで取りあげた胞子も、子実体頭部をカバーグラスの上に数時間置いて落下胞子を測定したものだ。
 一方、子嚢に入った胞子や、子嚢が破れて飛び出した胞子を計測すると、長さ13-18μmあたりのものが多い。また、胞子の長さは子実体によるバラツキがとても大きい。子実体によっては、同じ落下胞子でも、川村図鑑やスイス菌類図鑑に記載された数値の範囲に収まる。
 過去何度か同じようなケースに遭遇しているので、今回は5〜6個体から、落下胞子を採取して計測してみた。アルビノらしき個体も見つけたので、この胞子も観察してみた。その結果が上に記した18-40μmだ。胞子の隔壁は持たないものが多かった。
 このカンムリタケは、Mitrula paludosa の変種とするのが妥当なのだろうか。それとも、カンムリタケの胞子にはかなり変異があるのだろうか。ひとつの疑問は、文献にある胞子サイズの数値は、はたして成熟した子実体の落下胞子に基づいて測定されたものなのだろうか。種の原記載は100年以上も前なので、そこまで遡って調べようという気持ちは起きなかった。

2007年5月8日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
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(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 大型連休の5日、友人の案内でいわき市の山に登った。山頂付近に拡がる放牧場で、馬糞からきのこが多数出ていた(a, b)。多くはすっかり乾燥して干物状態だった。
 傘径は1.5〜3.5cm、表面は平滑で、縁部はフリンジ状で内側に巻き込む(c)。表皮が亀甲状に割れたものもある。胞子紋は黒色。ヒダは直生でやや疎。柄は、3〜8cm x 2〜2.5mm、若い子実体では中実だが、成菌では中空で、表面は微粉を帯びている。
 外出時は車に顕微鏡とプレパラート作成用具一式を積んでいく。胞子は暗褐色で平滑、レモン型で発芽孔をもつ(d)。濃硫酸で封入すると、発芽孔から内容物がでる(e)。
 ヒダの断面をみると、子実層付近は胞子まみれである(f, g)。側シスチジアはなさそうだ。先端には円柱状の縁シスチジアがある(h, i)。ヒダ実質は並列型(j)。やや拡大すると胞子をつけた担子器がみえる。組織をバラすと担子器(k)やシスチジア(j)を観察しやすい。傘表皮は組織が重なりあってはっきりしない。もう少し薄切りにすればよいのだろう。
 ワライタケ Panaeolus papilionaceus だろう。採集したり持ちかえることはできないので、観察を終えた個体は、現地でそのまま廃棄した。それにしてもPsilocybeやPanaeolusについては、ただでさえ欧米に遅れをとっているのに、さらに学問的研究は遅れるのだろう。

2007年5月7日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 大型連休の3日に国道新4号線、会津西街道経由で福島県へ走り、5日にいわき市から常磐道経由で戻ってきた。もっぱら温泉を楽しむのんびりした旅で、行く先々で、色々な子嚢菌と遭遇できた。幸いなことに、渋滞とはほとんど関わりなく動くことができた。
 この温泉旅行先で出会ったキノコのうちからいくつかを並べてみた。出会いを期待していたきのこにはすべて出会うことができた。さらに、親しい友人の案内のおかげで、思いがけずカンムリタケと遭遇し、キブシのピスもたっぷり採取できた。充実した3日間だった。
 栃木・福島県境ではオオズキンカブリの最盛期の姿に出会うことができた(a, b)。3ヵ所ほどで出会ったが、ざっと数えてそれぞれ20〜80個体ほどが出ていた。福島県棚倉町では小川の縁のヤマザクラ樹下でテンガイカブリに出会うことができた(c, d)。ここには、10〜15個体ほどがでていた。いわき市の湯の岳では、松林でとても大きなシャグマアミガサタケに(e)、水石山では、カンムリタケの大群落にであうことができた(f)。充実した3日間だった。

2007年5月6日()
 
フォトアルバム修正 (1)
 
