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日( )

2004年7月10日()
 
遠州灘きのこ合宿
 
 今週はついに一度しか顕微鏡には触れなかった。屋外でじっくり観察・採取する時間もほとんどとれなかったが、何よりも身近にキノコをほとんど見ない日々が続いていたからである。首都圏もそろそろ水不足、節水といったことが話題になり始めた。雨が欲しい。

 今日から3日間仲間15名できのこ合宿である。今回は静岡県遠州灘西部で主に砂地の腹菌類を観察するのが目的である。現地にはインターネット接続環境は無いので、この間はこの雑記もお休みである。福島県から来る仲間は既に高速道路をひた走っていることだろう。京都勢も出発したかもしれない。外も薄明るくなってきた。そろそろ出発する時刻である。

2004年7月9日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 ヒダ切片などのプレパラートを作るには、可能な限り薄い切片を切り出す必要がある。しかし、ピスを使うにせよ徒手切片法はかなりの慣れが必要である。植物の葉などと違ってキノコの組織はピスで挟んだだけでもペシャンコになりかねない。わずかでも強くつまめばヒダは簡単に潰れてしまう。カミソリなどで切り出すに際し、押し切りは厳禁である。組織を壊さないためには、刺身を切るように手前に引きながら刃をあてることが必要だ(a)。
 しかし簡易ミクロトームを使えば比較的楽に切片を作ることができる。写真(b)は故池田和加男さんの製作した簡易ミクロトームである。ふだんはほとんど使わないが、これを適切に使用すると非常に簡単に15〜20μm厚の切片が切り出せる。聞くところによると、これと類似の円形簡易ミクロトームが数万円で市販されているという。もっと簡単には使い捨て注射器(2〜5cc用)の先端を切り落とせば(d)インスタントミクロトームに早変わりする(雑記2003.6.16)。
 ただし、これらを使う場合にはヘナヘナの両刃カミソリを使うとうまくいかない。硬くて薄い刃物を使うのがコツだ。たまに使う場合はヤスリを研いで作成した専用ナイフを使っている(c)。使い捨て注射器の場合は厚手の片刃カミソリやメスを使うのも一法だ(d)。

2004年7月8日(木)
 
清水の舞台
 
 清水の舞台から飛び降りた。川村清一著「原色日本菌類図鑑」全8巻(1954-55年, 風間書房)を購入してしまった。9万8,000円也。久しぶりの都内神田神保町古書店巡りの結果である。
 一昨年も買おうかどうしようかと迷って結局購入には踏み切れなかった。このときの価格は全8巻で14万円也であった。昨日たまたま二ヵ所の古書店で、川村清一の同一シリーズが出ていた。T書房では先月同様14万円である。一方、数日前に入荷したというM書店では10万円を切っていた。現在、ネット上の相場は全8巻揃いで15万円強である。
 伊藤誠哉著「日本菌類誌」2巻5号(1959,養賢堂)は3万円を超えていた。さすがにこちらまでは手が回らなかった。これもまた数日すると棚から消えてしまうことだろう。
 菌類関係の文献があるていど整備された場所は国内では数えるほどしかない。そういった環境は遠方だったり、部外者の利用が難しかったりする。今後とも高価な古書や海外の文献購入にかなりの出費を強いられることになるのだろう。

2004年7月7日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
 複数種のきのこを持ち帰ってきた場合、順番に一つずつ検鏡するのではなく、たいていは分業かつ分散してそれぞれ別の顕微鏡で観察する。油浸レンズを使っている場合は、次のプレパラートの検鏡にはさらに別の顕微鏡を使うことになる。日常的にはいくつものプレパラートを複数の顕微鏡で同時に検鏡することが多い。これでかなり時間の節約になる。
 撮影する場合にも、たまたまそのとき使用していた顕微鏡にデジカメを装着して写すことになる。したがって、どの顕微鏡で撮影することになるのかは成り行きできまる。幸い接眼レンズの筒径が同一規格なので、三眼(a)、双眼(b)、単眼(c)とタイプは異なっていても、接眼レンズごと引っこ抜いて別の顕微鏡にそのまま差し替えて撮影してしまう。
 単眼(c)だけは、室内では反射鏡を簡易光源に差し替えてから撮影する。これはとても軽く小さいので、キーボードのすぐ脇に置いて記述しながら観察するには最適である(d)。外出するときにはそのまま車載機となる。シガーライター光源か自然光の下で撮影する。

