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日( )
2010年3月20日()
 
キクラゲを素材に:試薬調整
 
 わが家ではキクラゲやアラゲキクラゲを高頻度で調理するが、それらはほぼ100%屋外で採取したものだ。雨後の公園や緑地などでは膨潤してよく目立つので、遠目にもすぐわかる。採取したものはさっと水洗いしてそのまま乾燥させて保存する。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 3月も半ばを過ぎると、春めいて空気が湿っているのでキクラゲが一晩で乾くことはない。朝流しの隅をみると、放置されたキクラゲが胞子紋をいっぱい落としていた(a, b)。顕微鏡は先週オーバーホールを済ませたが、きのこ観察に必要な試薬類や染料がほとんど底をついていたので新たに調合した。試薬調整のためありふれたキクラゲのプレパラートを作った。
 胞子紋から削ぎ取った胞子をフロキシンとメルツァーで封入した(c)。染料も試薬も問題ない。実体鏡の調子を見るため、フニャフニャのキクラゲを切り出してフロキシンで染めた(d, e)。きのこ裏面の剛毛も3%KOHでバラした(f)。油浸オイルは使わなかった。

2010年3月19日(金)
 
海辺:後日のためのメモ
 
 千葉県内房の浜(a, b)では小さなケシボウズタケ属の小さな若い菌がいくつも出ていた(c, d, e)。1月末に出向いた時は新鮮な個体が少なかったが、今回はかなり新しい個体が発生していた。先に新鮮だったナガエノホコリタケはすっかりペシャンコに潰れミイラとなっていた(雑記2010.2.1)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 新たに発生していたのは、Tulostoma brumale (ケシボウズタケ)と T. kotlabae のようだ。いずれも柄は太くたっぷり水分も含んでいる。この連中の発生最盛期はいったいいつなのだろうか。たとえばナガエノホコリタケはほぼ通年発生するが、7月と11月に大発生をみている。ウネミケシボウズタケも真冬と梅雨の時期に多数発生を確認している。いずれも、いちど大発生をした地点では、その後はほとんどあるいは全く発生していない。
 すでに10何年間はみてきたが、発生する季節がいつなのかは未だに謎のままだ。

2010年3月18日(木)
 
カシタケが出てきた
 
 千葉県房総半島ではカシタケが出始めた。最盛期は1週間ほど先のようだが、すでにカサ径6cmほどに生育しやや乾燥気味になった個体もある(a)。落ち葉のふくらみを注意深く取り除いていくと、次々ときのこが出てきたが、多くはまだ若菌だ(b, c)。カサに落ち葉がこびりついて絵にならないきのこが多かった(d)。一方、紫モクレン樹下には菌核菌がでてきた(e, f)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 例年の傾向だと、房総半島にカシタケがでて1週間ほどすると茨城県鹿島灘にも見られるようになる。その頃には神奈川県では最盛期を迎える。日向の斜面にはチャムクエタケモドキの仲間やら、束生するキシメジ科らしいきのこ達が多数出始めた。

2010年3月17日(水)
 
指標生物 モクレン
 
 自宅周辺でモクレンの花がかなり開きだした。埼玉南部でモクレンが満開になると、トガリアミガサタケが銀杏樹下に顔を出す。一方、茨城県や千葉県ではスダジイ樹下にカシタケが現れる。さらに季節が進んで、ヒメモクレンの花が満開になるとアミガサタケが桜樹下に顔を出し、サクラの開花とともに成長する。ゴールデンウイークを迎え、フジザクラの花が開き出すと、富士山の二合目〜三合目ではシャグマアミガサタケやオオシャグマタケが最盛期を迎える。奥日光でも残雪の中でシャグマアミガサタケが最盛期を迎える。
 これまで、モクレン開花とトガリアミガサタケ発生はにあまりズレはなかった。都内某所では既に15cmほどに成長しているという。カシタケもきっと発生しはじめていることだろう。

2010年3月16日(火)
 
たかだか8年で・・・
 
 当サイト運営者は、あるきのこ会では「分子系統大嫌い」の最右翼のひとりで「分子進化学の成果を過小評価」し、「分子による系統樹には価値を認め」たがらないのだという。なぜそう見られているのかはよくわからないが、人の受け取り方とは面白いものだ。
 10年前も今も、基本的に分子解析は非常に有効な道具の一つであり、今や避けて通れない重要な技術と思っている。2004年3月頃の雑記でも、その有用性に触れて、簡単な系統樹作成法について記している。雑記にわざわざ書いたのは、後日のために失敗の経緯を記録しておくことが主眼だった。そこでは目先の操作だけを記して、背景や基礎理論、適用の限界、できあがった系統樹の評価などについては全く触れていない(雑記2004.3.15〜20)。
 2002年頃までは専門業者に依頼してきのこのデータを得ていた。当時は1件あたり万円の単位で非常に高価だったので、慎重に考えて依頼する数を絞らざるを得なかった。いまやびっくりするほど安価になり、DNAの採取も楽にできる環境が整ってきた。たかだか8年の間にあまりにも大きな変化に呆然とするばかりだ。
 2004年3月20日の雑記に「今後はアマチュアでも新種記載をするとか、新産種の記載内容を充実させようと思えば、DNA解析データは避けて通れない。時代がそれを要求する。」とある。