 ある方から4月末に、ていねいなメールをいただいた。「キノコのフォトアルバム」の「科別分類リスト」の表示がおかしいという。和名リストばかりではなく、英語リストも変だという。キシメジ科に配列されるはずの種が、どこの科にも入らずに冒頭に並んでいる、という。
 早速確認してみると、確かに指摘のとおりで、どこにも分類されない種名がトップにいくつか配列されてしまっている。ウラムラサキシメジとかカンゾウタケなど5種が所属不明となって、冒頭に並んでいた。指摘されるまで全く気づかなかった。

 なぜこんなことが起こったのか、原因は二つあった。ひとつは菌類分類の考え方に最近大幅な変更が加えられたことによる。新分類にあわせて、プログラムの分類データモジュールに手を加えるつもりで一部書き換えをはじめていた。その過程でケアレスミスを犯していた。ケアレスミスを修正したところ、これが原因の配置ミスは直ぐに修正された。

 もう一つの原因はやや深刻だった。各種の索引リストを作成するプログラムが最近のPerlの基本仕様と齟齬をきたすようになっていたことによる。やや長くなるので、この問題については、後日メモを残しておくことにしたい。


2007年5月3日()
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
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(e)
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(f)
(f)
(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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 4月29日に日光戦場ヶ原から持ち帰ったきのこがまだ残っていた(a, b)。胞子紋だけは帰宅直後に採取しておいた。針葉樹の腐木に束生していたきのこは、傘径2〜4cmで、傘表面には厚着した粗毛がみられる。ヒダは垂生で、縁は微鋸歯状。柄は15〜25 x 6〜10 mmで、表面が軽くささくれ、傘に対してやや偏心している(b)。ヒラタケ型のものもある。
 胞子紋は白色、胞子は円柱形〜楕円形、8〜10 x 3〜4μm、透明で平滑(c)、非アミロイド(d)。円柱状の縁シスチジア(g, i)、側シスチジア(h)がある。水で封入したものでは分かりにくいが(e)、メルツァーフロキシンで封入すると、低倍率でも側シスチジアのあることがわかる。
 ヒダ実質は、類並列型(f)、担子器の基部にはクランプがあり(j)、菌糸にはクランプがある(l)。傘表皮は、菌糸が匍匐し、随所に長い菌糸が立ち上がっている(k)。

 このきのこは何だろうか。胞子紋が白いことや胞子の形から、キシメジ科が疑われる。ヒダの縁が軽く鉅歯状になっていることや、肉質が強靱で腐木からでていることを考えると、マツオウジ属が疑わしい。標高1,300mあたりの針葉樹となると、ナミハタケかその近縁種だろうか。

