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一昨日SEM(走査電子顕微鏡)を利用できる機会を得た。暗室の中で、ほとんど手動作業による操作が必要な古い機種である。カンも技術も無いので、はじめは菌友のSさんと二人で、マニュアルと首っ引きだった。その後は一人でTulostomaの胞子の検鏡に悪戦苦闘となった。 保存媒体はポラロイドフィルムと6×9判フィルムなどしか使えないのだが、それ以前の操作に戸惑っている有様なので、とてもまともに撮影できるまでは至らなかった。ポラロイドを選んだのだが、撮影はすべて失敗してしまい肝心の映像を残せなかった。 この日SEMで調べたのは、先日三重県のTさんから届いたケシボウズである(雑記2004.2.21、同2004.2.23)。外皮・内皮などの様子からは数種に分けられるのだが、光学顕微鏡レベルではいずれも同一種と判断される。全サンプルについてこれらの胞子・弾糸をSEMで調べた結果、いずれも同一種であり限りなくT. adhaerensに近いものだった。 Tulostomaについてこれまで6種類ほどの胞子を光顕と電顕の両者で見てきた。この過程で、光学顕微鏡の信頼性はかなり高いことをあらためて感じた。 |
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千葉県外房の砂浜にはドングリタケの仲間が多い。先日(2月25日)も10分ほど歩く間に7〜10個体ほどに出会った(a)。小さな個体(a 左側)と大きな個体(a 右側)との間には、径で3倍以上もの開きがある。色味も白っぽいものから暗褐色まである。 現地でただちに、車載の簡易顕微鏡でみた(b)。いずれの個体もほぼ同じでミクロ上での差異は感じられなかった。そこで同一種と判断して、同じケースにゴチャゴチャに混ぜて持ち帰った。自宅のテーブルで紙の上に広げてみるとやはり大きさのバラツキが気になった。 今朝念のために、大きな個体と小さな個体で、両者の弾糸と胞子を比べてみた。コットンブルーで染めると、大型個体(c, d)には、弾糸に染まり方の違うものがあった。小型個体(e, f)の方はさほど顕著ではなかった。ほかには両者に有意差は感じられなかった。 |
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千葉県外房の砂浜にケシボウズの確認に行ってきた。12月に発生したものを見ているので、念のために毎月チェックしている。ずっと調査しているのはナガエノホコリタケ(a〜c)とウネミケシボウズタケ(仮)(d〜f)、そしてほかにも数種類ある。 内外の標本庫(herbarium)に納められた標本の多くは乾燥標本だ。ハラタケ目の標本はたいてい「生(なま)」状態、つまり新鮮な状態のものを乾燥して作られる。干からびきった老菌や、発生から数ヶ月後に採取されたものから作られることはほとんどない。ところが、Tulostomaの標本に関しては、どうもそうではないらしい。採取時、すでに発生から数ヶ月経過したものに、つまりミイラに熱を加えて乾燥したものがかなりあるのではないか。 発生から間のない新鮮な個体を乾燥して作った標本と、すっかり干からびてミイラとなった個体から作成された標本と、この両者の間にはかなり大きな差異がある。外見だけではなく、ミクロの形態にまで及ぶこともある。この事実は同じ場所で同一の種について、発生からの経過をずっと見てきて初めてわかったことだった。 胞子などの形態がほとんど同じなのに、全く別種とされているものがかなりある。その謎の一因にはこういったことも関わっているのではあるまいか。 |
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佐野書店から2月の菌類文献案内が出た。今月の目玉はPersoonia Vol. 18, Part 2 2003と、米国シカゴにあるThe Field Museum of Natural Historyの出版する雑誌Fieldiana Botanyに掲載された論文集である。Persooniaは、2003年末に出版された最新号で、13論文の他、昨年5月に亡くなったMycenaの研究者Rudolf Maas Geesteranus氏と、同年4月に亡くなったCoprinusの研究者Kees Ulje氏に捧げる追悼文を2編収録するという。 文献紹介文の中でThe Field Museum of Natural Historyのホームページのことが紹介されている。今現在オンラインでキツネタケ属が公開され、その中で19種がとりあげられている。SEMデータなども伴ったLaccariaについての詳細な記述はこの分野に関心のある人にとっては、とても興味深い内容といえるだろう。HTMLファイルのダウンロードは必須といえよう。 昨日さいたま市の自然公園に行ってみたが、相変わらず大量のウッドチップがひっきりなしに散布されていた。数台のショベルカーがとても忙しそうだった。これらの散布が一段落したのち、降雨でもなければきのこの出る余地は全くなさそうだった。 |
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ここ数日急激に気温があがり、日曜日はまるで5月の様であった。このところずっと雨らしい雨こそ降っていないが、きっとアミガサタケの赤ん坊に遭えるだろうと思って、そっと落ち葉をどけてみた。トガリアミガサタケの小さな幼菌が顔を出していた(a, b)。そこから数メートル離れた部分にも先端が尖ったかわいらしい姿の幼菌があった(c, d)。場所はさいたま市。 これらはいずれも高さ4〜6mmほどで、頭部はまだ心持ち未分化の状態である。出会った中で最も大きなものは高さ10mmほどである。これを静かに掘り出した。柄の根本に頑固にしがみついている泥を落とそうとして、脆い柄の根本近くで折ってしまった(e)。 それにしても、昨年は3月5日なってようやく背丈2mm程度のものが見られた(雑記2003.3.5)のだから、今年の発生は2週間ほど早い。きっと都内(雑記2003.3.7)とか神奈川以西ではもっと大きく育っていることだろう。いよいよ盤菌の季節が始まった。 ちなみにこれらのアミガサタケ類は、堆積した落ち葉をそっと上から静かにどけて見つけたものであり、落ち葉を持ち上げて頭を現すのはまだまだ先のことだろう。 |