2010年3月15日(月)
 
顕微鏡の整備
 
 何年ぶりかで顕微鏡をオーバーホールしてもらった。半年くらい前から、メインの顕微鏡の「見え」が急激に悪くなってきたように感じていた。三眼鏡筒内部の汚れもひどくなり、このところゴミだらけの画像に悩まされてきた。早い時期に何とかせねばと思っていた。
 顕微鏡のメンテナンスを専門とする友人が、急に時間がとれたといって、整備道具一式を抱えて自宅まで来てくれた。分解整備の結果、幸いにも台座に組み込まれたミラーは無事、プリズムにも問題はなかった。接眼レンズはコーティングがかなり傷んでいるので遠からず交換の必要があるが、対物レンズはまだしばらくは使えそうなことも分かった。
 今朝は何年ぶりかで鮮明な視野を覗くことができた。昨日までの視野の画像とは雲泥の差だった。ただ、観察し撮影したのは、きのこではなく、コケと地衣だった。

2010年3月14日()
 
春まだ遠し
 
 今朝は暖かいが、この数週間、暑いほどの気温となったり、再び震えるような日々が続いたりと、このところ春はすっかり足踏み状態となっている。一度首を出し始めたきのこの幼菌も縮こまったままでいっこうに伸び上がってこない。相変わらずどこにでも見られるのは、ツバキ樹下の菌核菌、キクラゲの仲間、ウッドチップ上にヒトヨタケ類ばかりだ。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
 さいたま市のウッドチップ公園では、相変わらずシロフクロタケが元気な姿をみせてくれる(a, b)。アラゲキクラゲ(c)やキクラゲ、タマキクラゲは乾燥し始めている。なお、早い年ならトガリアミガサタケの幼菌が出始める時期だが、こちらは何の音沙汰もない。

2010年3月13日()
 
Illustrated Dictionary of Mycology
 
 このところよく菌類の基礎用語を再確認することが多くなっている。忘れているからというより、きちんと理解していなかったことで、論文などの趣旨がよく理解できないケースにしばしば遭遇するからだ。最もよく利用するのは Dictionary of the Fungi 10th.ed.(2008) だが、図版が少なく使われる語彙も非日常的英語が多く、大版の英英辞典との併用が必須となる。
 補助的に長いこと使ってきたのが Illustrated Dictionry of Mycology (2000)で、これは上で触れた "Dictionry" とは対照的に、中学〜高校英語の範囲で、菌学用語を多数の図版や写真を使って説明してある。すべての用語の語源にも触れていることも理解を容易にしてくれる。
 この辞書のことは6年ほど前にも「雑記」で触れているが(雑記2004.2.3)、おりしも今現在佐野書店ブログで紹介している。13,290円+送料は高価に思えるかもしれないが、内容を鑑みればとても安いと思う。なお、同日の雑記で触れている日本菌学会編「菌学用語集」は全面改定されて(電子版として?)出版されるという。編集作業は着々と進んでいるようだ。

2010年3月12日(金)
 
(フユノ)スギカワタケ
 
 深入りしないと書きつつ、昨日の雑記までに3度も「(フユノ)スギカワタケ」(青木仮称)のことを書いた。振り返ってみると、採取したものや乾燥標本の画像ばかり掲げて、フィールドでの姿を一度も示さなかった。そこで、屋外のスギの樹皮や木質部から出ている姿を示しておこう。確かにこのきのこ、3〜5月頃にスギ林を歩くといくらでも出ている。雨の後の新鮮な個体は美しい。特に若い菌は白くてヒダがなんとも芸術的だ。(e)はごくごく小さな幼菌。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 今の時期、関東近郊の林や公園には広義のキクラゲ仲間ばかりがよく目立つ。カサと柄をもったきのこは、このスギカワタケ、ニガクリタケ、エノキタケ、ヒラタケくらいしか見られない。

2010年3月11日(木)
 
ヒダに脈絡のあるきのこ (3)
 
 雑記2010.3.10に再度取り上げた「ヒダに脈絡のあるきのこ (2)」については、その前に「保育社図鑑からは属にまでもたどりつけなかった」、「これ以上深入りしないことにした」と書いた(同2010.3.8)。そのとおり、深入りするつもりはないが、関連情報をここに記しておこう。このきのこはスギさえあればどこにでも出るらしく、多くの人の目に触れてきたようだ。画像は、兵庫県のKさんから届いた詳細な観察ノートの一部(a, b)と高橋春樹氏のWEBサイトからの抜粋だ(c〜e)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 このきのこは、日本ではまだ未発表の "Gloiocephala" という属の新種で、高橋氏は、Singerの研究・翻訳の覚書の中で、スギカワタケ(青木仮称)=スギシロホウライタケ(池田仮称)とみなし、Gloiocephala sp. として扱っている(e)。長沢栄史先生は "Gloiocephala cryptomeriae Nagasawa (ad inter.)" という学名を暫定的につけているという。アマチュアの出番はなさそうだ。
 "The Agaricales in Modern Taxonomy" を読み込んでいれば、Gloiocephala属のきのこに思い及んだのだろう。保育社図鑑だけでは属までも落とせなかったのは当然の結果だった。
 Kさん、詳細な情報ありがとうございます。

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