 今日の早朝から3日間、仲間と一緒に東北方面にでかけてくるので、とりあえず数日は「雑記」はお休みとなる。きっと道路の大渋滞で苦労することになるだろう。


2007年5月2日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 日光のカラマツ林で、地上に落ちた枝や葉から茶色の脆いキノコがでていた(a, b)。他にあまりキノコもないので持ち帰った。
 傘は全体が均一の赤褐色、湿時吸水性が強く、縁に条線はみられず、乾くと淡褐色〜白褐色になる。柄にツバはなく、上部には被膜跡の様な白色菌糸帯があり(b, c)、基部は白色の菌糸に覆われている(c)。胞子紋は黄土色〜汚褐色、胞子は楕円形で平滑、7〜10 x 4.5〜6μm、発芽孔や胞子盤はなく、脆くて壊れやすい(d)。カバーグラスを柄付き針の先で、軽くつついただけで、胞子は簡単に割れてしまった。
 胞子を観察したあと、ヒダを切りだした。二つ割りにしたピス(雑記2007.4.15)を使って切り出した(e)。次に、二つ割りにはせず楔形の切れ目を入れ、そこにヒダに挟んで切り出した。挟んだ段階で子実層が托実質に食い込んでしまい、ピスを固定してカミソリをあてると、予期していたとおり、全体が軽く潰れて幅広の子実層状態となってしまった(f)。
 多少厚かったり潰れていても、側シスチジアのないこと、さらには子実層托実質が並列型であることはわかる(g)。ヒダを一枚取りはずし、そのままスライドグラスに載せて縁をみると、縁シスチジアがあることがわかる。
 改めて、ヒダの縁近くを細長く切り出して、フロキシンでそめて3%KOHで封入した。歪んだ柱状の縁シスチジア(i)、基部にクランプを持つ担子器を明瞭に見分けることができる(j)。傘の上表皮は平行に菌糸が走る(k)。柄の基部の白色の菌糸には到るところにクランプが見られる(l)。
 観察結果にもとづいて、保育社の図鑑の検索表をたどると、チャヒラタケ科のチャムクエタケ属にたどり着く。属の検索表をみると、3つの種が載っている。柄にはツバがないからヒメツツエタケではない。次に、チャムクエタケモドキとすると湿っているときに「傘の周辺部に条線」がない。チャムクエタケとすると胞子の形状が「やや尖った類アーモンド型」とは言い難い。
 チャムクエタケの可能性は高いが、そうとも言い切れない。いずれにしても、Tubaria(チャムクエタケ属)のきのこらしい。採取(4/29)から既に数日が経過し、きのこのヒダには白く小さなウジ虫がモゾモゾしだしていた。ここまで分かれば充分なので、きのこは廃棄した。

2007年5月1日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
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 4月29日に日光から帰る途中、パーキングエリアでハイゴケの中に小さなきのこが散生しているのに気づいた。傘径は6〜8mm、外見からは、以前同じ場所でしばしばみかけてきたヒメコガサフユノコガサ同様にGalerina(ケコガサタケ属)だろうと思い、念のために持ち帰った。
 帰宅後に直ちに採取した胞子紋の色は黄褐色〜褐色だった。この時点までフユノコガサの可能性が高いと思っていた。胞子を顕微鏡でみると、表面に疣がない(b)。さらに3%KOHで封入すると赤褐色味が強くなり、発芽孔がさらに明瞭になった(c)。胞子盤の有無はいまひとつはっきりわからない。しかし、この時点で、ケコガサタケ属の線は消えた。
 次にヒダを切り出した(d)。側シスチジアがないことはわかるが、多数の胞子に紛れて縁シスチジアの有無や形態がよく分からない(d)。倍率を上げてみると、どうやら縁シスチジアの先端らしきものが見える(e)。そこで、カバーグラスを軽く押し潰してシスチジアを飛び出させた(f, g)。担子器を見ても同定には役立たないと思われたが、念のために形状を確認してみた(h)。

 先端に虫ピンのような丸みをもったフラスコ型の縁シスチジアを持つ種はそう多くはない。確かにフユノコガサのシスチジアもよく似ているが、フラスコ部分が全体にもう少し細長い。小形で脆く外見が似ていて、同様の縁シスチジアを持ったきのこといえば、Conocybe(コガサタケ属)しかない。そこでコガサタケ属の検索表をたどると、コガサタケ亜属らしい。
 以前(2004年5月12日)、コガサタケと同定したキノコ(j)の胞子(k)、縁シスチジア(l)を一緒に並べてみた。柄シスチジアは球頭をもっている。今回採取の標本では、柄シスチジアはあるが、球形の頭部をもたない(i)。そこでコガサタケ節ではなく、ハタケコガサ節となる。保育社『原色日本新菌類図鑑』でたどり着けるのは、ここまでである。

 すでに名の付いたきのこなのか、あるいは新産種なのか、新種なのかを知ろうとすれば、さらにいくつもの文献にあたる必要がある。まずは、国内の図鑑、ついで海外の図鑑、そのあと、国内外の論文などを調べれば、種名にたどり着けるかもしれない。
 標本は持ち帰った時点で、すでに縮まってすっかりクシャクシャになっていた。いつものとおり、コガサタケ属とまで判明すれば充分だ。したがって、これ以上の追究は放棄して、検鏡が終わった標本は、そのまま屋外の日影の裸地に捨てた。


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