2004年7月6日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 先日いわき市(6月27日)でマツバシャモジタケを観察した近傍の道ばたにチャワンタケの仲間がでていた(a, b)。フジイロチャワンタケのようにも見えたので、持ち帰って熟すのを待っていた。かなり退色したがやや大きくなったので今朝観察してみた。
 子実層托を切り出してみた(c)。メルツァー液を加えてみたが、胞子を帯びた子嚢は数えるほどしかみつからない(d)。倍率を上げてみると未成熟な胞子があるばかりであった(e)。これを軽く押しつぶしてみた(f)。これまた、ひたち海浜公園から持ち帰ったチャワンタケ同様、胞子がわずかしかできていない。今朝もまた同定作業は放棄して早めに出勤することにした。

2004年7月5日(月)
 
カラカラの首都圏
 
 昨日、府中の都立浅間山公園で、私学の理科担当の先生方と一緒にきのこの観察をした。このところずっと雨無し陽気が続いているので、全般的にきのこの発生は非常に悪いが、それでも20数種類のきのこを採取できた。
 チチタケニオイコベニタケドクベニタケクサハツをはじめベニタケ科のきのこはそこそこ観察できた。テングタケ科のきのこが思いの外少なく、ツルタケドクツルタケなどわずかしか見られなかった。フウセンタケ科のきのこもとても少なく、オオキヌハダトマヤタケキヌハダニセトマヤタケ、クロニセトマヤタケなどわずかの種しか見られなかった。イッポンシメジ科のきのこには一つも出会えなかった。イグチの仲間では、ニガイグチ属、アワタケ属が若干みられたのみであった。最も多かったのはコウジタケであった。
 午前中は現地で観察・採取をし、午後は室内で採取したきのこを素材に、顕微鏡を使っての観察をした。あらためて、顕微鏡観察の大切さ、難しさを皆で痛感した一日であった。それにしても梅雨はどこに行ってしまったのだろうか。

2004年7月4日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 昨日払暁から早朝にかけて、千葉県房総半島内房の浜を定点観察してきた。久しぶりに涼しくさわやかな朝だった。この浜は比較的狭い範囲でナガエノホコリタケケシボウズタケウネミケシボウズタケ、アラナミケシボウズタケをはじめ5〜7種類のケシボウズタケ属が見られる希有な場所である。そのため少なくとも月に一度は定点観察を続けている。
 先日(6/27)茨城県のひたち海浜公園でケシボウズタケ属の幼菌を幾つか採取できたので(雑記2004.6.28)、千葉県でもきっと今年発生した幼菌が見られるのではあるまいかと期待していたが、残念ながらまだ全く発生していなかった。出会えたのは昨年発生のミイラばかりであった(a〜e)。中には砂に埋もれていたためか、まるで最近発生したかと思わせるもの(d, e)もあった。これらは風で砂が吹き飛ばされて最近地表に姿を現したものだろう。(d)はナガエノホコリタケ、(e)はケシボウズタケである。ちなみに(d)は柄の周囲の砂を払いのけた。
 今日は私学の理科の先生方と一緒に都内で野生キノコの採集と顕微鏡による観察である。