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この季節でも落枝をよくみると、クロコブタケなどクロサイワイタケ科のきのこがよくみられる。傘と柄を持ったきのこが多数発生する時期には、ついそちらにばかり気持ちがいってしまい、こういった地味なきのこは見えなくなる。だから、例年きのこの少ない時期にはなるべくこれらの目立ちにくい仲間を観察することにしている。 今朝も団地を一回りするとクロサイワイタケ科と思われる子嚢菌の仲間が数種類見られた。持ち帰ってきたのはクロコブタケだった(a)。5%KOHをかけると緑褐色の色素が滲出した(b)。一つを切断してみると子嚢殻が整然と並んで見える(c)。この窪みの中には多数の子嚢と側糸が薄い膜に包まれた状態で入っている。 メルツァー液の中に子嚢の塊を落とし込んだ(d)。倍率を上げてみると子嚢先端には薄手の青いリングが見られる。角度を変えてみると5円硬貨のような形をしているのだろう(e, f)。胞子には縦方向にスリット(発芽溝)が見られるが、写真(f)だけをみているとはっきりしない。写真(e)ではいくつかの胞子に明瞭に見られる。 |
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先日Tさんから届いた2月15日採取のケシボウズには2タイプがあり、区分けされて格納されてきた。そのうち一つは先日調べてみたが、もう一つの包みを開けてみた(a〜c)。外皮を見るとこの二つは別のタイプのように見える。(A)の外皮は明瞭な膜質である。一方(B)の外皮は菌糸状であり、先日チェックしたものとなんとなく似ている(雑記2004年2月21日)。 (B)のミクロの姿は先日見たものとほとんど変わりない。そこで、(A)のタイプだけを撮影した。胞子(d)、弾糸(e, f)などを見る限り、この両者に差異は感じられない。強いて言えば、(A)には波打ったようなタイプの弾糸はとても少ないということくらいだった。 Tulostomaにおいては、外皮は [膜質] か [菌糸状] かという対立構造で語られてきた。外皮が種の分類にとって重要視すべき形質であることに異論はない。しかし、この両者は入れ替わることがないという立場にたつと、(A)、(B)二つは別種となる。一方、外皮は風化作用などの結果、膜質から菌糸状に変化しうる、という立場にたつとこの両者は同一種となる。 分類の基準をどんな形質に準拠すべきか、その形質の概念と判断基準をどう捉えるかを考え始めると、同定作業は完全にストップしてしまう。 |
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冬場は傘と柄を持った新鮮なきのこにはなかなか出会えない。だから、おのずと非一般的なきのこばかりに目がいく。本来ならばこの時期には、記録の整備、資料の整理、菌類の基礎的な勉強などにあてればよいのだろうが、屋内でじっとしているのは性分に合わない。そこで時間さえあれば屋外に出かけることになる。 冬場にはケシボウズタケ属とかクロサイワイタケ属といった、目立たないきのこが出会いの楽しみを与えてくれる。今の時期、硬質菌とかコウヤクタケの仲間にもいろいろ出会える。しかし、現在は主たる関心が目立たない小さなきのこや、人がほとんど見向きもしないきのこにある。だから、目の前にエノキタケやコウヤクタケ類があっても、撮影も採取もしない。 冬場はヒダの切り出しとか、傘表皮を観察するといったことはしない。だから、例年急激に切片作りが下手になる。乾燥標本からの切り出しは楽だが、生標本からの切り出しは一筋縄ではいかない。技能・技術も使わないとすぐに錆びついてしまう。今やかなり錆びついているので、そろそろヒダをもったきのこが出てきて欲しい。 |
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三重県のTさんからケシボウズのサンプルが届いた。そのうち最も新しく採取されたもの1点を調べてみた。2月15日に紀宝町の海岸で採取されたものだ(a〜d)。頭部には菌糸状の組織が網目のように、内皮の表面にこびりついて残っている。見ようによっては、若い時期には疣状の外皮に被われていたようにもとれるし、風化現象で外皮が網目状に残ったようにもとれる。外皮の様子は一見菌糸状(hyphal)だが、膜状(membranous)とも受け取れる。 胞子表面の疣ないし針は案外大きく、まるで金平糖のようである(e, f)。弾糸には波打ったようなものが多い(g, h)。外皮を疣の残骸としての網目状と捉えるとTulostoma pusillumに落ちるし、そうではなく菌糸状の網目様残滓ととらえると、T. adhaerensという種に落ちる。T. adhaerensは愛知県伊良湖岬で採取例があるが、国内未発表種である。T. pusillumの場合も新産種ということになる。現時点では確実な同定は無理だが、いずれにせよ、ミイラではなく若い菌の観察が必要だと思われる。発生の最盛期と思われる7〜8月頃の観察が勝負だろう。 |
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