2004年7月3日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 去る6月27日にひたち海浜公園でチャワンタケ(a)を採取したが、いずれも未熟個体ばかりだったので、しばらく適度な湿り気を与えながら成長を待った。採取時は子嚢こそ先端がアミロイド反応を示したが、まだほとんど胞子ができていなかった
 今朝チャワンの一部を切り出した(b)。子実層以外の組織はほとんどが円形菌組織からなっている。まずは水だけで倍率を上げてみると胞子がかなりできあがっていた(c)。そこでメルツァー液を注ぐと、子嚢先端が青くなり、側糸内部が比較的濃い赤褐色になった(d)。
 倍率を上げて子嚢の中の胞子をみると表面模様があるようだが、まだはっきりしない(e, f)。そして、大部分の胞子は平滑で小さな楕円形であり、いまだに未熟である。これ以上観察を続けても無駄と判断して、今朝はこれで中止した。子嚢菌の場合にはやはり完熟個体がないと同定は難しい。外見だけで種名が分かるケースは実に少ない。
 深夜から早朝にかけて回線障害のために、雑記の更新ができなかった。今日は暗い内に家を出て千葉の浜を定点観察し、さきほど朝食時刻に帰宅した。

2004年7月2日(金)
 
ピスとプレパラート (a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
 日常ハラタケ目などの組織を切り出すにはピスを利用している。最近は専らキブシの髄を使っている(a)。以前はニワトコの髄(c:上)とか、筒状の発泡スチロールを使っていたこともある(b)。キビの髄も使ってみた(c:下)。ピスについては過去の雑記で異なる視点から何度か取り上げている(雑記2002.12.13同2003.1.29同2003.4.9同2003.4.12同2003.6.2等)。
 実体顕微鏡の下で組織を切り出すことは、年に数回あるかないかである。日常は直接ピスを手に持って両刃カミソリを4つに割ったもので切り出している。いわゆる徒手切片法である。切り出したものは直接スライドグラスに落として、試料以外のピス剥片などを取り除き、水なりメルツァーを注いでカバーグラスをかけて直ちに検鏡している。
 早朝の忙しい時間帯、効率よく多くの組織を検鏡できるように、一枚のスライドグラスの中央と左右の三ヵ所を使う。たとえば、胞子、ヒダ実質、傘表皮などは一枚のスライドグラスで見てしまう。用が済むとカバーグラスは廃棄し、スライドグラスは中性洗剤入りの容器に放り込む。このため、多数検鏡した割りには、後日洗浄するスライドグラスは少なくてすむ。
 時間があれば、水を張った時計皿などに切り出した切片を落とし込み、それらの中から薄いものを選んで、面相筆などでスライドグラスに運ぶと作業が楽になるだろう。この方法を使うとヒダ切片にうるさくまとわりつく余分な胞子も洗い流されて見やすくなる。ただし、複数種のきのこを扱う場合は、そのつど水を取り替え、筆先を洗うことは必須である。

2004年7月1日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 盤菌類ビョウタケ目Helotiales(ズキンタケ目Leotiales)に分類されるテングノメシガイ科には個性的なきのこが多い。その中でも、子実体が棍棒型で有柄のタイプには大きく分けて胞子が無色のものと有色のものがある。
 いわき市で6月27日に観察できたものは胞子が無色(c)のマツバシャモジタケであった(a, b)。落下胞子をフロキシンで染めて見ると隔膜の有るものと無いものが混在していた(d)。子実層を切り出してメルツァーで染めてみた(e)。子実層の先端部が青くなっている。やや倍率を上げるとさらに明瞭になる(f)。子嚢の先端がアミロイド反応を示している(g)。
 緑色のマツバシャモジタケに混じってすぐそばに明褐色の子実体が何ヶ所かに見られた(h)。落下胞子を見ると緑色タイプと同じである(i)。倍率を上げてフロキシンで染めた姿もほぼ同一といってよい(j)。念のために子実層をメルツァーで染めてみた(k, l)。やはり緑色のタイプと同じである。こちらの方が薄目の切片を切り出したので、油浸対物100倍の像(l)は明瞭に写っている。
 この明褐色の子実体もマツバシャモジタケとしてよいのではあるまいか。子実体の色以外はこれといった違いは全くみつからない。

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